ソフトボイルド・エッグ
はくすや
物語は師走になってから始まる①
十二月に入ってから一気に寒さが増した。日によっては一月並みの気温となり、近隣の中学校では早くもインフルエンザの生徒が出たと報告が入った。
溝口は何だかんだ忙しさにかまけて予防接種を受けるのを忘れていた。駅の北側にある
四月にこの花山中に赴任して八か月が過ぎた。
教師になって三年目にして初めて担任を持った。二年三組の担任だ。
一学年三クラスしかない小さな中学校で手を焼く生徒もいなかったから楽ではあったが、一人暮らしは負担になった。食事と洗濯が毎日考えねばならぬ行事だった。
溝口は、初めて結婚してみるのも良いと思った。二十五歳。同期の友人には既婚者はいない。
今の時代、溝口の年齢で結婚する男は少ないだろう。しかし部活動も見てアパートに夜遅く戻って夕食や洗濯を考えねばならぬ時、同居人がいれば助かることも多いはずだと溝口は思う。
そう思いはするが、相手がいない。
ちょっと付き合うだけの女性ならすぐに見つける自信はある。しかし結婚相手となると一生ものだ。簡単ではない。周りを見渡してもそうそう候補者は見つからなかった。
最も身近な若い女性は二年一組の副担任で英語教師の
手足が細くスタイルが良い。セミロングの髪はたいてい結っていて清潔感がある。教師よりは女子アナの外見だ。
性格は根っからの真面目。華やかな見映えとは裏腹に几帳面で融通が利かない印象を持った。
わずか一月ほど観察した結果だ。結婚相手として見ると窮屈な娘だった。
校内には他にも若くて美人の女性教師がたくさんいて、二十五名しかいない教員の中に占める割合が高かったが、いずれも何か減点項目があった。
もっとも、溝口自身がその気になっても、彼女たちから御免こうむると言われる可能性の方が高い。
そうしたことを考えながら、溝口は勤務を終えた足で白神会病院へ向かった。インフルエンザの予防接種を受けるためだ。
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