第7話 訳も分からぬまま

 号令の後、生徒達は一斉に各々の教室で迅速な早さで帰り支度を済ませ、校門前へと整列を完了させた。滞りなく、一切の無駄な行動を省いて指示通りに動いて行く姿に整列を待っていた案内係の甲冑の男達は下を巻いていた。

 「全員揃ったな!それではこれより君たちが過ごすとになる学生寮へと案内しよう」

 いい終えると、先頭の男が「ついてこい」と言って進行し始める。

 生徒達もそれに合わせて歩を進める。

 そして校門がギギギと音を立てて開かれ、敷地内の外に出るとそこにはやはり、見たこともない街並みの中だった。 

 教室から確認したように石造りの建物が多く、風景で言えば中世ヨーロッパ時代を感じられる。

 それらを差し置いても、初めて異世界に来た者達の興味を引いたものがそこにいた。

 街行く人たちの中に、服を着た二足歩行の顔が龍のような生き物が闊歩していた。

 それだけではない。他にも耳が長い美しい女性や、なんなら翼の生えた人間が空を飛んでいる。 

 オカルト番組が全力で調査して特集として取り上げているような存在が、当たり前のようにいるのだ。

 「ん?ああ、あれは亜人やエルフ、飛翔族だな。いい忘れていたが、この世界には人間以外の種族も多く、我々と共生しているんだ」

 目を丸くする生徒達へ甲冑の男が気さくに教える。

 そして間もなく、甲冑達と生徒達の列は足を止めた。

 どうやら目的地に着いたらしいが―――。

 「よし着いたぞ。ここが黄昏ヶ丘高校専用の学生寮だ!」

 自分たちがこれから暮らすことになる学生寮。

 それに初対面した生徒は全員こう思っただろう。「でっっっっか」、と。

 自信満々に「これが黄昏ヶ丘高校専用の学生寮だ!」と示されたものは、それを寮と言うにはどうだろうかと思うほどデかかった。

 まるで都会のビルのようにそびえ立つ高さは、寮と言うより高層マンションに近い。

 周りはそんな高さのない石造りの建物ばかりということもあって、寮はより一層の迫力があって良い意味でも悪い意味でも目立つ。あまりの迫力に、本当にここに住んでも良いのか?という疑問すら出てくる。

 そんな中、ここまで先導してくれた甲冑の男は豪快に笑う。

 「余談だが、これは建築士と魔法術師達によって作られた特別性だ。まあさすがにデカすぎたがな、ガッハッハッハ!」

 いやいや、じゃあなんで横じゃなくて縦長にしたんだよ。心の中で生徒の意見は満場一致した。

 「さてと、我々の役目は終了した。今日は疲れを癒すといい。明日から授業が始まるので九時までには校舎に集まるように。道が分からなければそこらの近衛騎士団か魔法術士に聞け、それでは以上!」

 その後は寮の管理人を名乗る者が現れ、部屋割りと日程の説明が始まった。

 ◇◆◇

 夜。

 未知なことが多すぎてドタバタしていた1日も間もなく終わろうとしていた。

 「はぁ~あ」 

 思いため息をつきながら、凛人は部屋のベッドに横たわり生徒証を眺めていた。

 「あ~あ、結局こうなったか。まあ、僕だから仕方ないと言えば仕方ないか」

 諦めたように生徒証を眺めるその瞳は、なんだかいつもより暗い。

 当然だ。『鑑定』で期待した結果とは逆のひどい結果が出てしまった。そのせいで自分の底が見えてしまい、アドミスからは落第生と言われる始末。

 こうなったら当然誰だってへこむだろう。ただでさえ大した取り柄もない凛人にとってはかなり憂鬱なことであった。

 「もういいや、明日からは普通に生きよう。その方が何の取り柄もない僕にはぴったりだろうからね」

 ネガティブ至高な独り言の後、凛人は部屋の明かりを消してゆっくりと目を閉じた。

 「そういえば、昼休みの約束がパァになっちゃったな」

 寝る直前、休み時間中の倉山とのやり取りを思い出す。その倉山は今日、神々から選抜された『祝福者』という遥か高みの存在となった。近くにいた人がそうなったのだから勿論おめでとうと言いたいが、それよりも衝撃の方が勝ってしまう。

 (もう疲れた。寝よう)

 鬱憤もショックも忘れて寝ようとした。

 

