出会い

第2話

上手に生きていくのは、そんなに難しいことではないと思う。

周りに合わせて笑うのも、聞き上手になるのも、私は得意な方だった。

何か些細なことで関係が崩れても、つまらないことで恨まれて裏切られても、はなから期待していなければ大きなダメージを受けなくて済む。




私はそういう人間だった。




高校に入学して1ヶ月と少しが経とうとしていた。


雲ひとつない青空。

深緑の木々を揺らす風が心地よい5月。私、綾瀬そらは仲の良い友人もでき、ある程度充実した日々を過ごしていた。

我ながら良いスタートが切れたと思っている。


学校はこれから大人になろうとしている生徒の生活力を育む場所だ。

朝から夕方まで窮屈な建物の中でいかに有意義な時間を過ごせるか試されている。

勉強や部活をこなすことだけではない。

上手に人間関係を築くこと。その場の空気を読むこと。列を乱さないこと。


それができない人間は、はじかれる。


簡単なことだ。流れに身を任せればいい。単純明快なこと。

考えすぎる必要はない。もし身の振り方に失敗して周りの視線を感じたなら笑って誤魔化せばいい。ひょうきん者になればいいだけだ。


そう、簡単なこと。

それが上手くできなくなったのはいつからだろう。

心のコントロールが効かなくなったのはいつからだったろう。


上手に生きることがどれだけ難しいことか思い出したのは間違いなく、あの人に出会ってからだ。

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