第4話

そんな滋を見るのは、とても意外で面白かった。


その頃には、もう嫉妬もない。彼のことを好きだったのは、子供の頃の話。今は、滋がどんな女の子と恋をして、どんな顔をしていくのか、それが楽しみになっていた。


萌梨は、ある日突然母親が事故死して、忌引きで1週間ほど休んだ。


この頃から、何かが変わっていったんだと思う。


休み明け、教室に現れた萌梨は以前とは別人のようだった。無邪気な笑顔も明るい声も何処かに置き忘れてしまったようで、暗い影をその肩に、背中にズッシリと背負っていた。


母親を失ったショックだろうか。その痛みを、私はまだ知らない。想像なんかできないほど、きっと深い傷なんだと思う。悲しすぎて、笑うことも忘れてしまったのだろうか。話しかけても答えず、私から逃げるように走り去ってしまうようになった。特に男子に話しかけられた時の驚愕な表情は、異様だった。悪魔にでも腕を掴まれたかのように、ガタガタと震えている。男性教員にも同じ反応だ。


「喧嘩したの?」


と滋が私に聞いてくる。


「そんなに心配なら自分で聞いてみたら?」


「無理だろ。雪子にもあんな避け方してんだ。話したこともない俺が近寄ったら、さらに怯えるよ。何か…あったのかな」


「…お母さんを亡くしたこととは、別の何かが、あったんだと思う。けど…」


私は滋と学校の屋上で話していたけれど、萌梨のことはここで話したところで、何も変わらない。


結局、萌梨とはそのまま疎遠になり、2年になるとクラスも変わって、あまり顔を合わせることはなくなった。

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