破滅回避のためにヒロイン達を鍛えたら、なぜかモブキャラの俺が史上最強の剣聖と勘違いされた件

ジャジャ丸

第1話 転生先は破滅予定のモブだったらしい

 俺の名前はクロース・デトラー。デトラー男爵家の長男だ。


 貴族ではあるけど、特に金持ちということもなく、ヤバいほど貧乏というわけでもない、まさにモブそのものという存在。


 強いてモブらしくない要素を上げるとすれば、俺が転生者だってことくらいだろう。剣と魔法のファンタジー世界に転生って最高だよね。


 ただ、別に何かしらのチート能力があるわけじゃないし、魔法もそこそこ程度しか才能がなく、剣なんて重くて振れる気がしない。


 だからまあ、モブらしく無難に、デトラー家を継ぐためにのほほんと勉強に励む毎日を送っていたんだが……ある日、視察という名目でデトラー領の町を遊び歩いていた時、周囲に人気のない広場に出たところで、偶然にも出会ってしまった。


 この世界の、ヒロインに。


「マジかよぉぉぉぉ!!」


「えっ、何? 急にどうしたの? 大丈夫?」


 目の前で突然膝から崩れ落ちた俺に、ヒロインは心配そうに駆け寄ってくる。


 俺より少し歳下……今の俺が十四歳だから、十三歳くらいか?

 肩にかかるくらいの銀髪に短パン姿という出で立ちで、記憶にある姿よりかなり幼いけど……前世で散々やり込んだゲームのヒロインを見間違うはずもない。


 そう、この子……アイシアは、“ソードマスターズ・ファンタジア”、略してソーファンというゲームのヒロインなのだ。


 プレイヤーの好みに合わせて主人公のステータスを自由に設定出来る他、ヒロイン達が伸ばしていくスキルにもかなりの調整が利くことから、人によって攻略パーティの面々や戦略が全く違うのが大きな魅力となっていたゲームなんだが……これには一つ、重大な問題がある。


 とにかく、人が死にまくるのだ。


 語りだせばキリがないんだけど……今もっとも気にするべきなのは、このアイシアがゲームの設定上、生まれ故郷を魔人達に滅ぼされてるってことだろう。


 生き残りは文字通りゼロ。町の名前すら分からなかったのに、よりによって俺が生まれ変わった先がその町だったなんて……そんな不幸ある? これ、俺も絶対その事件で死ぬじゃん。


「えーと……」


「あ、悪い。ちょっと急な腹痛に襲われて……」


「それは大変ね、歩ける?」


「いや、もう収まったから大丈夫だ」


 純粋に心配してくれるアイシアにそう答えつつ、俺はどうするべきか迷った。


 この町に待っている破滅の未来を回避したい。それは山々なんだけど、俺にはそんな力はないし。


 ならば、どうするか。

 もう、アイシア自身を強くして、破滅の未来を変えて貰うしかないんじゃないか?


 他力本願過ぎだろって? 仕方ないじゃん、俺弱いし。


「それよりお前……名前は?」


「え? アイシア、だけど……」


「そっか。なあアイシア、お前って将来の夢とかあるのか?」


「……?」


 流石に急過ぎたのか、ちょっと警戒するように後退る。

 その様子に、俺は慌てて押し留める。


「いや、見たところ、お前には天才的な剣と魔法の才能がある!! 良かったら、俺のところでその才能を開花させてみないかと思ってな!?」


「えーと……何の勧誘ですか? 怪しい人にはついて行くなって、両親からも言われているので……」


「待て待て待て、俺の名はクロース・デトラー、この町の領主の息子だ!! 怪しい人じゃない!!」


「えぇ……」


 いかん、会話の入り方が最悪だったせいで、名乗ったのに本物かどうかめちゃくちゃ疑われてる。視察に来るために服装も目立たないものにしていたせいで、余計に拍車がかかってるんだろうな。


 このまま解散なんてことになったら困るし、何とか興味を持って貰わなければ!!


「今から、証拠を見せてやるよ。それを見てから判断しても遅くないだろ」


 そう言って、俺は体内を巡る魔力を練り上げ、魔法発動の準備をする。


 俺には魔法の才能なんてほぼないんだけど、幻を生み出す"幻影魔法"だけは使えるんだ。

 この魔法自体に攻撃性能も防御性能も全くない上、俺自身の運動能力すら低いせいでただの手品にしか使い道がないんだけど……今は目の前にいるアイシアを騙すだけでいいし、手品で十分だろう。


「しっかり見てろよ──」


 ゲームの設定によれば、アイシアは故郷を滅ぼされた憎しみから、魔人を殺すために主人公と行動を共にするんだけど……その切っ掛けは、主人公が魔人と戦う姿を見て、その強さに惚れこんだからだ。


 そして、主人公と一緒に旅をする中で、アイシアは思い出す。魔人に故郷を滅ぼされる前、妹ととある約束していたことを。

 物語に出てくるような英雄になって、妹を守るって。


 それ以降、アイシアは復讐ではなく、亡き妹の憧れた自分になるために、真の英雄への道を歩み始めるんだけど……つまりだ。


 まだ故郷を滅ぼされていない今のアイシアにも、既にあるはずなんだ。英雄への憧れが。


 初期ステータスの主人公の戦いを見ても憧れの念を抱いていたくらいだし、最終ステータスの主人公でしか使えないような大技を見せれば、少しは俺の話に乗ってくれるはず!!


(《幻影ファントム》)


 ボソリと小声で呟いた詠唱によって魔法を紡ぎ、生み出したのは幻の剣。そして、それに付随するように俺の体も幻で作り上げ、本物の俺の姿を透明化して幻と入れ替わった。


 俺自身の運動能力がいくら低かろうと、幻であればイメージ通りに動かせる。

 そして、俺の頭の中には……この世界の頂点、ゲームの主人公だけが習得できる必殺の剣が、しっかりと刻み込まれているんだ。


 つまり……幻の俺であれば、ゲームの技を完全再現することだって可能ってわけ!!

 見せかけだけならな!!


「《光剣一閃リヒトシャリオン》!!」


 同じく幻によって作り出した大き目の石を、たった今拾いましたみたいな仕草で掴むフリをし、上空へ放る。

 そこ目掛けて、俺の分身が全力で剣を振るい──溢れる閃光の斬撃が、幻の石を呑み込んで一瞬で消滅させた。


「今、のは……」


「俺が習得した奥義の一つだ。お前なら、そう遠くないうちにこの高みにまで至れると感じている」


 剣を納め、まるで魔法によって異次元に収納させたかのような仕草で消し去りながら、本物の体と幻の体を上手くすり替えて……しれっとそんなことを口にする。


 流石にちょっとわざとらし過ぎたかな、と心配になったんだけど……まだ僅か十三歳のヒロインには、十分過ぎる光景だったらしい。


 これ以上ないくらい瞳をキラキラさせながら、俺の手を勢いよく掴み取った。


「師匠!! 教えてください、どうしたら今の奥義が使えるようになるんですか!?」


「待て、落ち着け。ちゃんと教えるから、まずはデトラー家に向かうことをお前の家族にちゃんと説明して来い。俺に呼び出されたって言ってな」


「はい!! 分かりました!!」


 素直に応じ、家に帰るべく走り出すアイシア。

 小さくなっていくその背中を見て、ひとまず第一段階は成功かと、ホッと胸を撫で下ろした。


 この、その場の思い付きのような行き当たりばったりのスカウトが、後にどんな事態を巻き起こすのか……この時の俺には、全く想像すら出来ないままに。

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