本編の羽無《はなし》
第一羽
Ⅰ
「………参ったな」
私は困り果てて、ポツリと呟く。
「一体全体………ここは、どこだろう?」
地図は持っているのだが、どこをどう間違えたのか、ここがどこなのかさえさっぱりわからない。
目印になるようなものもなく、似たようなところばかりでどっちに行けばいいのかさえさっぱりわからない。
ほとほと自分の方向音痴っぷりに呆れる。新しい場所は特に迷いやすい。
「どうしようかな……」
まあ、立ち止まっていても仕方がない。
人影も全くないのだから、助けを求めることもできないのだし……
大通りに出れば、なんとかなるだろう。
それから1時間後。
「……………」
………甘かった。
私の認識が甘かった。
歩き回ったら余計迷った。
下手したら地図の外から出てしまったんじゃないか?
いや、まだそれはないか……
地図の外に出てしまえば、そこはまた違う国だ。
この………入り組んでいるところにまだいるのだろう。
そのどこかはさっぱりだが……
「おい!そこのお前!!」
「!!」
唐突に声をかけられ、私は救われた思いで振り返った。
そこには小さな少年が立っていた。
年のころは、10歳くらいだろうか。
兎にも角にも……
(地元の子に違いない――――――!!!)
これで助かった!!!
「こんなところで何しているんだ!!ここは――――――っ!?」
「お願いします!!道を教えてください!!!」
私はその子の肩を掴んで懇願した。
この際子供だろうが、関係ない。
ここから出られればなんでもいいのだから。
Ⅱ
数分後、
「助かったよ、ありがとう」
「別にいいけどよ………」
少年はブツブツ文句を言いながらも、案内してくれる。
根はとても優しい子なのだろう。
「ちゃんと通行料は払うんだろうな?」
「もちろん」
彼の説明によると、ここは彼の所属するグループ(名前はよくわからなかった)の縄張りらしく、通行料がいるらしい。
まあ、くだらないといえばくだらないのだが、そのくらいで道案内もしてもらえて、平和的に済むなら構わない。
「案内料ももらうぞ」
「オッケー」
「…………」
あまりにもあっさりと私が合意するものだから、何かあるんじゃないかと少年は怪しんでいるが、正直私は気にしていない。
「ほら、大通りだ」
「おお!ありがとう!!」
賑わう通りに出て、私はようやく安堵する。
「あ、じゃあ……ってあれ?」
お金を払おうと振り向いた、そのときだった。
「!」
ゾワッと後ろ髪が逆立つ。
私はバッと振り返った。
(この、感じは………)
覚えのある暗く、粘ついた気配。
「あ、おい?!」
少年の驚いたような声に構わず、私は元来た道を駆け足で戻った。
Ⅲ
「!」
気配を追って、奥へと進むと、揺らめく黒い何かを見つけた。
それは人々の心を惑わし、悪存在。時には人間を殺すこともある。
「…………」
私はばさりと人間には見えない翼を広げる。
「なんだ、生まれたばかりかお前」
そこから剣を取り出し、言い終わるや否や、私はソイツに向かって最早慣れた手つきで剣を振るう。
剣を翼に納めると、ずるりとソレの首が落ちる。
塵となって消えていく様を見送って、くるりと振り返る。
物陰で小さな影がびくりと身を縮める。
「なんなんだよ、お前……なんだったんだよ、アレ……!!」
先ほど道案内をしてくれた少年だった。
どうやら私を追いかけてきてくれたらしい。
「ただのバケモノだよ」
悪魔だなんだと言っても理解はできまい。
いや、理解はしても受け入れることは出来ないだろう。
人間には理解できないものだから。
「おい、少年」
私は辺りを見渡して、真剣に少年へ視線を向ける。
「な、なんだよ……」
それに気圧されてか、少年は身構える。
「もう一度大通りまで案内してくれないか?」
「は………?」
私は恥を忍んで頼む。何故なら――――
「気配を追って入ったはいいものの、戻る道がわからん」
少年は一瞬ポカンとして。呆れたようにけれどどこか安心したようにクスリと笑った。
「仕方ねーな。また案内してやるよ。さっきも金もらい損ねたし、まあおまけしてやるよ」
「助かる……」
私は安堵してほっと息をつく。
これは、私の物語。
天使と人間の血を引く、中途半端な私が、
全てに絶望して、死に場所を探す、そんな話。
そんな、
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