7丁目段下

雛形 絢尊

第1話

ここは横断歩道ではない。横断してはいけないのだ。

私は今、7丁目のコンビニにいる。この街道を挟んで向かいに坂道がある。

7丁目のコンビニの先にはバス停『7丁目段下』がある。それが故に坂を下る人々がこの場所を渡る。

ガードレールのないこの場所を。

つい最近も事故が起きた。死亡事故だ。

カーブを曲がった先にあるこの場所は魔のカーブと言われている。今年の半年だけでもう25人が亡くなっている。

横断禁止の張り紙があるのにも関わらず多くの事故が起きてしまうのだ。

何故だろうと思っているとカーブを曲がり、バスがやってきた。数人の男女が降りた。帰り道であろうか。

1人2人とその場所へ。

私は声を出した。

そう私は、交通安全課の一環としてこの場所で立ち、

事故を未然に防ぐという方針に従い、この場所に立っている。

車通りは少ないが、夜になるとやはり危ない。

私が「危ないです渡らないで」と告げるものの

男性は諦め、数十メートル先の横断歩道まで歩いたが、耳にイヤフォンをつけていた女性は私の声に気づかずその場所を渡った。

私は欠かさず誘導棒を振って女性に気づかせる。

渡り切った彼女はイヤフォンを外す、

「危ないので、今後は信号を渡ってください」と告げるとひとつ頷いて帰っていった。

ショートカットしたい気持ちもわかる。しかしながら命に関わることといい、私はその場所を再度見始めた。

するとどうだ何かが走っている。

なんだあれはと私は目を細めた。

子供か?子供なのか?よく見ると4人、2人がしゃがみ込み、2人が追いかけっこをしている。

駆けている、ただひたすらに。

私は即座に誘導棒を振った。

その場所は車が通る道路なのだ。

おい、危ないぞと私は近づいていく。

それでも彼らは遊び続けている。

一歩一歩、というよりも普段歩くように私は近づいていく。

こら、危ない。

そう思った時には遅かった。


私はいつの間にか入院していた。

奇跡的に軽い怪我で済んだようだ。骨を折ってしまったが、赤い誘導灯のおかげで少しばかり速度が抑えられたようだ。

私は警察失格だと考え、とても気落ちしていると、「お、目覚めましたか」と私の後輩である彼がすぐ近くで窓の外を見ていた。

「いや、あれは防ぎようがないですよ」

と彼は言った。何のことだかわからなかった。

「四人童(よにんわらし)見ちゃったんですよね」と。私は記憶を辿った。

確かに見てしまった。

「あれ、ほんと気をつけたほうがいいですよ。

あの時間帯にあの地域では噂になっていて、

タイミング、タイミングなんですけど子供がその街道に現れるんですよ。それを注意しようと何人も亡くなってるんですよ。上層部から言われませんでした?」

と言われたが、特に言われなかった。

「昔、あの場所に駄菓子屋があって、不慮の事故で亡くなった子供達なんですって。可哀想ですよね」と彼は言った。

「まあ、ほんと無事でよかったですよ、

僕も興味本位で行ってみようかな、なんて」と彼は笑いながら言った。ちょうど看護婦が来たので、彼は一言添えてその場を去った。

「お大事に」と。

私の見間違いでなければだ。

私は確かに見てしまった。

彼の去り際、追いかけるように4人の少年少女がついて回ってると。

看護師が近づいてくる前に、私は慌てて彼に電話をした。気をつけることと、子供のことを。

確かにあの時見た子どもたちだ。

なぜ、私が見たものなのに彼の元に憑いて回るのか。

着信音が鳴る。しかし彼は出ない。

私は冷や汗をかいていた。

気のせいではないかとも思い始め、肩の力を抜いた。特に、あれが事故の原因だとも考えられない。

確かに考えられるが、一概には言えないだろうと。私は何故か自分を納得させ、落ち着かせた。


「次は、7丁目段下、7丁目段下」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7丁目段下 雛形 絢尊 @kensonhina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画