一章 ナレナ樹林
1-1 到着
「よっしゃ!これより点呼を取る!
担当は当隊隊長を務める俺…ハルト・アステライン!呼ばれたらきっちり返事するように!」
「「ほぁ~い」」
「なんだその気の抜けた返事は?!」
到着前恒例の点呼が始まる。隊長の号令に私とサティラでふぬけた返事をするまでがセット。
持ち前の指揮力とよく通るクソデカボイスですぐ好き勝手行動しだすこの隊をまとめあげている。
こんなほぼ街に帰らない職に就いてるくせに彼女募集中らしい。
「始めるぞ!サティラ・レヴェラーニャ!」
「はいはーい」
「はいは1回!あとそろそろリルの尻尾から離れてやれ!」
蜘蛛のくせして魚が好き。糸をかけられる場所さえあれば上下方向の移動は無敵。
朝寒いよね分かる。まだ尻尾にくっついてていいよ。
「ビート・ノスフェルクロ!
ってかお前、日傘どこやった?!大人しく船内居ろって何回言えば!!」
「ちょっと火傷するだけっすよ、日焼けと変わらんて」
「十分重症だろうが!!」
色んな動物の血を飲み比べるべく参加してきたグルメ(自称)なヤツ。ちゃんと料理上手いのが腹立つ。
サティラと私からの評価は「いじるとオモロい近所のにーちゃん」である。
「リル・ヴァンパティール!」
「んぁ~い」
「だから返事はちゃんとしろって!」
「善処するッス」
お犬と一般人にできることは大体できる。
さっきの小鳥、また来ないかなぁ…
「リズ・サルフロウアー!」
「…………うい」
「あ゛ーー聞いてねぇ!点呼の時くらい機械いじりをやめろ!!」
植物の品種改良やら魔法研究やらに精を出す人が多い中、機械を作っている
…作る機械が「産業廃棄物」「自立歩行型粗大ゴミ」「本当に何か分からない」などと呼ばれているのはご愛嬌。
「ガフ・バローアーク!」
「おう」
「毎回まともに返事してくれるのはお前だけだよガフ…!!」
「うわ来んな操縦中だぞ」
隊長の幼なじみで風読みが得意。船の操縦がめちゃくちゃ上手い。
面倒見が良く頼りになる。付いたあだ名はガッさん、兄貴、副隊長、ママ、と数知れず。
「よーし!これより降下を開始する!
今回の拠点はデカい
まずサティラに降りてもらって、大丈夫そうなら
船体管理組と俺は船付近に野営地を建てるから、その間他三人は安全確認と軽く調査を進めてくれ!
俺からは以上!んじゃガフ頼んだ!」
「あいよ、しっかり捕まってろよ!」
ぐわ、と急速に傾く感覚。それと共にひょいと手すりを飛び越えて、それじゃ、と軽くサティラが跳んだ。
空へ攫うように巻き上げる風に逆らって、降りる船より更に速く、蜘蛛の少女が落ちていく。
自前の糸でバンジーよろしくゆあーんゆよーんと揺れるシルエットは、地上で大きく腕を掲げてマルを形作った。
「OK出たッス!」
「りょーかい!リズはプロペラ調整そのままよろしく、ビートはイイ感じのタイミングで
林冠を刺すように降りた船から
落ちながら、上半身に力を込める。
足は元から獣人寄りでキープしてるし、尻尾は振れるときに振りたくて出しっぱなしだから下半身は大きな変化なし。
特に意識するのは
サティラが用意してくれた繭の緩衝材に四つ足揃えて思い切り突っ込む。這い出して
「もー!リル!危ないから止めなっていっつも言ってんじゃん!」
「毎回サティが受け止めてくれるから、いいかなって」
「次やったら
「キャフン」
「『いぬなのでわかりません』みたいな顔で誤魔化さないの!目を!合わせなさい!!」
「おーーいリルまたやりやがったな?!
そんな行きたいなら二人で先見てきてくれ!サティラとはぐれないようにな!遠くには行きすぎんなよー!!」
無事だからいいんだよ。あとやっぱ隊長声デカいな、15
「まぁ許可も出たし、行こっか」
「もー…ほんとに迷子にならないでよ?リルすぐどっか行くんだから」
「しょーがないじゃん!生き物いるんだから!」
改めて、環境は森林。現在地は高木林で、移動すれば低木林もある。
木漏れ日が差して照度は案外高め。でも影が多いから全体的にひんやりした空気が満ちている。
敵対的な気配と危険物の匂いは共になし、安全確認OK。絶好の探索日和だ。
さあ、調査開始だ。
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