第36話『圧倒的メインヒロインの姿』

非常に気分が良い。


最高の気分で目覚めた俺は、ベッドにある謎の膨らみを無視して、ベッドから落ちたであろう床の物体を無視して部屋から出た。


そして着替えをすると、外へ向けて出てゆき、ランニングを始めるのだった。


走っている途中で、アーサーに会い軽く話をしてから、そろそろ仕事に戻れると告げた。


アーサーは実に嬉しそうな顔をしながら、去ってゆくのだった。


アイツ……。そんなに仕事が好きだったんだな。と思いながら家に向かい歩いていると、マンション近くの植木で寝ている男を見つけた。


早朝からどんな奴かと思ったら、チャーリーであった。


おそらくは朝まで飲み歩き、マンション近くで力尽きたのだろう。


このまま放置しても良いが、流石に第三異世界課の恥である。


俺はアーサーとハリーに連絡を取り、筋肉の塊であるチャーリーを運ぶ手伝いを頼み、快く引き受けてくれた二人と共に、チャーリーの部屋までチャーリーを運んで玄関に寝かせておいた。


まぁ、チャーリーはこんな事で風邪をひくほど弱くないので、問題ないだろう。


という訳で、俺は二人に家で茶でも飲んでいくか? と聞いたが、早朝には申し訳ないと断られ、そのまま二人は帰っていくのだった。


何と言うか。人の良い奴らである。


その後、部屋に帰った俺はいつもの様に朝食の準備を始める事にした。


「ふむ。朝食はパンか。しかし僕はご飯が食べたい気分なのだがね」


「お前の飯を作る予定は無いぞ」


「何故だ! むしろ僕以外の予定は全て必要ないだろう! 僕だけを優先するべきだ!」


「さて、これで良しと」


「無視するな!」


「やかましいな。ご飯が食いたきゃ、ほら。冷凍庫にご飯があるから温めて食べろ」


「炊き立てが良い!」


「なら自分でやれ」


「僕が出来る訳が無いだろう! 常識で考えたまえよ!」


俺は子供たちの朝食をテーブルに並べた後、ため息を吐きながら米を研ぐ事にした。


騒ぎ始めたら、自分の欲望が満たされるまで騒ぎ続ける女だ。


早いうちに終わらせる方が良い。


俺はよく知っていた。


「ふぁあぁあ。おはよう。タツヤ」


「あぁ。顔は洗ってきたか?」


「うん」


「そうか。じゃあご飯は出来てるから、食べな」


「分かったわ。ミティアはいつもの朝シャワーですって」


「そうか。じゃあ着替えを準備しておかないとな」


「フン。たまには自分で準備させなさいよ」


「そうだな。そのセリフは是非とも鏡の向こうに居る奴にも言っておいてくれ」


「私は良いに決まってるじゃない」


「多分ミティアちゃんも同じ事を思ってるよ」


俺は風呂場へ行き、ミティアちゃんの着替えを用意すると、そのまま台所へと戻ろうとした。


しかし、俺の存在がしっかりとバレており、シャワーの音をさせながら、ミティアちゃんが声をかけてくるのだった。


「あら。タツヤさん。そんなにも私の事を」


「何のことか分からんが、着替えは置いておくよ」


「ふふ。一緒に入りたいのですね?」


「全然そんな気持ちは無いから。それに、早くしないと朝食が冷めるよ」


「っ! 急ぎますわ!」


「是非そうしてくれ」


俺は風呂場から出て、台所へ戻ろうとしたが、携帯が激しく着信を告げる。


「はい。もしもし」


『あぁん。タツヤさぁん。私、体が熱くてぇ。タツヤさんのおはようのキスが無いと、起きられませぇん』


「アンちゃん。別に遊んでいるのを止めるつもりは無いけど、朝食食べないのなら、下げるよ」


『すぐに行きます!!』


俺は電話を切り、再び朝食の準備を始めた。


何かあった時の為に魚を用意しておいて良かったと思いながら、鮭を焼き、味噌汁を作る。


