第25話

「ふぅん」


熱湯をポットから入れて、自分の分だけ牛乳を入れた。坂井さんは、ブラック。マグカップを二つ持ってまたソファに行くと、一つを坂井さんに渡した。私はゆっくりと坂井さんの隣に座ると、牛乳たっぷりのコーヒーをふぅふぅ息を吹きかけながら、ゆっくりと一口飲んだ。すると、坂井さんもコーヒーを飲んで、


「卒業式、昨日だっけ」


と少し大人しく訊ねてくると、私は気がついて坂井さんを見た。


「うん。覚えてたの?」


「行く予定だったからな」


「珍しい。そういうの嫌いなんじゃ…」


「だって、ほら、もう高校生じゃないんだろ?」


坂井さんがそう言って私の頬をそっと撫でると、私はドキッとしてしまった。触れられた場所から、熱を帯びてくる。


坂井さんとは、キスだけする仲。


セフレじゃないけど、キスフレ?遊びなわけでもないし、だからといって、死ぬほど好きで…っていう熱情があるわけでも、ない。


でも…。


坂井さんは自分のカップをちゃぶ台に置くと、私のカップも取り上げてちゃぶ台に置いた。そして右手で私の肩を抱き寄せると、ゆっくりと唇を重ねた。私は目を閉じて、坂井さんのキスを受け入れた。私の唇を全部食べちゃいそうなくらい、坂井さんの唇が大きく開いて私の唇を塞ぐ。


「んっ…」


坂井さんは唇を少しだけ離すと、息を乱して私を見つめていた。坂井さんのキスは、好きだ。普段は駄目なおじさんなのに、キスするときの抱擁はとても優しい。

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