14

「新しい剣が欲しい」


 俺は単刀直入に言った。


 挨拶もない。

 さっきの言葉に対する応答もない。


「かなりストレートよね、オーウェンは。でも、そういうとこ嫌いじゃないのよね」


「ちょっと、あんた達知り合いなの?」







 普通に考えれば知り合いに決まってるだろ。


 わざわざわかり切っていることを聞く必要があるか?







「オーウェン、わたし等のこと何も言わずにここに連れてきたの? ていうか、この子達誰? すっごい可愛いのね」


雹華ヒョウカ、お前ってやつは……」


「いいよね? わたしときみの仲なんだし、ちょっとくらい――」


「あ、あの! オーウェンくんと、あなたは、どんな関係なんですか!?」


 俺達の会話に割り込むクロエ。


 少しばかり勢いが強かった。

 いつもの彼女の様子からは想像できない声の張りだ。


「わたし等? 幼馴染みたいな感じね。もしかして嫉妬してる? 可愛いね。ならちょっと意地悪しようかな。わたしとオーウェンは彼氏彼女の関係なんだよ」


「え! そんな……」


「嘘を言うな嘘を」


 呆れて否定する。

 ふざけているにしろ、そういう悪ふざけはやめて欲しい。







 だが、これではっきりした。

 クロエはもうすぐ俺のものになる。


 あとは彼女が抱く俺への感情を、100パーセント『心酔』の状態まで持っていくだけだな。







「安心してね、わたしはオーウェンにこれっぽちも興味がないから。それより、きみ、名前は?」


「クロエ、です」


「クロエ、いい名前ね。それに可愛い顔――あぁ襲いたい」


「え?」


「いいえ、なんでもない」


 雹華ヒョウカはその綺麗な顔を火照らせ、狩りの獲物でも見るような目でクロエを見ている。


 なんと雹華ヒョウカは可愛いに目がない。

 というか、ありとあらゆる可愛い・・・が好きなんだろう。


 幼馴染の俺が思うに、多分それは恋愛感情とかじゃない。性的な接触をしたい、なんていう欲望もなくはないらしいが、自分のコレクションという認識で可愛い子を狙うのが雹華ヒョウカだった。


 俺は密かに彼女のことを『可愛いコレクター』と呼んでいる。


 コレクターが可愛いのではなく、可愛い子を集めるコレクターという意味だ。


 それはともかく、クロエを幼馴染の餌食にするわけにはいかない。

 なんとしてでも守らないと。







 だって、クロエは『俺の女』になるのだから。


 幼馴染にだって渡すつもりはない。







「クロエが困ってるからやめてくれないか。このふたりはたまに話す同じパーティーのメンバーで、クロエとハル。以上だ」


「へぇー、そっちはハルっていうんだね。ショートカットたまんない。オーウェン、この子襲うね」


「好きにすればいい」


「ちょっと! そこは止めるとこでしょっ!」


 ハルが俺と雹華ヒョウカをキツく睨む。

 

 何を言っても流されるだけと思ったので、俺は口を閉じていた。

 俺の周囲にいる女は――どうしてこんなに癖が強いやつらばかりなんだろう?







 まあ、ハルは誰にも渡さない。彼女は俺に支配される運命にあるのだから。







「それで、どんな剣を作って欲しいの?」


 今までの話はなかったことになった。


 全てをリセットできたとでもいうようにすました顔で、本題に持ち込む。

 たまにこの店には来るものの、武器を注文するのはこれで三度目だ。


「あっしの発言を無視しないでっ」


「本気だから安心して。いつか襲うからね」


「それが嫌だって言ってんの」


 アルがここにいてくれればなぁ、と思った。


 ハルの話す割合が高過ぎて、だんだん面倒くさくなってくる。

 せめてアルとハルの掛け合いだったら、長時間聞き続けられるというのに。


 どうしてアルはここにいないんだ?


 いや、それは俺が剣でぶん殴ったせいか。


「実は最近A1ランクに昇格したんだ。それでこの長剣スパタよりも強い剣が欲しいと思ってな」


 俺は今使っている長剣スパタを鞘から抜き、横に持ったまま雹華ヒョウカに渡した。


 この剣はここで調達したものじゃない。

 勇者パーティー【聖剣エクスカリバー】に入った記念に、ウィルからもらったものだ。


「なかなかの剣使ってるのね。これ、どうやって手に入れたの?」


「リーダーのウィルからもらったんだ。記念に」


「なんの記念?」


「パーティー加入の。加入したその日に、綺麗な保管箱付きでくれた」


 すると雹華ヒョウカは何か意味深な表情で俺を見た。


「きみが知っていたのかはわからないけど、この長剣スパタは相当なものだね。作るのに数ヶ月はかかる」







 おや?

 作るのに数ヶ月か……なるほど。







「この長剣スパタに限界を感じたから、武器を変えようと思ってるの? それとも、ただランクアップで気分を変えるため?」


「後者の方だな。もっと強い武器があるといいと思って」


「へぇー」


「何か?」


「わたしが思うに、やめておいた方がいいね。この長剣スパタはまだまだ可能性がある。今からこれよりいい武器を作って、なんて言われても、相当ハードルが高いね。特にオーウェンにとっては」


 雹華ヒョウカの言い方には妙な含みがあった。


 だが、俺は気にすることなく話を続ける。

 せっかくここまで来たのに、手ぶらで帰るのも勿体ない。


「クロエ、何か欲しいものとかあるか?」


 俺の唐突の問いに、クロエは焦ったようにして答えた。


「あ、あれが欲しいです!」


 クロエの指差す方向にあったのは、蓋のしてあるビーカーに入って大切に保管されている、金属のブレスレットだ。

 見るからに高そう。 


「オリハルコンのブレスレット!? あんな高いの買う気? それとも、オーウェンに買わせるの?」


 ハルが驚いて叫ぶ。

 なんでもいちいちコメントしていかなくてもいいと思うんだが、それがハル=オラルーニという人物で間違いない。


「すみません、いきなりでびっくりしてしまって……だから、やっぱりいいです」


「いや、買うよ」


「――ひぇ?」


 クロエがぽかんと口を広げる。


 俺はそれが見れただけで満足だった。

 そんなに金を持っているというわけでもないが、今後いくらでも稼げるんだ。なんてことない。


「きみも太っ腹になったね」


 感心したように呟く雹華ヒョウカ

 幼少期からの俺を知っている彼女としては、この行動は意外でしかなかったはずだ。


「付けてる人の位置も突き止められる有能なブレスレットなのよね、うん。センスいいかも。そしたら、クロエ、あそこのブレスレットこっちに持ってきて。わたしに直接・・手渡し・・・してね」


「はい……?」


 クロエは戸惑いながらも回復ポーションを手に取る。

 

 だが――。


「痛っ」


 その容器で、誤って手を切ってしまった。

 細くて繊細な右の人差し指から、黄金色こがねいろの血が流れる。


 ん?

 

 黄金色の血?


 人間にしろエルフにしろ、獣人にしろ、血は赤じゃなかったか?











《キャラクター紹介》

・名前:アル=オラルーニ


・容姿:銀髪銀眼、横髪は耳にかかるまで伸ばしている


・武器:【正義の拳ジャスティス・ナックル

→オリハルコン製のナックルダスター(メリケンサック)で、アルの拳にぴったり合うようにオーダーメイドで作られている。攻撃だけでなく、守備に使うことも可能。


・一人称:オラ


・好きな食べ物:ほとんどが世界で1番好き

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