結婚の約束をしたお嬢様と再会したら、彼女の従者に告白された話

矢魂

夢の中の少女①

「ですから、あの……。私が大きくなったら、結婚してください!!」


 目の前で、幼い少女が顔を真っ赤にしながらそんな事を言っている。これは……夢?うん、確かに夢だ。

 周囲の景色はどこか現実離れしており、足元はふわふわしている。だが、この光景はどこかで見たことがあるという妙なリアリティがあった。


(……そうだ。あれは確か)


 その瞬間、俺は目を覚ました。


「……変な夢だったな」


 ベッドから身体を起こし、頭を振る。今日は転校してから初の登校日。きっと緊張から変な夢を見たのだろう。だから俺は、気持ちを切り替える為に顔を洗うことにした。

 リビングに行くと、既に母がキッチンで朝食の準備をしていた。そして、食卓では義父がコーヒーを飲みながらテレビを見ている。


「おはよう、母さん。……武志たけしさん」

「あら、おはよう」

「おはよう。一輝かずき君」


 小さく頭を下げると、俺も義父の斜め向かいに座った。

 数週間前。俺の母はこの国木田武志くにきだたけしさんと正式に再婚をした。それに伴って、俺の名字も代わり〝国木田一輝くにきだかずき〝となったんだ。


「今日から新しい高校だろう?……すまんな、僕達の都合で転校なんて」


 武志さんは若くして大手自動車メーカーの重役になったエリートだ。マイホームも持っており、だからこそ結婚したからといってホイホイ引っ越す訳にもいかないらしい。


「いや、しょうがないですよ。それに武志さんのおかげで俺らはこんな立派な家に住めるんスから……寧ろありがたいっていうか」


 これは本心だ。別に前の学校に特別思い入れがある訳ではないし、以前のボロアパートと違って自分の部屋ができたのも嬉しい。何より、母さんが身を粉にして働く必要もなくなった。だから俺は、本当にこの人に感謝している。


「こーら。お父さん、でしょう?一輝」


 朝食を並べながら、母が俺の頭を軽く小突く。


「しょうがないだろ?まだ馴れてないんだか

 ら」

「ハハハ。そうだよ、文江ふみえさん。一輝君には一輝君のペースがあるんだから」

「あら、何よ二人して。私一人を悪者にする気?」

「いや、そんなつもりは……なあ?一輝君」

「そうだよ。武志さんの言う通りだって」


 焦る俺達を見て、隣に座った母が笑う。


「冗談よ、冗談。まあ、あなた達の中が良さそうで安心したわ」


 いつも通りの朝の団欒。だが、俺の心の片隅では、今朝見たのことが離れないでいた。


(そもそも幼女から結婚を申し込まれる夢を見たなんて、恥ずかしくて人に言えないよな)


 夢は所詮夢。特に気にすることもないだろう。

 だが俺のその考えは、転校初日である今日。いとも簡単に覆されることとなるのだった。

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