異能《仲良し》を持った可愛い娘の異世界学園ライフ!

九十九一

プロローグ:1 楽しくなる日々の前日

 むかーしむかし……というほどではないが、とあるのどかな村に、一つの家族の姿があった。


「おとーさん、おかーさん! みてみて、こんなのもらったのですっ!」

「ははっ、随分と素敵な贈り物だね。これは、首飾りかな?」

「んーと、おまもり? っていってたのです!」

「あらあら、それなら大事にしないとね」


 その一家は、頭頂部にぴょこぴょこと動く猫耳と、ふりふりと動く尻尾を生やしていた。

 真っ白で長い髪、可愛らしい顔に、可愛らしいワンピースを着た子供は、見る角度によって色が七色に変化する不思議な石が付けられている首飾りを持って、父親と母親らしき人物に嬉しそうに見せていた。


「うんっ!」


 嬉しそうに話す子供に、母親は優しく微笑みながら頭を優しくなでる。

 すると、子供はえへへぇ、と目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべた。


「それにしても、シロはすぐに誰かと仲良くなるね」

「そーかな? でも、しろはだれかといっしょにあそぶのがだいすきなのです!」

「ふふ、いいことね。いい? シロ。その気持ちを忘れないでね? その気持ちを忘れずに持っていれば、きっと、色々な人たちが助けてくれるわ」

「はいなのです!」


 シロと呼ばれた子供は嬉しそうな返事をした。

 その光景は、どこにでもある、ごくごく普通の幸せな一家のワンシーンだった。



「ん、んにゅぅ…………夢、なのです……」


 とある一軒家の寝室。

 窓から差し込む日の光で目を覚ましたのは、猫耳に猫尻尾が生えた一人の子供。


 腰元まで伸びた処女雪のように真っ白な髪に、くりくりっとした大きく蒼い瞳。小さな桜色の唇という、可愛らしい顔立ちに、華奢で丸っこく小さな体躯をした子供である。


 その可愛らしい子供――シロは目を覚ますと、眠っている間に見ていた光景を思い出し、夢だと悟ると目に見えて落胆した。

 しかし、ぱんっ! と頬を叩くと、しょぼんとした顔から一転、元気いっぱいな笑顔に変わる。


「今日も一日、がんばるのですっ!」


 ふんすっ、と気合を入れるシロ。

 今の頬叩きで目を覚ましたシロは、ベッドから起き上がると、鼻歌交じりに朝食とお弁当を作り、それを食べて、着替えて軽く身支度を整えてから家を出た。


「おはようなのです!」


 家を出ると、シロの自宅の近くに存在する八百屋が、店の準備をしていた。

 その姿を見つけたシロは、天真爛漫な笑顔と共に、元気いっぱいな挨拶をする。


「おっ、シロちゃん、おはよう! 今日も森に行くのかい?」


 シロに挨拶をされた八百屋の男(こちらも猫耳と猫尻尾が生えている)は、シロを見るなり顔を綻ばせて挨拶を返した。


「はいなのですっ! 今日も遊びに行ってくるのです!」

「ははっ、そうかい。気をつけてな! あ、これ持っていきな!」

「うにゃにゃっ、わぁ、立派なりんごなのです! おじさん、ありがとうなのです! じゃあ、行ってくるです!」

「あぁ、気を付けてな~」


 リンゴを貰うと、シロはたたたっ! と軽やかに駆け出す。

 その道中、八百屋の男と同じように出会う者全員と元気いっぱいに挨拶を交わし、何かを貰ったシロは目的地である森へと入って行く。


「今日もシロが来たのですよー!」


 森に入り、少し開けたところへ足を踏み入れると、シロは誰もいないはずの空間に向かってそう声を出す。

 すると、きらきらとした光が辺り一帯に降り注ぎ、やがて五センチくらいの小さな球が十数個ほど出現した。

 小さな球たちは、シロの近くに寄っていくと、楽し気な声を出して遊びに誘う。


《シロだ!》

《今日もシロが来たー》

《何してあそぶ? 何してあそぶ?》

《かくれんぼがいいな》

《鬼ごっこがいい!》

《えー、鬼ごっこ!》

《かくれんぼ!》


「むぅっ! けんかはダメなのですよ! 順番にやればいいのです!」

 

