第6話

≪神崎君は悪くないのに、私が勝手に振られて怒って走り出して。階段から落ちてケガしなかったのは、本当に神崎君のおかげだから。記憶を失くして迷惑を掛けたけど、正直少しの間でも恋人のフリをしてもらえて嬉しかったです。≫



そこまで読みながら、俺は自然とあの時の事を思い出していた。


彼女が記憶を失くして、俺の恋人として過ごした時の事を。



今まで知っていた篠原さんとは、全然違っていた。


いつも近藤さんにくっついて、あまり自分の意見を表には出さなかった彼女。



だけど、俺といた時は凄くしっかりしていて。


活き活きとしてる印象だった。



≪今は、ニューヨークの日本人学校に通ってます。神崎君みたいな人はなかなかいないけど、私も素敵な人を見つけていい恋をするから。だから、神崎君は吉野君のお姉さんと幸せになってね≫



そこで、手紙は終わっていた。



「……ありがと」



便箋を元通りにたたみ直し、俺は近藤さんに差し出した。



「強くなったよね、千花」



それを封筒にしまいながら、近藤さんはそう呟き。


俺も黙って頷き返した。



「許してあげてくれる?」



そう尋ねる近藤さんは、少し不安そうな顔色を浮かべ。


俺の返答をじっと待っている。



「許すも何も、彼女は悪くないから。篠原さんこそ気にしないで、って伝えておいて」



確かにあの時はいろいろあったけど。


今、こうして事態はいい方に向かっているから。



だから、もう誰も何かを気にする必要なんて無いんだ。


篠原さんも、俺も。



篠原さんの手紙のおかげで、ほんの少し心に引っ掛かっていたモノが取れた様な気がした。

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