第37話『快気祝いという名の飲み会』

復帰祝い。


そう。復帰祝いである。


「えー。ごほん。では本日は、我らが友、タツヤの快気を祝しまして」


「話がなげーぞー! アーサー!」


「む。そうだな。では簡単に。復活おめでとうタツヤ。かんぱい!」


「「「かんぱーい!!」」」


俺はビールグラスをぶつけ合い、その後一気に半分ほどを胃に叩き込んでゆく。


「くはー! 生き返るー!!」


「いやー。しかし、今回の休養は長かったですねぇ」


「まぁ、その間に別の世界にも行ってたしな。悪い悪い」


「いえ。私たちも別の世界へ応援に行ってましたし。同じですよ」


「そうそう。気にすんなって」


「そうか。そりゃ良かった」


「それよりもだ。タツヤ、例のアレは大丈夫だったのかよ?」


「例のアレ?」


「メリアちゃんの事だよ」


チャーリーの言葉に、俺はメリア様との事で起こった色々な事を思い出して嫌な気持ちになった。


「メリアの事? 何かあったのか?」


「あぁ。メリアちゃんが、ファンサービスを辞めたんだがな。それがタツヤが原因だって言うんで、嫉妬した野郎共に追われてたんだよ。俺はそれを伝えようとしたんだが、繋がらなくてな」


「そんな事になっていたのか。メリアめ。タツヤにまた迷惑をかけて」


「いや、その件はそんなにメリア様に原因は無いから。あんまり責めないでやってくれ」


「タツヤはメリアに甘すぎだ。迷惑ならば迷惑だと言わないと駄目だぞ」


「あぁ、分かってるよ。大丈夫だ」


「それにしてもビックリしたぜ。メリアちゃんとタツヤが結婚するだなんだって話を聞いた時には」


チャーリーの言葉に静かに微笑みながら酒を飲んでいたハリーと、アーサーが同時に吹き出す。


ハリーなんか余りにもビックリしすぎて、むせているくらいだ。


「おい。チャーリー」


「あぁ、勘違いだったんだろ? 知ってるよ。へへ。随分と大変そうだったみたいじゃないか」


「大変なんてモンじゃなかったよ。こう血走った目をした奴らに追いかけまわされてな。死ぬかと思ったぜ」


「ハハハ。女の子に囲まれてるんだ。それくらいは我慢しろ」


「出来るか!」


「……タツヤ」


「ん? どうした。真面目な顔して」


俺は酷く真剣な表情をしたアーサーを見ながら疑問を口にする。


そして、アーサーはそんな俺に、その表情のままの口調で問う。


「君はメリアの事をどう思っているんだ?」


「どう思うって、言われてもな。良い人だと思うよ。って、人じゃない神か」


「いや、そういう事じゃなくて、恋愛的な意味でだ」


「……」


俺はアーサーの口から出るとは思わなった言葉に思わず口を開けてしまった。


「いや、まさかアーサーからそんな事を聞かれるとは思わなかったよ」


「……」


「まぁ、そうだな。メリア様か。うん。さっきも言ったけど良い方だと思う。それと同時に、俺には勿体ない方だとも思ってるよ」


俺が真面目な話をアーサーとしていると後ろのボックス席がドタバタと騒がしくなった。


居酒屋だからしょうがない所もあるが、それにしても煩いな。


酔っ払いはこれだから。しょうがない連中だ。


「もし、メリアが君の事が好きだと言ったら、どうする?」


「どうするって言われてもな。難しいよ。こういう場では答えられないかな」


「そうか。では、もしそうなった時は、頼む」


「まぁ、そんな日は来ないだろうが、分かったよ」


「というかタツヤは、ヒナヤクさんが好きだったのでは?」


「あー。好きというか憧れかな。そういう風に考えた事は無いよ。あの人は遠いからな」


「遠い。ですか? でもよく二人で話をしている様な」


「あー。まぁ、そうなんだけど。どこか壁があるというか。最近妙な違和感があるんだよな。何でか分からないけど」


「何かやったんじゃないですか?」


「え!? いや、そんな覚えは無いけどなぁ」


「分からないぜ? 女の子はちょっとした事で気持ちが揺れちゃうらしいからな」


「マジか。今度何か菓子でも買って行こう」


「精々いい菓子を買っていくんだな」


「そうするよ」


俺はツマミを食べながら追加の酒を頼んで、更に喉を潤してゆく。


そして、ふと気になる事を聞いてみる事にした。


「そういえば次はどんな世界なんだ?」


「あぁ、そういえばタツヤにはまだ話してなかったな。今度の世界は、タツヤが頼りになりそうなんだ」


「俺が?」


「えぇ。学校という場所で事件が起きる可能性があるらしいです」


「学校!」


「お。その反応。やっぱり知ってるんだな?」


「あぁ、まぁ。俺が知ってるのと同じかは知らないが、知ってる場所なら、まぁまぁ面倒な場所になりそうだな」


「そうなのか」


「まぁ、子供が勉学の為に集まる場所なんだけど、勉強だけじゃなくて、部活っていう少人数で集まる活動をやってたりで、それぞれのコミュニティを作ってる場所なんだよ。ただ、その分、外側からじゃあ見えない事も多くてな。事件が起きるのなら内側に行く事になるんだろうなって感じだ」


「ほー。じゃあ子供にならないといけない感じか」


「そうなるだろうな」


「子供か。他に何か誓約はあるのかい?」


「いや、まぁ、そんなには無いと思うけど」


「そうか。なら問題はそれほど無さそうだな」


「まぁ、そうだな。あぁ、でも一応戦える事は隠しておいた方が良いかもしれない。世界にもよるだろうけどさ」


「そうだね。目立つのは避ける方が良いか」


「……いや、アーサーはどうやっても目立つだろうけど」


「そうだな」


「そうですねぇ」


「えぇ!?」


「ちなみにそこがどうかは知らないが、学校は男女共に居るから」


「あー」


「はいはい」


「なんだ。その反応は!」


「アーサーがモテないって事は無いから、その辺りは諦めよう。むしろ、その辺りから何か情報を得られるかもしれないし」


「そうだな」


「というか、そういう話ならタツヤもそうなのでは、ないですか?」


「は? いやいや。モテた事ないが」


「いや、今四人の女性と同棲されてますよね?」


「四人の……女性?」


俺は思わず疑問を口にしたのだが、すぐ後ろのボックス席がまた騒がしくなり、思わず視線を向けてしまう。


さっきからたまに騒いでくるが。


酔っ払いは本当に場所を考えないな。


「ハリー。確かに子供でも女性かもしれないが、それでも子供だ。分かるな?」


「いや、まぁ確かに、それはそうですが……。でもタツヤと同年代の方も居ますよね?」


「ハリー。女性とは人間の事だよ。飼っている訳でもない動物の性別なんて気にならないだろう?」


「いや、まぁ確かにそうかもしれませんが」


「それを言うのなら、ラナちゃんとか結構タツヤの好みなんじゃねぇの?」


「まぁな!」


「おぉ、今日一番ハッキリ答えたな」


「そりゃあ、そうだろう。ラナ様は最高だぞ。この間なんて家で暴れまわる連中を叱ってくれてな。あれから少しはまともになったんだ。俺は感動したね」


「いい体してるしな」


「おい。チャーリー。女神様に対して不敬な考えは止めろ。ラナ様は素晴らしい女性だが、それと同時に女神様なんだ。敬う心を捨てちゃあいけない」


「悪かったよ。ほら、キュウリ食え」


「あぁ!」


俺は勢いよくキュウリを食いながら、酒を飲むのだった。

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