オーロラの空耳が聞こえる席でオチャしましょ
dede
首から下げてる「No Vacancy」の札
「大輝くん。さっきのアレ、ナゼだか分かりました?」
「アレ?」
「ほら、さっき観た映画で宿泊先を探してるのにホテルの前を通り過ぎましたよね?なんでかなって」
私たちは映画館から少し歩いたところにある公園で先ほどまで観ていた映画の感想を話していました。喫茶店でも良かったのですが、良い天気の割に涼しかったので公園にしましょうとなったのです。二人並んで木陰のベンチに座っています。スカートが汚れないようにと大輝くんはハンカチを敷いてくれました。
「ああ。アレはね、ホテルのドアに『No Vacancy』ってあったからだよ」
「どういう意味ですか?」
「『満席』ってこと。海外のモーテルだとああやって知らせるんだよ」
「やっぱり大輝くん、物知りですよね」
「そんな事ないよ」
「そんな事あります。頭いいですし。あーあ。私も同じ高校に入りたかったです。すいません、ずっと教えて頂いたのに」
「梨早ちゃんは頑張ったよ。入学した女子高だって元の偏差値よりだいぶ上じゃないか」
「はい。でもやはり1年、大輝くんやお姉ちゃんと同じ学校に通いたかったです」
私が中学三年の時に、私に許嫁が出来ました。
私は当時茶道教室に通っていました。そこにたまたまいらしてた松下さん(大輝くんのお父さん)にちょっとしたご縁でお茶を振舞いました。すると大輝くんのお父さんは妙に私の事を気に入られて、是非息子の婚約者にとトントンと話は進められていきました。
人生、何が起こるか分からないものです。しかし、本当に驚くべき出来事はそこからでした。
松下さんは良い方でしたがお会いした事もないその息子さんと婚約など、言われても困ります。ですから一度お会いして顔だけ立てて、ご縁がありませんでしたとお断りするつもりでいました。ところがです。
「!!」
雷に打たれたようでした。男性に、それも今しがたお会いしたばかりの方にこんなに激しい感情を抱くとは思いもよりませんでした。この方が私の婚約者だと思うと、嬉しくて仕方がありません。一目惚れだったのです。きっとこのご縁は運命だったのです。運命という言葉をこの時ほど強く感じた事はありませんでした。
その晩、お姉ちゃんにその話をすると大層驚かれていました。後日、お姉ちゃんから大輝くんはお姉ちゃんのクラスメイトなのだと教えて貰いました。
「大輝くんがお姉ちゃんと同じクラスだなんてすごい偶然」
でもきっとこれも偶然ではないのです。運命だったのです。
「そういえば、お姉ちゃんから聞きました。雷の話をされたとか」
「ああ、うん。雷が通った大気なら、プラズマ状態の道を通って恋人に声を届けられるんじゃないかなって」
「難しい理屈の事はわかりません。でも、お姉ちゃんの気持ちの方はよく分かります」
「どういうこと?」
「だって好きな相手には、いつだって生の声を直接聞きたいですし直接伝えたいじゃないですか」
そう言った後恥ずかしくなった私は大輝くんから目を逸らします。
「……なるほど」
「お姉ちゃんの考えてる事はいつも面白くてロマンチックですよね。でも私、プラズマってよく分からないんですよね。雷でプラズマが発生するんですか?」
「雷がプラズマなんだよ」
「よく分かりません。プラズマってそんなによくあるモノなんですか?」
「よく……かは分からないけど。他にプラズマの自然現象だとオーロラもそうだね」
「オーロラも好きです。光の帯が揺れる様子が神秘的ですよね。いつか見てみたいです」
「その時は耳も澄ましてみるといいよ」
「何か聞こえるんですか?」
「上空何千kmでの出来事だから地上まで音は届かない筈なのにね、昔から音が聞こえるって伝承が残ってるんだよ。
機械で測定しても記録ができないんだけど、何割かの人は聞こえるってやっぱり答えるんだ。梨早ちゃんには、聞こえるかな?」
「……聞いてみたいです」
今日は大輝くんとお姉ちゃんの高校の文化祭の日です。
お姉ちゃんは憂鬱そうでしたが、大輝さんやお姉ちゃんと一緒に文化祭を回りたいのです。私は楽しみにしていました。幸い、大輝さんとは一緒に軽音部のライブや演劇部の舞台を一緒に見て回れました。しかしお姉ちゃんと連絡が取れません。きっとどちらかでサボっているのでしょうが探しても見つからないのです。仕方なく一人でとあるクラスの喫茶店に入りました。私はウェイターの恰好をした生徒に声を掛けます。
「すいません、この手作りジンジャーエールを一つ……」
と、注文しかけたところで大輝くんから連絡が入りました。注文をキャンセルして急いで大輝くんに会いに行きます。
そうして私は婚約破棄されました。
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