第28話
今日の夕方、また由佳と会う約束をしてるんだけど。
もし、このオッサンとのやり取りを伝えたら…また言われちゃうのかな?
『楽しそう』
って。
そんな事を思いながら歩いていると、隣を歩いていたオッサンが急に歩みを止めた。
どうしたのかと慌てて俺も足を止めると、オッサンは少し真面目な顔で俺を見ていて。
軽く息を吐いてから、こう言葉を続けたんだ。
「由佳ちゃんへの想いが本物なら、負けんなよ」
突然の言葉に、俺は咄嗟に何も返せなくて。
ただじっと、オッサンの顔を見返すだけだった。
「年の差とか、世間体とか。そんなのに負けんなよ」
「……分かってるよ」
いきなりの激励に驚きつつ、俺はちょっと強がってみせた。
言われなくたって、ちゃんと分かってる。
でも、さっきまでの俺は…確かに負けそうになっていたのかもしれない。
だけど、オッサンが気付かせてくれたから。
俺は、もうそんなのに負けたりしないよ。
「そっか」
そう言ったオッサンの表情は、一変してひどく穏やかで。
いつもの明るい笑顔に戻っていた。
「よしっ、じゃあ帰るか。あっ……」
何かを思い出したかのようなオッサンを見上げていたら。
近付いて来た彼は、ふいに俺の頭に手を置いてきて。
「卒業、おめでとう」
そう、告げてきた。
今日、何度も聞かされた言葉だったけれど。
正直…嫌な気はしなかった。
あーあ。
やっぱ、オッサンのペースに呑まれてるよな。
由佳のしたり顔を思い浮かべながら、俺は先を歩くオッサンの後を急いで追いかけた。
H24.5.9 【完】
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