二章 バレーボール
「次も同じ班だったらいいね」
吾妻さんと一緒に帰った次の日、三限は体育の授業で体育館にはバレーボールを選択した生徒が集まっている。
今回は体育教師が考えも無しに決めた班でミニゲームを行うらしい。
班決めに不満があり気怠そうな生徒が多い中、運よく莉乃さんと同じ班になり一人だけ内心で欣喜雀躍している。
班ごとの集合場所にいくと、体操着姿の莉乃さんが小さく手を振ってくれる。
「新田くん。よろしくー」
「よろしく莉乃さん」
喜悦が顔に出ないように気を付けながら言葉を返す。
莉乃さんがちょっと助かったような笑みを浮かべた。
「新田くん以外、喋ったこともない人ばっかりだよー」
「あー。そうかもね」
同じ班のメンバーを見回すと、莉乃さんとはクラスの違うあまり運動が得意そうではない男子ばかり。
女子ならまだしも別クラスの男子なんて接点がない限り会話する機会もないだろう。
俺も違うクラスだが一年の時に下校する際に昇降口でよく一緒になったことがきっかけで莉乃さんとは話すようになった。
もしも下校の時間がズレていたら莉乃さんと喋る仲にはならなかっただろうと思うと、自分の運の良さにありがたさを感じる。
「ねえ、この中にバレーの経験者いる?」
莉乃さんが班のメンバー全員を見ながら問いかけた。
突然の女子からの質問に他のメンバーはたじろぎつつも、バラバラのタイミングで首を横に振ったり、無いです、と答えた。
「そっかー。あんまり強くなさそうだね、この班」
残念そうに呟く。
そんなこと言わない方が良いと思うけどな。
案の定、俺と莉乃さん以外のメンバーは不安そうな顔になる。
他のメンバーの表情を見てか、莉乃さんは穏やかに笑った。
「わたしも経験者じゃないし、気ままにやろうよ。サボらなければ先生たちも悪い評価はしないはずだしね」
莉乃さんが勝ち負けに拘っていないことがわかったからか、他のメンバーの表情に少しだけ安心が宿った。
莉乃さんには悪いけど、内申には響かないとしても試合をするからには勝ちたい。
俺が静かに闘志を燃やしていると、体育教師が舞台の前で集合をかけた。
「行こ、新田くん」
俺を促して莉乃さんが真っ先に舞台の前に歩いていく。
莉乃さんの後ろ姿を眺めながら、恰好良いところ見せようと密かに誓った。
体育教師の抽選で試合の組み合わせが決まり、一ゲーム十点マッチでコートごとに班をローテーションさせて授業は進められた。
試合終了を告げるホイッスルの音。
10対2の得点表示。
三回も試合をしたが、俺の班は一度も五点以上取れずに惨敗した。
この試合もこちらの二点は相手にサーブミスによるもので、一回たりとも相手のコートにボールを落とせていない。
「新田くん。悔しい?」
コートの都合上、試合のない時間が出来たので体育館の隅の壁にもたれて座り莉乃さんと試合を観戦している。
体育とはいえやるからには勝ちたい、と答えると、莉乃さんは俺の背中を二回慰めるように叩いた。
「新田くんが落ち込むことないよ。班の中では一番上手かったから」
「……ありがと」
お世辞だとは思うが、好きな人に慰められるのは気恥ずかしい。
莉乃さんは俺の背中から手を退かし、現在行っている試合に目を向ける。
「男子ってやっぱり勝負事で負けると悔しいんだね」
「別に男子全員がそういうわけじゃないでしょ」
「新田くん以外の班の男子も露骨じゃなかったけどちょっと悔しそうにしてた。気ままにやろうよって言ったのに、本当に気ままなのあたしだけだったよ」
申し訳なさそうに言う。
気ままでいいんですよ、と返しておいた。
体育の授業は本気になって取り組むものではない。莉乃さんの態度は何も間違っちゃいない。
圧倒的な点差をつけて試合が終わると、体育教師が舞台前に集まるよう指示を出した。
今度は男子と女子で別れるらしい。
男女が別々に集まり始めると、莉乃さんが立ちあがる。
「じゃあ新田くん。行ってくる」
「それじゃ」
莉乃さんに応えながら俺も腰を上げた。
歩き出したところで莉乃さんが笑顔で僕に告げる。
「次も同じ班だったらいいね」
「……はい」
「じゃあね」
言い残すと女子たちの列へ向かっていった。
同じ班だったらいいね、と言われて嬉しくないはずがない。
心躍るような気持ちを抑えて俺は男子の列に加わった。
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