第10話『女神様を崇めよ!』
おち、おちおちおちおち落ち着け。
れれれれれれ冷静になれ。
いや、俺は落ち着いてる。冷静だ。
まぁ、少しばかし落ち着けていないかもしれないが、大丈夫だ。落ち着いていない。
ただ自分の身に起きた事を、頭が処理できず、少々バグっているだけだ。
問題ない。すぐに問題なくなる。
「メリア! やはり君の差し金か」
『差し金だなんて。まるで私が悪い事をしているみたいじゃないですか。私はただ、同じ物語で頑張っている子達の悩みに解決方法を提示しただけですよ』
「よく言う。そのまま引き抜くつもりだったんだろう? 人事から聞いたぞ、勝手に転属願いを出していたそうだな」
『あら。そこまで知ってたのですね。流石はアーサー。パチパチパチ。褒めてあげますよ。私たちの世界が誇る最強の勇者ですね』
「茶化すな。そんな態度だからいつまでも女神としての格が上がらないのだろう」
『あー!! 今言っちゃいけない事を言いましたね!? 私だってこれでも精一杯頑張ってるんですから! そういう言い方は差別ですよ! 差別! それに、最近は私だって人気あるんですからね!? あっちへこっちへ引っ張りだこで!』
「そういう割に神としての格が上がらないのは、所詮人気取りしか出来ていないからだろう? マザーも言っていたぞ。メリアはもう少し落ち着いて欲しいと。男の子の人気取りばかり上手くなっても、いつまでも昇格出来ず、下っ端女神のままだとな」
『チッ! あのお局ババア。婚期逃した行き遅れの癖に』
「ん!? なんだって!?」
『何でもありませんよ。アーサー。それといい加減その不敬しかまき散らさない口を閉じたらどうですか?』
お、おぉ。バッチバチに争っている。
二人の争いで火花が散り、それが周囲に散った花びらを燃やしていた。
うーん。掃除が楽になったな?
いや、そういう事じゃない。
何かいつも以上にアーサーの口が悪いのは、多分女神メリア様とウィスタリア様が同郷だからだろうか。
まぁ、でも分かる。
あれだよな? 普段大学とか会社とかで、真面目で落ち着いている奴が地元に帰って同級生とかに会うとはしゃぎ始めるみたいな奴。
分かるぜ。アーサー。俺も多分同じだから。
俺と同じ同郷世界出身の奴が居たら、きっと同じ感じにはしゃいだろうぜ。
「とにかくだ。余計なちょっかいは出さないで貰おう。今俺たちは休暇中なんだ。分かるだろ?」
「えぇ、勿論知っていますよ。でも、休暇中にお話をしてはいけない決まりは無いでしょう?」
「ウィスタリア。それを図々しいというんだ。誰が好き好んで休暇中に仕事の話をしたいと思う? ゆっくりと休ませてやるのが、真に人を思いやるという事ではないのか?」
『でもそれは、アーサー君の勝手な決めつけですよね? 決めるのは森藤達也さんですよ。ね? 森藤達也さん』
「メリア……!」
ん?
不意に俺に視線が集まり、俺はスッと背筋を伸ばした。
気分はあれだ。街を何も考えず歩いていたら、急に指さされて、君! って言われた時の気持ち。
そう。緊張とかを飛び越えて石像になる感じだ。
無論言葉は発せない。
頷くか、首を横に振るかだ。
『森藤達也さん。私の提案に賛同して下さる場合は、何か反応を示してください。賛同できない場合は断りの言葉を』
「……っ!?」
女神メリア様ァ!? どぼぢで!
俺の心の声が聞こえてるんですよねぇ!? なら、その問いかけはおかしくないっスか!?
ってぇ! 目を逸らさないで下さい!!
見なかった事にしないで下さい!!
『では、質問しますね』
ちょっ! ちょっ!! 話を進めないで!
無視しないで!! 聞こえてるんでしょ!? 聞こえてますよねぇ!?
