初心ギャル。

@ruice

第1話 プロローグ 出会い

俺は今年から高校一年生の渡瀬凪。特に目立つこともなく普通に平穏な日常を過ごしていた。そう、あの花守由香の泣き顔を見てしまうまでは……!


6月のある日、俺はいつものように昼休み、友人である工藤海と村田寛司の3人と話していた。入学から2ヶ月が経ち、グループがある程度出来上がる頃、俺達はゲームの話で意気投合しいつの間にかよく話すようになっていた。

「お前ら昨日の新キャラ発表見たか!?」

興奮気味に海が言う。

「「もちろん」」

俺と寛治が答える。

「やべーよなあのキャラ…めちゃくちゃ強そうだしカッケー。もう1人の新キャラは超絶可愛いし…」

「これだからこのゲームはやめられないぜ。毎度毎度アプデ生放送の度にこれだけ楽しめるんだからさ」

「うぉぉぉぉ!俺は絶対2人とも引くぞ!!」

「そんなの当たり前だよ海。僕も絶対2人とも迎える…!」


「でもお前らガチャ石あるの?」

俺が聞くと2人は急に真顔になり親指と人差し指で円をつくり「「これだよ。これさえあれば全て解決さ」」と言った。


「ほどほどにしとけよ…。寛治はバイトしてるからまだ分かるが、海はバスケ部が忙しくてバイトできないんだろ?大丈夫なのか?」


「俺は部活と勉強頑張ればそれなりにお小遣いがもらえるからな。このゲームのためなら俺は何でも頑張れる…。というか凪、お前こそどうなんだ。石はあるのか?」


「ふっふっふっ。よく聞いてくれた。俺はこの日のために1000連分貯めていたのだ…!」


「なん……だと……?」

信じられないと言った目で海が見てくる。

ふふ。そうだろう。驚くのも無理はない。


「あのキャラはリリース日から紹介されていただろ?俺はあの時あの子に一目惚れしたんだ…。」

俺は自慢気に言った。

いつものようにそんな他愛無い話をしていると後ろからとても大きな笑い声が聞こえた。


「ウッソ、そんなことある?瀬里奈、あんなに好きだって言ってたのに振っちゃったの?せんぱいかわいそー」

声の主はギャルグループの本堂真里だった。そのギャルグループは大体本堂真里、浅田瀬里奈、花守由香の3人でおり、たまに他の女子が混ざっていたりする。この3人は全員もれなく金髪でネイルやらピアスやらをしていてまさにギャルといった感じだった。


「だってなんか思ってたのと違ったんだもん。カッコいいガツガツ系だと思ってたら全然何もしてこないし。本当にアタシのこと好きなのかなーって。先輩なんだからもっとエスコートして欲しかったなー。あーあ。どうしたら長続きするんだろー。」

話を聞く限りだと浅田は何人も彼氏を作っては振っているようだった。まだ入学してから2ヶ月だというのに…。


「まずは相手を知ることから始めたらいんじゃない?瀬里奈って知らない相手とも付き合ってるでしょ?」

途端、他2人が笑い出した。


「ゆかりんマジで言ってる?そんなめんどいことしてたら彼氏なんて一生できないよー?」

「由香ってちょっとズレてる所あるよね。まあ、そこも可愛いけどさ。もしかして彼氏とかできたことない感じ?ウチが紹介してあげよっか?」

そう言ってずっと笑っていた。花守を除いて。花守は気まずそうに「あはは…」と苦笑いをこぼしていた。


「やっぱ女子って怖いな」

聞こえないように海と寛治に言う。

「ああ、やっぱ女子は清楚に限るぜ。」

「僕はギャルと関わったら一瞬で金づるにされる自信があります。」

俺らはうんうんと頷き合った。しばらくした後、予鈴を告げるチャイムが鳴り俺らは授業の準備を始めた。




「悪い、先生に社会科へプリント持ってくように頼まれてるからちょっと待っててくれ。」

放課後、海は部活に行き俺と寛治は一緒に帰っているのがいつもの日常だ。しかし集配係の俺は先生の雑用係と化してしまったためたまに仕事を課されることがある。

「またか?雑用係さんは大変だね。」

少し揶揄うように寛治が言う。

「集配係だっての。雑用係だって知ってたらやらなかったよ。」

ため息をつきながら俺はプリントを言われた場所まで持っていく。

「集配係の仕事じゃないだろこれ…しかも遠いし…」


「やめてください!!」

社会科にプリントを置き終わり、愚痴をこぼしながら教室に戻ろうとした時、聞き馴染みのある声が聞こえた。花守だ。


「由香ちゃん、彼氏いたことないんでしょ?真里から聞いたよ。俺が色々教えてあげるからさ付き合ちゃおうぜ」

窓を見ると下の中庭あたりで花守と見たことない男が話していた。というより花守に強引に交際を求めていた。

「い、嫌です。ごめんなさい。」

花守がそう言っても男は聞かず花守に手を伸ばして腕を掴んだ。

「は、はなして…。」

「だーかーらー。俺と付き合おうって言ってんじゃん。何で断るの?」

まるで話が通じてない相手にやばいと思った俺はすぐに階段を駆け下り中庭の近くまで行き2人に聞こえるように

「先生、ちょっと相談事があるのですが…中庭についてで、噴水に少し壊れている部分があって見てほしいのでついてきてください。」

と言った。男は先生が来ると悟ってすぐに、

「まあ今日はここまでで。今度はいい返事が聞けるの待ってるよ。」

とそう言って出て行った。

俺が中庭に通じるドアを開けると力が抜けてその場に座り込む花守がいた。いつものギャルオーラはなくて弱々しく目に涙を浮かべてこちらを見ていた。長い金髪に綺麗な目。耳にはピアスがついてあった。あまり関わろうとしてこなかったのでちゃんと見てなかったがめちゃくちゃ可愛い。普段のギャルオーラがないからか守りたくなるような気持ちが出てしまう。何考えてるんだ俺。俺は頭に急に出てきた思考を払い退け、

「大丈夫か?」

と言い手を差し伸べた。この日から俺の高校生活が変わっていくとも知らずに。

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