第10話
「なんですって?エリスが隣国に出入りしていた証拠が見つかった??」
オクトは開口一番、驚くようにそう言葉を発した。
「意外だったか?しかしどうやら本当の事らしい。確かな情報筋からの話だからな」
そんなオクトが今話を行っている相手は、オクトとは旧知の仲であるシェルトだ。
シェルトはオクトとは同い年であり、現在は王宮に仕える使用人の一人として仕事を行っている。
「隣国って言えば、最近新しい王が即位したって話題だよな?それに伴って王の周りの人物たちも改められていってるって話だが、しかしそれとエリスと一体何の関係があるのか…」
「さぁな。ただこの一件は、どうやらこの国だけの話にとどまらない話みたいだな」
王宮に頻繁に出入りするシェルトの元には、大小さまざまなうわさ話が毎日届けられる。
それはエリスの事とて例外ではなく、王宮の中に置いてはいまだにエリスの情報は非常に重要なものとして扱われており、大いに関心を集める内容であった。
「しかし、それだけじゃ情報が少なすぎるな…。仮にエリスが隣国の王室とつながりを持っていたとして、だからどうだって話になってしまう。今エリスが隣国にいる保証なんてないわけだし、なんなら両者はそもそも無関係なのかもしれない…。あまり時間もないというのに、これは難しいことになったな…」
一日もはやくセレーナを王室から連れ出すべく、この一件の解決を急ぎたいオクト。
しかし現実は彼が思っていた以上に複雑な様相を呈しており、早期の解決は中々に難しい事のように見て取れた。
「本物のエリスさえ見つけ出せれば、セレーナの事は簡単に救い出せるはずなんだ…。シュノードがエリスへの執着心を忘れられずにいるからこそ、セレーナは身代わりを強制されている。しかし本物のエリスがその姿を現したなら、もはやセレーナにこだわる理由は何もなくなる。…あとはエリスがどこにいるかだけなんだが…」
それは、セレーナを救い出すべくオクトが設計した計画だった。
オクトはその内容に大きな自信を持っており、達成されたなら間違いなくセレーナの事を取り戻すことができると確信を持っていた。
…しかし、そんなオクトに向かってシェルトはやや複雑そうな表情を浮かべながらこう言葉を発した。
「…おいオクト、お前気をつけろよ?」
「な、なんだよ、急にシリアスになって…。もうシュノード第一王子と事を構える
覚悟はできてるんだ。今更お前に何を言われたって考えを変えるつもりはないぜ?」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「……?」
シェルトの言葉の意図が見えない様子のオクト。
そんなオクトに対し、シェルトはやや神妙な表情を浮かべつつ、やや声の大きさを小さくしながらこう言葉をかけた。
「…これは内々の話だが、最近シュノード様の様子がおかしいらしい」
「おいおい、おかしいのは今に始まったことじゃないだろう。無関係の女の子にいなくなった婚約者を演じさせるようなことをしてる時点で、普通じゃないんだからな」
「もちろんそれはそうなんだが、ここ最近はさらに妙な雰囲気になってるって話だ」
「……どういうことだ?」
オクトは自身の体を少し前に出し、シェルトとの距離を詰める。
「これは聞いた話なんだが、どうやら最近のシュノード様は今のエリスの事を溺愛しつつあるらしいんだよ」
「……は?どういう意味だ?」
「元々は身代わりの婚約者だったわけだが、いつからかシュノード様は今のエリスこそが自分の理想とする存在であると考えるようになったらしい…。その証拠に、今までなら絶対に食いついていた旧エリスの情報に、全く耳を貸さなくなったって話だ」
「……」
「まぁもちろん、ただの気まぐれって話もあるが…。だが、俺もこの間廊下でシュノード様とすれ違った時、その顔を見た。あれはもう、完全に病んでいるというか、異様というか、そういう雰囲気だった…」
「……」
それは、オクトにとって非常にうれしくない知らせだった。
なぜなら、もしもシュノードが今のエリスを好きになり始めているのなら、この先本物のエリスが戻ってきたところでその心を改めるとは限らなくなるからだ。
「…だから、お前、気をつけろよ?もちろん可能な限り俺も協力はするが、もしかしたら急がないと時間切れになるかもしれないんだからな」
「…あぁ、分かったよ」
2人が共有した新情報は非常に少ないものだった。
しかしその内容は危機感を抱かせるには十分なものであり、特にオクトは、セレーナの事を救い出せるまでに残された時間はあまり長くないであろうことを悟らされることとなったのであった…。
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