第15話 コミュニケーションレッスンですわ!

「整理しますわね。一方的にイジられて終わる事が多く、対等な関係性を構築できずにいるのを改善したい、ということでよろしくて?」


 ディナの問いに、真剣な顔でダイゴが頷く。


「うん。どうすればいいかな」


「結論から言わせていただくと、ダイゴローには〝返し〟と〝落とし〟の技術を習得していただきますわ」


「〝返し〟と〝落とし〟……」


「説明のために、一度見本を見せますわね。吹」

「は、はい!?」


 急にこっち来た!?

 返事の声は上擦ってしまったけど、グッと気を引き締める。

 見本、見本……! ……アドリブで?


「ブラコンも大概にしたほうがいいですわよ。アキくんもこれから思春期でしょう?」

「まって、ブラコンちがう」


「でも可愛がっているでしょう? ついつい構いすぎたりしているんじゃありませんの?」

「そんなことないよ。ディナのお兄さんみたいに発信機つけたりしてないでしょ?」


「……怖いこと言わないでくださる!? つけられてませんわよ!」


 急に始まった茶番にポカンと口を開けるダイゴ。

 ディナが彼に向き直る。


「……とまあ、このように。会話を広げる、あるいは区切りをつけるための受けの技術を身に付けてもらいますわ」


「なるほど……ところでディナって?」


 できる限り自然に言ったのに!

 見本ってこれでいいのかなー上手くできたかなーなんて、そのまま流そうとしていたところを鋭く指摘された。


 どうしよう、と横目でディナを見る。

 そっぽ向かれている。

 助け舟は期待できなさそうだ。


「あの、俺が、名前で呼ばせてほしいって言って。それでそっちのほうが呼びやすいだろうって、愛称を勧められて……ね?」

「……ええ。吹がみんなと同じは嫌だと言うので、そうなりましたの」


 そうだけど。

 そうだけど、その意訳だとまるで俺が逆張り男みたいなんですけど。


「そっか……! いいなあ、仲良しだ……!」


 ダイゴはダイゴで、どうすればその容姿でそこまでピュアに育つことができるのか。

 今度普段なに食べてるのか教えてもらおう。


「コホン……解説に進みますわね。まず、吹の言った『お前も兄に発信機つけられてるじゃん』という内容のカウンター。これが〝返し〟ですわ」


「なるほど……でも俺、人をイジるのとかなんか、悪い気がして……」


「もちろん、何を言ってもいいわけではありませんし、程度も弁えなければなりませんわ。『でもお前も』『お前こそ』ばかりでマウントポジションに固執すると友達失くしますもの」


「うん……俺もそういう人苦手かな」


「だからといって、イジられても受け入れ続けるだけだと、それもあまり良くはありませんわ。お互い理解の上でならまだいいですけれど、それでもイジる側は増長しやすいですし、イジられる側はストレスが溜まりやすいですもの。エスカレートするといじめに発展する可能性もありますわね」


「たしかに……俺がまさに受け入れるだけになっちゃってるなぁ」


 ディナの解説にうんうん頷くダイゴを横から見守る。

 予想外に真面目な授業だ。

 ダイゴの依頼を受けた時点で、もうこの台本が頭の中にあったのだろうか。


「だから、ときおり形勢を逆転させるほうがいいんですのよ。もしくは会話にオチをつけて区切り、一度リセットする。先ほどの例だと、私の最後のやつですわね」


「それが〝落とし〟?」

「ええ。やり方はいろいろありますが、誰か一人は出来ると微妙な空気のまま会話が終わることはなくなりますわ」


 そういえば、前に教室で唐住さんたちと百人一首の暗記勝負をしていたとき。


 奔放な唐住さん、芝多くん、色くんに振り回されるという形を取っていたのも、その辺のテクニックの活用だったのだろうか。


 あれ? でもあのときは――


「どっちもしない人もいるよね? 佐藤さんとか」


「そもそも人からイジられもしないし、ツッコミもしない、という形もありますわね。その人のキャラクター次第ではそれもいいですけれど……ダイゴローは能力もありますし、人目も引きますわ。そういう無難な形を取ると相手に壁を感じさせてしまいやすいですけれど、それは本意ではないでしょう?」


 ディナに問いかけられ、首を縦に振るダイゴ。


「うん。俺も自分でちゃんと会話回せるようになりたいし、覚えるよ。〝返し〟と〝落とし〟」


「その意気ですわ! ではまず、吹と練習してみなさいな。貴方の場合、最初のイジりが褒められる形であることが多いですから、〝返し〟も褒め返す、わざと調子に乗ってみせてツッコミを誘う、などがやりやすいと思いますわよ。慣れたらノリツッコミなどで自分で落とすのもありですわね」


「わかった! 多々良、よろしくお願いします!」


 最敬礼、再び。

 なるほどね。俺が練習相手をするのね。

 仕方がない、乗りかかった船だ。


「えっと、そうだね、じゃあ……」


 思い出す。

 クラスメイトたちは、普段どんな風に彼のことを扱っていたか。


 ――よし。


「そろそろ、教室に神棚つくらないとね」

「え? 神棚? なんで?」

「ほら、ダイゴより後ろの席の人はダイゴに見惚れて授業に集中できないからさ。教室の後ろで神棚に鎮座してもらわないと」


「…………え、っと……」


 ――ピピーッ!


「吹! 最初から飛ばしすぎですわ! もうちょっと易しめのフリを投げて差し上げなさい!」


 ……むずかしい!

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