『私たち第七異世界課に、休暇中の間だけで良いので、協力して下さいませんか?』
俺は全力で首を横に振った。
前回の悪夢が脳裏に蘇ったからだ。
また同じ事になれば、俺はきっと死んでしまうだろう。
まぁ、その顔は喜びに満ちているだろうが。
それでも! 俺はまだ死にとうない!
だから、全力でそれを示した。が、現実は無情だった。
『拒否の言葉はない。ありがとうございます。森藤達也さん』
うぉい!!
無視したぞ!? この女神!!
「……メリア。タツヤは首を横に振っているが、これは拒絶の意思を示しているんじゃ無いのかい?」
『そんな訳ありませんよ。だって、最初に言ったじゃないですか。拒否の場合は言葉で。と』
「確かにね。しかし」
『世界には様々な文化、考え方があります。首を横に振っているからと言って、私たちの世界と同じ様に拒絶を示している訳ではないのですよ』
「……そうだね」
納得するな!!
アーサー! 助けてくれ!
アーサー!!
俺の心の声は俺の中だけで虚しく響き、結局俺はまたゆるふわ天国へ逝く事になるのだった。
そして、日にちが翌日に変わり、場所も第七異世界課の企画室に案内された。
懐かしき、この会社へ来て初めて訪れた場所である。
しかし、まぁまぁ慣れはしない。
「……ふぅ」
「申し訳ございません。無理に連れて来てしまったようで」
「いえいえ。嫌だったという事は無いですから」
まぁ、嘘だが。
しかし、女の子だけの空間に一人で来るのが苦痛とか、口が裂けても女の子には言えまい。
男の子の意地という奴だ。
さらに言うなら、これを口にすればきっと彼女たちが傷つくだろうという思いもある。
だから、何があろうと口には出さない。
『ほら。大丈夫ですよ。そんなに気にしなくても。こうして森藤達也さんも来てくださったのですから。気にせずお話をしましょう』
だが、俺が守りたいと思うのは四人の女の子であり、女神メリアは関係ない。
この女神はカスや。一生懸命な女の子と一緒にしてはいけない。
俺は心にそう誓った。
『あー。えっと? 私、実は森藤達也さんの心の声が聞こえているんですよ』
「えぇ。知っていますよ」
女神メリア。
『様が消えてる……! 信仰が、無い? 全然見えない。なんで……』
「それはそうでしょう。当然です。ちなみに次、不快感を感じたら、女神も消えます」
『なっ!!? ひどい! 私、こんなに頑張ってるのに!』
「二つ、良い事を教えてあげましょう。一つ。社会というのは学生時代とは違い、頑張っている。努力している。等と言う言葉に意味はありません。そんな事は当たり前だからです。必要なのは結果。結果だけが全てなのです。そして結果から導き出される貴女の現在の評価がコレ。ただそれだけなのです」
『う、うぅ……流石は正気とは思えない労働世界から来た人。狂気みたいな事言ってるよぉ』
「そして、もう一つ。信頼というのは時間を掛けて積み上げる物ですが、それが壊れるのは一瞬なんですよ」
俺は地面によよよと倒れている女神メリアを見下ろしながら、ペッと言葉を吐き散らし、一息吐いてから、落ち着いた心で不安そうにしている女の子たちへ視線を向けた。
俺に出来る事があるなら、全力でやろうという気持ちで。
どうやら本当に困っている様だから。
俺が気持ちの入れ替えをして、いよいよ話を始めようかとしていた時、ポケットに入れていた携帯端末が着信を告げた。
何だろうかと、一言断ってから画面を見れば、『女神☆メリア様』とかいうふざけた名前からのメッセージだった。
しかも画像付き。
中身を見ると、『少しだけだよ? 貴方の信仰で少しずつ見える様になります』なんて舐め腐った言葉と共に、短めのスカートを少しだけ上げて太ももを露出している女メリアが居た。
カスが……
俺の信仰する神を侮辱するなよ。ゴミが……。
俺はそっと痴女メリアをブロックして、携帯をしまうのだった。
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