 その五分後。


 「ね、眠れない」

 環境のせいかストレスのせいかは不明だが、どうしても寝付くことができずにいた。

 「何でだ。いやいや理由はもう分かってるだろ、なにせあんなことがあったんだし。まあそりゃそうだよな。目が冴えてるのかな」

 眠気を感じない目蓋をこすってふと窓の外に視線を向けた。

 様々な色の星々の輝きがここからでも伝わった。

 「こっちの世界特有とかなんだろうな。そうだ、気晴らしに夜風でも当たるか」

 黛はベッドを抜け、窓を開けて星空を眺めながら夜風を浴びる。新月なのか、月は見当たらなかった。

 でも星空の方は文句なし。一つ一つが輝き、色もそれぞれで違う。もちろんあっちの方では見れない光景だ。

 「きれいだなぁ。これを見られただけでも、この日一番の収穫か」

 何気ない一言と共に、黛は星空を眺めた。

 

 「ねえ、そこのあなた」

 

 突然、暗闇から声が聞こえた。

 「き、気のせいか?だって今、夜だし」

 星空から目を離し、地上の方を見た。もう午後11時過ぎ。まだ賑やかな所もあれば静寂に包まれたところもある。

 学生寮がある場所は後者。きっと生徒達の安眠妨害や夜遊びなどの防止のためだろう。

 案の定、外には人どころか建物一つ灯りが灯っていない。

 当然、人影は見えず見えても認識は難しいだろう。

 「眠いから寝ぼけたのかな?まあいいや、そろそろ――」

 

 「聞こえてないの?こっちだってば?」

 

 「へ?」

 再度聞こえてきた声に凛人は自分の耳を疑った。もうこの時点で、寝ぼけたことによる幻聴ではないと確定したからだ。

 (誰かいたとしても・・・こんな時間に何の用があるんだ?)

 気になった凛人は注意深く、もう一度地上を見下ろした。

 すると、いた。

 学生寮の入り口のすぐ横。ただでさえ暗くて見分けが付かないのに、真っ黒いローブを纏った人物が立っていた。

 顔は認識できなかったが、先程から聞こえてきた声によると女性だとわかる。

 謎の女性を黙視すると、こちら側が気づいていることが伝わったらしい。

 「よかった、やっと気づいてもらえた」

 「あ、あの。魔法術師の方ですか?」

 女性と思わしき人物の装いから昼間に『鑑定』で見た魔操師団の人物ではないかと推測した。

 「違うわ。そんなチンケ・・・んんっ、そんな一般人ではないよ」

 「じゃあどちら様?」

 「とりあえず降りてきてもらえないかな?見上げながら話のも首が痛いから」

 「えぇ、今から・・・・?」

 凛人は戸惑った。こんな時間に訪ねて来ること事態に不穏な予感がするというのに、直接話すのはもっと躊躇う。

 相手が何者かすらも分かっていないのだがら、当然のことだろう。

 「いやでも、ここ寮ですし、勝手に抜け出したらまずいんじゃ」

 「大丈夫だから。それとも、私を怪しい人とでも思っているの?」

 「そうじゃなくて・・・・控えめに言って半信半疑だけど」

 「そう。まあそうよね。なら先に用件を言うわ。私はあなたに――とあるお願いをしに来たの」

 「お願い?」  

 問いかけると「そうよ」と言う返事が返ってきた。

 だが本当に信用して良いものなのか?ひょっとするとアドミスが話していた混沌騎士団とか言う組織の人間かも知れない。そんな悪い予感が走った。

 「とりあえず、ここで待ってるから出来るだけ早く来てね」

 右往左往する凛人に呆れたのか、女性はそれを言うとそれ以上は何も言ってこなかった。ただ寮の入り口に留まっている

 凛人は果たして、行ってもいいのかという疑問から抜け出せずにいたが、ようやく決心が決まった。

 「一応、行くだけ行ってみようか。何かあれば、寮の中に逃げ込めば良いんだし・・・」

 勝手に抜け出して明日の朝になって怒られないかが若干不安ではあるが、お願いがあると言われたら無視は出来ない。

 部屋を出た凛人は、音を立てないよう慎重に廊下を進み階段を下りる。

 せめて外にいる人が悪い人ではありませんように。心の中でそう願った。

 出口に付くと、ダメ元で扉を押した。

 「あれ?空いてるな」

 もう既に戸締まりした後だと思っていたが、以外にも扉はすんなり開いた。

 無用心な気もするが、それは一旦後回しだ。

 外に出ると、変わらず黒いローブの女性が立っていた。

 黛が現れたことにほっとしたのか口元に柔和な笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 「あ、良かった。もし来なかった窓から部屋に侵入するところだった」

 「それこそまるっきり怪しい人じゃないですか。僕がいた世界では不法侵入になっちゃいますよ。それより、あんまり長居は出来なので早めにお願いします」

 「はいはい。急に呼び出したのは私なんだから早く終わるようにするね。なら早速――私からのお願いを言うわ」

 「どうぞ」

 すると、女性の笑みが消えた。凛人もそれに気づき、表情を正す。

 一瞬の間を置いて、女性は静かに言う。


 「あなた、私の『祝福者』になってくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

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