「もちろんなのです!」


 大変仲が良さそうな様子のシロと喋る球たち。

 シロたちは楽しく遊ぶ。


 シロが小さな球を追いかけて捕まえたり、逆にシロが隠れて、場所がバレてしまったりなどなど、心底楽しそうにシロと球たちは遊んでいた。

 途中作ってきたお弁当を食べたり、八百屋の男からもらったリンゴを食べたり、球たちが森で採ってきた不思議な果物を食べたりと、のどかな時間も存在した。


 お昼を食べて、お腹いっぱいになったシロが次にとった行動は……


「くぅ……すぅ……にゃふぅ…………」


 お昼寝である。


 シロが呼びかけた場所は、丁度木々がなく、陽の光が当たっており、かなり暖かいのである。

 そして、地面はふかふかの芝生が生えており、シロはその芝生で丸まってお昼寝するのが大好きなのだ。

 もちろん、こんなに可愛らしい子供が無防備に眠っていたら色々心配になるかもしれないが、そこは全く問題なかった。


 というのも、


《シロはぼくたちが守らなきゃ!》

《悪い人が来ても追い返す!》

《魔物もね!》


 小さな球たちがシロを護っているからである。

 たかが球に何ができる? とお思いかもしれないが、この球たちはとても強いのである。


 まあそもそも、シロを襲おうなんて考える存在は、この辺りには存在しないのだが……。


 そうして、球たちに護られながらのお昼寝を終えたシロは、起き上がって大きく伸びをすると勢いよく立ち上がる。


「じゃあ、シロはもう帰るのです!」

《もう帰っちゃうの?》

《もっとあそぼー?》

《あそびたりないよー》

「にゃぅぅ……気持ちはうれしいのですけど、シロもそろそろ帰らないとなのです。暗い時に外にいるのはあぶないって言われているのです」


 もっと遊びたいと言ってくる球たちに、シロも残念そうに耳と尻尾をしゅんとさせるも、帰らないといけないと告げる。


《ぼくたちが護るよ?》

《うんうん、シロ護るー》

「でもダメなのです。村のみんなに心配をかけるのはまちがっているのです。それに、明日になればまた会えるのですよ!」

《わかったー……じゃあ、また明日もあそぼ!》

「はいなのです! 約束なのです!」


 そう約束をして、シロは森を後にした。

 森を出たシロは家に帰る途中にある酒場に入る。


「こんばんはなのです!」

「おぉ、来たかいシロちゃん! 今日は何食べる?」


 元気よく酒場に入ると、そこには様々な動物の特徴を持った大人たちが酒を飲んだり、料理を食べたり、大笑いしながら話していたりするという光景が広がっていた。

 シロは酒場に入るなり、中にいる大人たちから歓迎を受け、店主のおばちゃん(犬耳と犬の尻尾を生やしている)に何を食べるか訊かれていた。


 シロはまっすぐ歩いていき、カウンター席に座ると、


「お魚!」


 と元気よく注文した。


「はいよ、魚ね。そうだねぇ……今日は、フライを試してみようか」

「ふらい、です?」

「あぁそうさ。少し前にこっちの世界に持ち込まれた調理技術みたいでね。なんでも、たっぷりの油で食材を揚げる料理みたいさ」

「なるほど、そんな料理が……!」


 酒場のおばちゃんが話す調理法に、シロは興味を惹かれた。


「おや、シロちゃんも気になるかい?」

「はいなのです! 料理は楽しいですから! 教えてほしいのです!」

「ははは、本当、シロちゃんはしっかり者だねぇ。あの二人も、今のシロちゃんを見たら喜ぶよ」

「あはは、そうだといいのです。もう、あれから六年もたってるですから」


 おばちゃんの言葉に、シロは少しだけ苦笑いを浮かべながらそう返した。


「……さて、しんみりとした話は無しだ。ささっと作っちまうから、待っててね! あ、これ、向こうの果物で作ったジュース」

「わぁっ、ありがとうなのです!」


 裏の厨房に引っ込む直前で、おばちゃんはやや白く濁った飲み物が入ったコップをシロの前に置いていった。

 シロは嬉しそうにストローが刺さったコップを両手で持つと、ちゅー、と飲み物を吸う。

 すると、やや酸味が強めな甘酸っぱい爽やかな味が口いっぱいに広がった。

 果肉が少し残っているのか、つぶつぶとしたものが入っているのも、なんだか楽しい。


「初めて飲んだのです。これは何を使っているのでしょうか?」


 初めての味に興味津々になり、うーんと材料を想像してみる。

 しかし、どんな果物を使っているのかわからず、結局うんうん唸っている間におばちゃんが料理を持って戻ってきた。


「はい、おまちどお!」

「わ、不思議な見た目なのです! それに……すんすん、いい匂いなのです」


 シロの目の前に置かれたのは、見事なきつね色をした三角形の形をした何かだった。

 魚の尻尾らしきものが見え、その横には白いソースのような何かが添えられていた。

 付け合わせには千切りにしたキャベツという、数十年ほど前にこの世界で広まった葉物の野菜に、パン、それから野菜のスープが載せられていた。


「じゃ、熱いうちに食べてね」

「はいなのです! いただきますなのですっ!」


 いつの間にかこの世界に広まっていた食前の祈りを口にすると、シロは早速と言わんばかりにメインディッシュである、きつね色の物体をフォークで突き刺すと、小さな口で詰められるだけ頬張った。


