11


「私はいいや。一旦大学戻んなきゃだし。」


大学から二駅の距離にあるこの居酒屋は私の家とは反対方向で、行きは皆で電車に乗り、私は自転車を大学に置いてきたままだった。


「えー!行こうよぉ〜うめ〜」


「駄目。自転車ないと明日大学来れないもん」


「いいじゃん。歩けば〜」


「嫌です」


お酒のせいか、だいぶ甘えたになってしまっている綾ちゃんに首を横に振ったところで、頼んでいた飲み物が届いた。



ビールと、カルピスと…


「あれ?なにこれ。綾ちゃん頼んだ?」


「それ私じゃないよ。うめのでしょ?さっき注文入ってたもん」


「え?いつー…」


思い返して気づいた。


綾ちゃんが私の背中に乗りかかってきたとき。多分あのとき間違えて押してしまったんだ。


「えー、どうするの。綾ちゃん責任持って飲んでよ」


「それ、なにー?」


「わかんない。なんかジュースみたいだな〜って思って見てたから…えーと、これだ。スクリュードライバー?だって。なんか強そうな名前」


パネルの写真と同じ、カットオレンジとミントがのっている。ぱっと見ただのオレンジジュースのよう。


「甘いやつじゃん。私甘いお酒駄目なんだよね。うめ飲みなよ。それ甘くて飲みやすいと思うし」


「え」



その言葉に少しの好奇心が芽を出す。



「いやでも未成年だし」


「真面目〜。今日ぐらいいいじゃん。ジュースみたいなもんだって。一杯だけ飲んでみなよ」



幼いころ、お父さんが飲んでいたビールをこっそり飲んだことがある。仕事で帰りの遅いお父さんだけ夕食の時間が別で、美味しそうにビールを飲む姿をいつもリビングから見ていた。


あんなに幸せそうに飲むもんだから、あれはきっとものすごく美味しいんだと思い、ワクワクしながらぐいっとお父さんの真似して飲んだのを覚えている。



その数秒後、全部吐いたのも…。あれ以来、私の中でお酒=苦い、不味いの方程式が出来上がってしまっていた。


けれど実は、周りの皆が同じように美味しそうに飲む姿を見て、成人はしてないけど、あの頃より大人になった今なら飲めるんじゃないかって、少し期待もしていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る