第9章

第39話 前線から離れたヘリネルド・マルケス大佐は、戦争のむなしさに気づく

199ページまで読んだ。


 戦いのむなしさを最初に意識したのは、ヘリネルド・マルケス大佐だった。アウレリャノ・ブエンディア大佐から市長兼司令官としてマコンドを任されたヘリネルド・マルケス大佐だったが、戦争が長引くうちに友人だったアウレリャノ・ブエンディア大佐から親密さが薄れてゆき、非現実の存在になっていくかのように感じていた。


 空虚な心を満たすためにヘリネルド・マルケス大佐は、アマランタの元へ通うが、彼女は彼女でヘリネルド・マルケス大佐を愛しきれないでおり、彼を拒絶しては死ぬまで続く孤独な時間を思い、寝室で涙を流すのだった。


 ――わたしのことは、これっきりにしてちょうだい。ふたりとも、こんなことをしている年じゃないわ。


 その日の午後、ヘリネルド・マルケス大佐はアウレリャノ・ブエンディア大佐からの電信を受け取る。それは膠着状態にある戦況を説明しただけのありきたりの連絡だった。ヘリネルド・マルケス大佐は、人影のない通りやアーモンドの葉に溜まった雨水を眺めるうちに深い孤独感に襲われる。


「アウレリャノ」「マ

「コンド・イマ・アメ」


 長い沈黙のあと、電信機がアウレリャノ・ブエンディア大佐の非情な記号を吐き出した。


「バカイウナ・ヘリネルド」「ハチガツ・アメ・アタリマエ」




 アウレリャノとヘリネルドは、マコンドの第二世代で仲の良い友人同士だった。自由主義に惹かれて、ともに保守党政府に対する反乱戦争に身を投じたが、長く続く戦いに飽き、疲れてきている。共に反乱軍の幹部となったアウレリャノ・ブエンディア大佐とヘリネルド・マルケス大佐の関係は、昔のアウレリャノとヘリネルドの関係ではなくなってしまった。

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