13
「あんた、ウィルにはちゃんと許可取ったのよね?」
そう怖い顔をしながら睨んでくるのはハルだ。
アル以外の俺達新人組は、3人で中央街を歩いていた。
アレクサンドリアの心臓となる、最も賑やかで栄えている通りだ。
ハルが注意したように、俺達は
全員の行動を把握し管理するためだ。
ウィルは基本的に寛容で理解が早いが、メンバーの外出に関してはかなり厳しい。
一度アルが無許可で外出し、べろべろに酔って翌日に帰ってきたから、だそうだ。
ちょうど俺がこの勇者パーティーに入る1ヶ月くらい前らしい。
アルはウィルに
ハルによれば、我らがリーダーのウィルのお叱りは、今まで見てきたどんなモンスターよりも怖い、とのこと。そのあまりの威厳と圧に、
俺の見る限り、ウィルがそんな厳しく叱りつける、なんていう姿は想像できない。
戦闘でも武器すら握らず、落ち着いた表情で仲間を鼓舞する。
移動先で会った困っている人は、種族性別に関わらず、優しく手を差し伸べる。
そんなウィルが誰かを本気で叱っている姿――ぜひとも見てみたい。
「勿論確認済みだ。俺を疑わないで欲しい」
嘘だ。
ウィルに確認など、一切していない。
それはなぜか。
単純だ。
ウィルに叱られてみたいから――いや、これだとMっぽく聞こえるから、こう言おう。
ウィルの別の顔が見たいから。
完璧で優秀なリーダーの、知らない一面を解き明かしたいから。
「それならいいんだけどねっ」
プイッ、とそっぽを向くハル。
何をそんなに怒ってるのか。
これは俺にわかるものでもない。
「そういえば、アルは大丈夫か?」
「あいつの心配? てかあんたが原因でしょ」
「まあそうだけど」
アルはクロエのおかげで一瞬元気になったかと思ったら、すぐにグーグー寝てしまった。
これに関してはまったく問題ない。
アルが酔い過ぎて寝落ちしてしまったり、戦いの後で気絶したりするなんてことは、日常茶飯だ。
彼は今頃、自分の部屋のベッドでぐっすり寝ているだろう。こればかりは仕方ないが、とことん呑気なやつだよ、ほんと。
「で、どこ行くつもり?」
俺は右にハル、左にクロエを添え、一般市民の波をよけていく。
ハルは暇なのかずっと俺に話し掛けてくるが、クロエは一向に口を開かない。口を開こうとしているのはわかる。開いたかと思えば、やっぱりだめ、とでも言うように首を横振りして、誰にも気づかれないうちに口を閉じる。
「武器を新調したいと思ってな」
「武器? あんたの武器のためにあっしは連れ出されたわけ?」
「一緒に来てなんて言ったつもりはないけど」
ハルは文句を言ったが、そもそも勝手についてきたのはハルの方だ。
俺から誘ったわけでもない。
暇だったのかもしれないし、どこか行きたい店でもあったのかもしれない。そう思って何も言わなかったわけだが、それで文句を言われるなんて理不尽だ。
「まあ別にいいけど。その代わり、あっしの都合にも付き合ってもらうからっ」
その代わり――どの代わり?
そう突っ込みたいところではあった。だがツッコミはハルの担当分野で、俺が勝手にやっていいものじゃない。
とはいえ、ハルの都合……まあ、どうせ女子は可愛い服とかいい匂いのする香水とか買いたいんだろ?
ちらっとハルを見る。
いや……この
ボーイッシュで中性的な顔立ちは、凛々しくて整っている。性格もご覧の通り気が強く、双子の弟と同様に厄介。必殺技は蹴り――機嫌を損ねれば普通に股間を狙ってくる。
「わかった」
とりあえずそう返しておいた。
***
「――っ! あんたここで武器買うつもり!?」
いかにも怪しげな外観。
元気なツタの侵食を許している、小さな石造りの店だった。
今にも剥がれそうになっている看板には、【神秘屋
「中に入ろう」
「オ、オーウェンくん、ここ、なんだか危ない店な気が……します」
「大丈夫だから。俺はここの常連なんだ」
ドン引きのふたりを無視し、重い扉を開けてずかずかと入っていく。
ホコリが舞い、その中のいくつかが俺の目に侵入してきた。
これも慣れたものだ。
この店は昔からずっと変わらない。
「ちょっと、あんた……」
ハルが俺の袖を引っ張る。
未知の世界を本能が恐れているのか、その銀の瞳の奥には不安の色が浮かんでいた。
店内には武器や特殊道具の棚が、俺達を圧迫するほど大量に並べられている。
「オーウェンくん……」
反対側の袖を引っ張っているのはクロエだ。
耳がしゅんと垂れ下がり、尻尾が震えているということは、クロエもまた本能的にこの店をヤバいと感じている。
可愛い女子ふたりに同時に袖を引っ張られるという状況。
これもこれで悪くないのかもしれない。
『オーウェン?』
ちょうどその時、俺を呼ぶ声がした。
女性の声だ。
女性の声にしては少し低めで、ハルの強さとはまた異なる強さがある。ただ凛々しいだけでなく、そこに余裕があるのだ。
木でできたカウンターの奥から現れたのは、しなやかな黒髪を胸のあたりまで伸ばした紅の瞳を持つ美女。
「また来たのね。そんなにわたしに会いたかった?」
妖麗な美女は、俺に向かって微笑んで、そう言葉を紡いだ。
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