第2話
「この電車は、海咲方面最終電車です。お乗り遅れのないよう―…」
文字通りバタバタしている師走。
冷たい雨が強く降り続く金曜日。
温かい電車内で、イヤホンから流れる音楽に耳を傾ける。
ポーン、と一音、ピアノが聞こえたあと、高音のボーカルが始まる曲が流れた。
特に好きなアーティストもいないため、週間ランキングのプレイリストをシャッフルで流していた。
”まるで雨のように溶けていく
あの日、頷かなかったら変わらなかったのかな、僕ら
強く打ち付ける雨が、僕を離してはくれない”
悲しい声で紡がれる歌詞に、気づいたら涙が流れていた。
最近は、涙もろくなったらしい。年のせいかな…
キュ…
『!』
発車間近の電車に乗り込む人の気配。
ドアのすぐ横に座っていたから、慌てて涙を拭った。
見られてないはず…
ちら、とその人のことを目で追うと、この雨の中、汚れのない白いスニーカーに目がいった。
そこから、すらっと伸びる黒のスキニーパンツに、黒のチェスターコート。
マスクとバケットハットで顔はよく見えないけど…、スタイル良くて、かっこいいな…
楽器を背負っていて、スマホを操作しているだけで、様になる。
東京って、可愛い人もかっこいい人も多いよなぁー、なんてつい眺めてしまっていると、視線が合ってしまった。
少しだけ見えた、帽子の影になった目。
ドキリ、と心臓が震えたけど、相手はあまり気にしていない様子で、またスマホに視線を落とした。
相手が見ていないからって、むやみに人を観察しちゃうの、やめよう…
いつの間にか違う曲になっていた音楽アプリを閉じて、SNSを開いてみる。
あ、また誰か結婚してる…。
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