第6話 『鑑定』の末に
「それでは次の方どうぞ」
「は、はい。お願いします」
とうとう凛人の番となった。
自分の番ともなると、鼓動は更に高鳴り、考えすぎかもしれないがすべての視線が向けられているように感じる。
重い深呼吸のあと、生徒証を翳そうとすると――。
「少年、君は倉山桔梗ととても親しそうだったな――」
横からアドミスが話しかけてきた。
「まぁ、それなりに。友達でもありますし・・・」
凛人は手を止めて顔を上げる。
「『祝福者』となった彼女を支えてやれるほどの実力があることを祈っているぞ」
(めちゃくちゃプレッシャーなんですけどぉぉぉぉぉ!!)
突如としてかけられた期待に対して硬直する凛人。しかもアドミスはそれで終わるかと思いきや、何やら興味深そうに『鑑定』するのを見ようとその場に留まっている。
お陰で、胸の高鳴りは最大レベルだ。
「あの・・・・」
「あっ、ああ、すみません!」
硬直してしまったこともあって、『鑑定』をしてくれる紫ローブの女性を待たせてしまっていることに気付き慌てて生徒証を翳して『鑑定』を始める。
(大丈夫落ち着け!立川会長も、それに倉山さんにだってすごい力が表れたんだ!なら僕にだって。そうだな・・・・出来れば)
「ラノベとかでよくある、チートスキル来い!」
最近からはまり出して読むようになったライトノベルに出てくるような、主人公が持つチートなスキルを祈る凛人。
水晶玉に生徒証を翳すとまず最初に水晶玉内部に淡い光が発生し、瞬く間に消えてしまった。
「あれ?これだけ?」
「はい、おそらくこれで以上となります」
「はっや!て言うか、ショボッ!」
「それは分かりませんよ。一度生徒証をご覧にならればご自身がどういった能力があるか一目瞭然ですので」
「はぁ。ま、チートスキルなんてそうそうでないよな」
半ば現実的な考えに切り替え、生徒証に目を通す。
生徒証には、先ほどまで白紙だった表面に様々な文字が浮かび上がっており、なぜか自分の顔写真までもが写っていた。
黛凛人(17)
所属・黄昏ヶ丘高校二年三組
魔法適正・35
スキル・なし
スキル内容・なし
「スキルなしかよ。ていうか、魔法適正35って高いのかな?」
期待したのとは真逆の結果だったため、多少落胆する。というか割りとがっかりした。
チートスキルはおろか、スキル無しなんて結果は期待したものからすればかなり辛い。
生徒証を眺めて黛は眉をひそめる。
その隣では、アドミスが「やれやれ」といった感じの表情で額に手を当てていた。
「まあ、さもありなんか。連続して逸材が出るはずもないからの」
意味深な言い方が気になり少し尋ねた。
「あの、アドミス様。スキルはともかく、魔法適正35ってどうなんですか?」
「ぬぅっ、いやしかし、残酷かもしれんが教えねばな。黛凛人よ、魔法適正において適正値は50からが中堅だ。それ以下の適正値でスキル無しだとすると、やはり落第せ――」
「落第生!?」
黛はたまらず叫んだ。
あっちでもそれなりに落第生だったのに、こっちでもかよ!
よもや、期待外れどころではないまさかの絶望クライマックスコース行きの落第生と呼ばれてしまう衝撃の結果。
あまりにも衝撃すぎて、凛人の心には落第生という三文字が深く、とても深く突き刺さり絶望によるショックで一歩二歩と後退し、その後――――。
膝を九の字に折り曲げへたり込み、その場でガックリ肩を落とした。
◇◆◇
「ま、黛よ、何も真に受けることはないぞ。落第生といいかけたのは今の現状だけのことであって今後の努力次第でなんでてもなる!若い内は日々経験を積み重ねることだ!」
タブーに触れてしまったことに若干の罪悪感を感じながら何とかして黛を励まそうとするアドミス。
「よく言うだろう、失敗は成功の元とな。だからそう気を落とすでない」
「あの~、大丈夫そうですか?」
「む?おお倉山桔梗よ。どうか君の友を救ってやってはくれんか」
『鑑定』が終わった途端にへたり込んだ凛人を心配して駆けつけた倉山。
アドミスから軽い説明を受けると何となく何があったのかを察し、右手に生徒証を握りしめてへたり込む凛人にアドバイスを掛ける。
「黛くん、結果が悪かったからって悲観しすぎはよくないよ?私だってその、『祝福者』?になったみたいだけど分からないことだらけだし、今は結局、皆右も左もはっきりしないひよっこと同じ!」
倉山はまだ立ち直れそうもない凛人アドバイスを送り続ける。
「だから、結果どうこう言うのはちゃんと努力した後に言おう、今どうこう言ったって変わらないもん」
倉山は一心に励まし続ける。目の前で打ちのめされて動けなくなっている凛人はついさっき、訳も分からずすごい存在となってしまい慌てふためく自分にとても暖かい言葉をかけてくれた。
恩返しというわけではないが、少しでもエールになるような言葉を送ってあげたい。そう思っていたのだが、
「・・・せい、らく・・・・せい」
「え、なんて?」
「落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落第生落・・・・・・・・・」
「黛くんが壊れました!」
「精神魔法を使えるものは今すぐ来い!急患だ!」
◇◆◇
「もう落ち着いた?」
「な、なんとか。ごめん心配かけて」
「ならよかった。うわ言みたいに落第生って呟いてたもんね」
「もうそれは忘れさせて」
「あはは。ごめんごめん」
失意の底へと落とされた黛は、「魔法術師」の一人がかけてくれた精神系の魔法〈メンタルリヴァイブ〉で何とか落ち着きを取り戻した。
とはいえ、まだ何となくショックは残る。
気をしっかり持たないと、また口から落第生という言葉が漏れてしまいそうだ。
「よし、『鑑定』は無事終了したな。優秀なものも数多くいたことに加え、『祝福者』までもが現れたこの感激は忘れないだろう」
壇上ではアドミスが饒舌に話す。
『鑑定』を終えた生徒達は、もう一度整列させられアドミスの話を聞いていた。
この後はシェルフォード王国が用意した寮に案内されるらしい。
そして嬉しいことに、何と学校に元からある設備は今日の内に調整するので、明日からはいつも通り使うことが出きるらしい。
衣食住も保証してくれるらしく、その辺についての心配は要らないという。
話がちょうど終わる辺りで紫ローブの男が壇上に現れ、両手で大切に持っていた丸めた伝言書をアドミスに渡した。
「結果が届いたぞ。他四国でも生徒の賛成の獲得と『鑑定』を完了させたようだ。そして『祝福者』に関しては、白星学院より三名、天文寺高校より二名、叢雨学園より二名、梓ノ宮高校より一名、黄昏ヶ丘高校より一名となった」
結果について、有名校に『祝福者』が多いことに生徒達は頷く。五校の中でもトップクラスに君臨している白星学院にその数が一番多いことには納得するしかない。
「ようやく全てが終了した。これより諸君らが暮らすことになる学生寮へ案内しよう」
アドミスが言い放つと、甲冑を纏った男達が生徒達を誘導し始める。
「ここからは我々が誘導を担当する!生徒の皆は即刻支度を整え、校門前へと再度整列せよ!」
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