第12話

この様子だと、ちょうど俺と出会った頃に百合は記念すべき20歳の誕生日を迎えたはずだけど、それも忘れていたはず。



女の子がそれを忘れるなんて‥




その時点でどれだけ百合が必死に生きてきたかが分かった。だから、そもそも人に誕生日を聞くなんて発想自体百合にはないんだ。




何をきっかけで自分の誕生日を思い出したかは分からないけど‥それで俺の免許証を見つけて、ということだろう。



「私‥颯の、大好きな人の誕生日も知らなかった‥。だからせめて誕生日プレゼントはあげたい!」




涙を腕でゴシゴシと拭くと真っ直ぐな瞳で見つめてきた。




「ありがとな。でも、俺は百合がいれば満足だ。百合がいれば何もいらねぇって前にも言っただろ?」




「‥そうだけど。でもね、気持ちを形にしたい、颯が好きっていうことを少しでも形にしたい」



左手薬指にはまる指輪。毎日つけてくれるようになったその指輪に無意識だろう。百合はそっと触れていた。




それにしても…

嬉しいこと言ってくれるようになったな。



しょうがねぇか。そう思ってやっぱり俺が折れようとしたんだ。



なのに‥

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