彼方

今はさよなら

第1話

Ⅰ【今はさよなら】p1

・・・・・ここよ……ここに居るじゃない… 貴方のすぐ後ろ……

貴方がこんなに私を愛してくれていたなんて………

私の親以上に親らしく、彼氏以上に彼らしく、本気で真剣に私を想ってくれていたなんて………

私のことを大切に考えていてくれたからこそ、黙して動けなかったのね……

それなのに貴方の気持ちを疑ったりして……

苦しさに耐えられなくなった私。

もっと苦しんでいたのは貴方の方だったことに気づこうともせず。

ご免なさい……

余計苦しませることになってしまった。

もっと傷付けてしまった。

白いものが目立つようになった貴方の、頭から首筋の繊細な線が暗く翳って深いカーブを作っている。

項垂れた肩にもあの生き生きとしたリズムがすっかり無くなってまるで脱け殻だわ……

あぁ…抱きしめたい。

その肩に触れたい。

耳元て「愛している」と囁きたい。

でも、貴方に私の声は聞こえないし、私の手は貴方の身体を通り抜け、虚しく空をさ迷うだけ。

昨日まで、見つめられると震えが止まらなくなるくらいに洞察のパワーを持ち魅力的だったその瞳も今は涙さえ枯れ、空洞のような暗闇となって私を捉えることも出来ない……