 最初に感じるのはざくっとした小気味いい食感。

 その後に来るのは、ふわりとした魚の食感と淡白ながらも旨味のある味だった。


「ん~~~~っっ!」


 口に含んだ瞬間にシロは大きく目を見開き、足をバタつかせた。

 そして、ごくん、と嚥下すると、


「おいしいのです! このお魚料理、とってもおいしいのです!」


 美味しいと大きな声で言ったのだった。

 それを見たおばちゃんや、周囲にいた大人たちもなんともほっこりする物を見たと言わんばかりに、暖かい笑みを浮かべていた。


「そうかいそうかい。それはよかったよ。あ、その料理だけどね、そっちの白いソースに付けるともっと美味しいらしいよ?」

「もっと、なのですか……!?」

「あぁ、もっとさ」


 おばちゃんからもたらされた言葉に、シロは戦慄した。


 何もつけずとも美味しいこの料理が、さらに美味しくなる……!?


 と。


 そして、ごくり、と生唾を飲み込むと、少しだけ震える手で白いソースに魚を付け、恐る恐る口に入れる。

 その次の瞬間。


「うにゃぁぁぁぁっ! お、おいしいのです!? こ、これっ、とってもとっても……と~~~っても! おいしいのです!!」


 さっき以上の驚きをもって、美味しさを表現していた。

 それはもう、目はきらっきら! 足はバッタバタ! 尻尾はぶんぶんっ! といった様相だ。


「おばちゃん、これはなんなのですか!?」

「あぁ、これは、タルタルソース? っていうものらしくてね、なんでも揚げ物に合う魔法のソースらしいよ?」

「たるたるそーす……! シロ、これ作れるようになりたいです!」

「ん? こっちの魚料理はいいのかい?」

「これも覚えるのです! シロ、おばちゃんが作れる料理、全部おぼえたいのです!」

「ははは! シロちゃんは本当に料理が大好きだねぇ。あぁ、いいとも。いつでも教えるよ」

「わーい! おばちゃん、ありがとうなのです!」

「いいってことさね。それはそれとして、あんまり話してると、料理、冷めちまうよ?」

「はっ! それはダメなのです! 料理はあっつあつがいいのです! この料理は特に! はむはむっ!」


 感情表現豊かにころころと表情を変えたり、言葉を発したりする姿は、酒場内にいる者たち全員を和ませた。

 シロはこの村の者たち全員から愛されているのである。



「はふぅ~、まんぷくなのです……まんぞくなのです……」


 あれからちゃっかりお代わりもして、お腹いっぱいに美味しい夕飯をいただいたシロは家に帰るなり、軽く水浴びを済ませてからベッドに寝転んだ。


 家の中はしーんとしており、シロ以外の生活音は何一つない。

 あるのは、シロから発される呼吸音や、身じろぎする度に鳴る、ベッドの軋む音や衣擦れの音だけだ。


 家の中は既に灯りが落とされ真っ暗。

 シロはベッドに仰向けになると、ぼーっと天井を見つめながらなんとなしに呟く。


「……寂しいのです……」


 と。


 ある時を境に、シロは一人で暮らすようになった。

 村では他の者たちから愛され、森ではあの小さな球たちと戯れ、楽しそうに暮らしているシロだが、家では独りぼっちだ。


 それに、シロはまだまだ子供であり、歳も十一だ。

 本来の子供であれば、若干の反抗期が来る頃ではあるのだが……シロにはそう言った相手が存在しておらず、最後に甘えたのはもう六年も前のことだ。

 それ以来、シロは一人で生活している。


「……村のみんなは優しいですし、森のみんなも仲良くしてくれます……でも、シロには――……」


 ――家族がいないのです――


 小さく呟いたその言葉は、スゥ――と、暗い部屋の中に溶け込んでいった気がした。


「……もうねるのです。明日も約束がありますし!」


 しかし、シロは強い子供であった。

 いないものをいつまでも求めていたって二人は喜んでくれないと思っていたし、何より今も今で自分を大切にしてくれる人たちはいるから。


 でも、だけど、時折寂しくなってしまうのだ。

 やっぱり、誰かと一緒に暮らしたい。

 そう思うのは、おかしくないことであろう。



 そしてその日の翌日。

 シロは、運命的な出会いをすることになる。


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 初めましての方は初めまして、別作品から来た人はどうも! 九十九一と申します!

 本作は実は過去に一度だけ投稿したものの色々あって削除した作品です。

 まあ、理由はクソしょうもないものです。

 再び投稿に至った経緯は……まあ、ちょっと、今し方メインで書いてる小説の投稿が平日は難しくなったので、その繋ぎ的な意味合いで投稿しようかなと。折角ある程度かけてるんだし、その方がいいだろう! という考えのもと投稿されております。

 内容としてはまぁ、可愛い娘が学園で楽しく過ごす、みたいな感じの話で、ゴリゴリのファンタジーです。まあ、あらすじに大体ありますけどね!

 というわけで、しばらくは投稿されますので、読んでいただければ幸いです!

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