そしてそれの準備を終えて、テーブルの上で何やら作業をしている莉子の近くに置いてやる。


「ほれ、朝飯だ」


「ん? おぉ! おぉぉおお!! 夢にまで見たタツヤのご飯だ! ごはん! ごはん!」


「ガキみたいなはしゃぎ方をするな」


「あーん! っ! タツヤ! タツヤ! 魚に骨がある! 骨だ! 口の中痛い!」


「……ガキか……ったくしょうがないな。ほれ、貸せ」


俺は莉子から皿を奪い取ると、魚を解体し、骨を取り出してそれ以外の部分を別の小皿に分けていった。


それから少しして、口の中に手を突っ込みながら骨を取り出そうとしている莉子に皿を渡して終わらせたと告げると、今度はニコニコ笑いながら口を開けた。


「なんだよ」


「ほえ!」


「取れってか? ったく。それくらい自分でやれ」


俺は小さなペンライトを持ってくると、莉子の口の中を照らし、魚の骨を探す。


そして、頬の所に刺さった骨を見つけるとそれを指で引っこ抜いて、他の骨とまとめるのだった。


「おー。痛いのがなくなった! 流石はタツヤだ!」


「分かったから。さっさと食え」


「うん!」


ニコニコと笑いながら食事を食べ始めた莉子をそのままに俺は立ち上がり、相変わらず長い髪を大して乾かさずに出てきたミティアちゃんの髪をドライヤーで乾かし始めるのだった。


そして、ミティアちゃんの髪を乾かし終わる頃には、三人とも朝食を食べ終わったらしく、それらの皿をまとめて台所へ持っていく。


とりあえず表面をキッチンペーパーで綺麗にしてから、流し台に重ねてゆき、そろそろ俺の朝食を作るかと準備を始め……。


「タツヤ! タツヤ!」


「どうした?」


「ここ! ここが分からないの!」


「んんー? あぁ、ここはこうやって、こうだ」


「あ、そうなんだ! 流石タツヤね!」


「タツヤさん! 私はこの問題が全部分かりません!」


「はいはい」


俺はアンちゃんの手の先を確認して、その問題の解き方を一つずつアンちゃんに教えてゆく。


そして、それが終わってから、俺は再び台所へ戻ろうとしたが、その前に莉子から声が掛かった。


「タツヤ! ご馳走様だ! これ」


「はいはい。片付けるよ」


「うむ」


満足気な莉子をそのままに俺はそれを流し台まで運び、骨を処理してそれらも水につけてゆくのだった。


そろそろ飯を食うかと準備をしようとしたのだが、またしても莉子の声が掛かる。


「タツヤ! お茶が飲みたい! 食後のお茶だ」


「はいはい。ちょっと待ってろ」


俺はお湯を沸かすべく、やかんに水を入れ、コンロに置いた。


そして火を出したのだが、コンロよりも先に火を噴出して爆発した方が居た。


そう。ラナ様だ。


「あ、あなた達!! そこに座りなさい!!」


珍しく怒っている。


その激しい怒りに普段は周りなど知った事かとばかりに自由人をしている莉子も言われるままに座ろうとした。


しかし、直接座るのは痛いと言うので、俺は急いで四人分の座布団を持ってきて、四人に渡すのだった。


そして、俺もわなわなと震えているラナ様の正面に座り、怒りの声を聞く事になる。


「あ、あぁああ、あなた方はタツヤさんを何だと思っているのですか!?」


「「「「……」」」」


「今日は朝から来る事が出来ず、様子だけ見させていただいておりましたが、あれもこれもと全てタツヤさんにやらせて! ご自分でも出来る事はご自分でやりなさい!! あなた方よりも朝早くからタツヤさんは起きているというのに、まだ朝ごはんも食べる事が出来ていないのですよ!?」


ラナ様は怒りに震え、涙を目尻に浮かべながら、必死に訴えていた。


良い人なんだなぁ。


あぁ、いや、神様だったわ。

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