第52話 五人で楽しいクリスマス会

クリスマス一週間前の金曜日の仕事終わり。


ユリちゃんと待ち合わせて、女子会の買い物をする。


お酒と、クリスマスケーキと、お菓子。料理も買ったら、持ってきた袋を使い切ってしまった。



「軽いものなら、私のバッグに入るから」



ユリちゃんがお菓子の袋を自分のバッグに入れる。


2人でふうふう言いながら帰る頃には、夜の七時ごろになっていた。



「こんばんは~」


聞き覚えがある声に目を向けると、マンションの前にトールとナツがいた。



「挨拶しておこうと思いまして。あとオートロックとか大変だろうから、玄関まで持ちます」



二人を見ながら、ユリちゃんは過保護~という顔をした。



「ありがとー」


「……どうも~」



2人に荷物を持ってもらう。


やっぱり人の彼氏だからかユリちゃんは緊張しているようだった。


ユリちゃんの肩から、荷物がたくさん入ったカバンがずり落ちる。



「あ」



カバンが落ちて、中からお菓子と電動マッサージ機が転がり落ちた。



「……」



ナツとトールが動きを止める。


あ、やばい。フォローしなくては。



「あ、それユリちゃんの武器。この前もソレで助けてもらった」


「そ、そうなんですよ!」


「ちょっと、荷物チェックしていい?」



ナツの笑顔が怖い。



「プライバシーがっ」



ユリちゃんの手からカバンをもぎ取り、トールに渡す



中を見たトールは、少し止まった後、にっこり笑った。



「今日は、うちでお泊り会しましょうか。大丈夫。予備のエアーベッドもありますし」



あ、だめそう。女子会ないなった。


なにを見たんだ。



「護身用なだけなんです~~~~~~!!!!」



命乞いのように騒ぐユリちゃんを見ながら、やっぱり電動マッサージ機を持ち歩くのはおかしいよねと思った。


たぶん、防犯に一種類は足りないって感じで他の種類もあったのかもしれない。


でも、ああなった二人を言い聞かせるのは私には無理だ。



「大丈夫だよ。ユリちゃんを襲うとかないから」


「わかるけど恋人達の家に泊まるなんて完全にアウェイ!!!」



確かに一人だけ部外者はきついかもしれない。



「シャッチョも呼ぶ?」


「呼んで来るなら呼んでもいいですよ」



クリスマス会を今からするけど来る?とメッセージアプリで連絡する。


シャッチョから行く行く~と軽い返事が来た。


住所と、会社の友達がいるから、名前を逆に読んでとちゃんと説明をして招待する。



なんか予定と違うけど、トール以外の友達がいるクリスマス会なんて久しぶりで嬉しい。


でも、ちょっと女の子同士のほわほわ可愛い女子会もちょっとやってみたかったから残念だ。









五時間後。


べろんべろんになってる四人を見ながら、クリスマス会ってこうだっけ?と思う。


最初はちゃんとクリスマス会だった。


シャッチョが大量に酒を買って差し入れてきたあたりから、ただの飲み会になった。



「だめですよ。三日は時間をかけないと」


「三日。ながいなぁ」


「心と同じなんですよ。だから時間をかけて解さないと」



ナツとユリちゃんが話しているけど、内容は最低だ。



「顔がアイドルなみなのに、変な子連れてきたなぁ」


「アイドルの方が私より酷いですよ」



隣にいるシャッチョは、酔っているにもかかわらずセクハラをしないので、ユリちゃんもリラックスしている。


リラックスしているのはいいけど、内容はやっぱり最低だ。



もうだめだ。こいつらはもうダメだと思う。



「ユーキ君しか救いがない。ユーキ君はかわいい、かわいい」



私の隣にいるトールは、酔って抱きつきながら、おかしなことを言っていた。


私はというと、治安を守るためにあまり酒を飲まずに様子を見ていた。


だけど、ここまで飲み続けていると、流石に酔っている。




「部長、なんでさっきからあっちゃんにユーキって言うんですか」


「だから、これはユーキ君。あれが上田さん」



私に抱きつきながら、トールはひょいひょいと私とナツを指さして説明している。


重大な暴露をしているけど、もうどうでもいいかなと思っていた。



「ぶつかったら魂が入れ替わったんだよね」



酔った顔でナツが説明する。



「じゃあ今の竹下さんのこの下品な中身が女の人ってこと? 最悪なんだけど」


「いや、同類じゃん!」



ユリちゃんとナツは気が合うようだ。


きっと中身は似ているのかもしれない。



「その節はありがとう。おかげで結婚できそう」


「私は失恋したんですけど!」



握手を求めるトールの手を、立ち上がったユリちゃんが叩き落とす。



「ユリちゃん。オレなんてどーぉ? ユリちゃんみたいな子も好きよ」


「好みは陰キャですけど、デートしてからですね。っていうかエクストラの人ってことしか知らないんだけど」



座ったまま見上げるシャッチョを、満更でもないという顔でユリちゃんは見る。



「シャッチョはエクストラの社長さんだよ~」


「え、そうなんだ」



説明すると、猫のようなユリちゃんの目が輝いた。現金な奴だ。


そして、こちらへゆっくりと歩いてくると、腰を下ろした。



「あっちゃん。あっちゃんは本当に前の竹下さん?」


「うん。でもユリちゃんとは友達でいたいと思ってるよ」



騙してごめんとか、いろいろ言った方がいいことはあるけど、言わなかった。


それでもユリちゃんは涙ぐんでこちらに飛びこんできた。



「私もぉ~~~~~~~~~~~~~~」



ユリちゃんに抱きつかれる。


ふにゃんという弾力に驚いてしまった。



(女の子に初めて抱きつかれたけど、柔らかいし、すごいな)


ちょっとドキドキしてしまった。




ふと、時計を見ると夜の一時越していた。



「ユリちゃん、そろそろ寝たほうがいいんじゃない?」


「うん。一緒に寝よ」



ユリちゃんの言葉に、ちょっとだけドキッとしてしまう。


まだ男の感覚が残ってるのかもなぁと思った。



「そこのエアーベッドに寝なよ。こっちの寝室のドアも全開放させとくから」



ナツはリビングに置いてあるエアーベッドを指さす。


ふと横を見ると、トールとシャッチョがもう寝ていた。



「なんかトールとシャッチョ寝てるんだけど」


「じゃあ、エアーベッドは寝てる人に譲って、起きてる方が寝室で寝たらいいんじゃないです?」



ユリちゃんの提案にナツは一秒止まった後、こちらを振り向く。



「俺も混じっていいの?」


「別に中が女らしいし。外は竹下さんだし」


「なんか持崎部長の重さを感じる……。まぁいいか、寝ようか」



ハァ、とため息をつくナツの背中を撫でる。


複雑な会話……と思いながら、三人で寝る準備をして寝た。


もしかしたら、この瞬間はある意味女子会かもしれない。

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