3 初討伐とスキル『形態変化』

 アルフォンス家従属騎士団団長の エドラゴ は父上よりも上位職の『騎士』なのである。

 よって、下級職『鍛治師』である俺なんかが太刀打ちできるわけがない。


 それにしても、国外追放なんて滅多に聞かない。

 中にはされた者はいるのだが、その理由は王国に多大な損害を与えたり、裏切ったりするもの。俺はそれに値するってわけか?

 いや、これまでにもいた。貴族家出身なのにスキルや職業が不遇な目に遭った者。だからと言って、国外追放は免れてたし。なのになぜなんだ。なぜ、なぜ父上はこうまでして俺を――。


 こんな事考えてる余裕はない。

 いつかは見つかってしまう。


 ――ここから逃げた方が賢明だ。


 馬房を出て、十数人もの騎士団の目を盗みながら『アインズ村』を脱出して深い森へと逃げた。

 村の中でもひと気のないところを選んだのが功を成したのである。


 やっとの思いで逃げてきたは良いが、この森は来たことがない。きっと魔物だって出るだろうし、ここを抜けたらどこに着くのかすらもわからない。

 それでも引き返すことはできない。


 進むにつれて、しだいに森は深くなりますます薄暗くなっていく。おびただしい獣臭。きっと魔物たちだと思うが。

 

 よりによってなんで父上から教わった戦闘術を思い出さなきゃいけないんだ?

 

 こうして訓練を思い返す。


「まず、気配だ。感覚を鋭く、五感を研ぎ澄ませる。音や匂いを感じ取るのが大事……」


 これだけ獣臭がするんだ。魔物はきっとどこかにいる。

 あとは、近いかどうか――。

 距離の問題。


 それから音――。

 来るならどこから来るか。

 動く時、必ず音を発する。

 正面か左右か、それか空か……。


 こんな事ならちゃんとした剣を持ってくるんだった――。

 なんで使えない木剣なんて持ってきたんだよ?


 こうして辺りに気配を集中させて森の中を進む。

 獣臭は強くなり鼻を刺激する。人の気配はしない。

 進むにつれて険しくなる森。


 そんな時、茂みから微かな音が立つ。

「ガサガサっ」

「――右かっ」


 木剣を構えて剣先を音の先に合わせる。と、微かな音から激しく変わって、茂みを掻き分け向かってくるのが分かる。


『ビッグスライム』の突進である。


 本で見た通りだ。ファンタジー小説や漫画、ゲームに出てくるようなスライムとは少々異なる。いや、少しながら凶暴そうな見てくれなのだ。

 体長は二メートルくらいで丸い。特徴は二本の角。特にこの角を向けての突進には注意が必要。角の長さは七〇〜八〇センチくらいになる。先端は鋭利で殺傷能力が高い。


 今までの訓練では対人戦での経験はあるが、対魔物は無い。

 どうする?

 さばいて受ける……か、避けるかである――。


「木剣で受けても受けきれないだろうから避けるしかない」


『ビッグスライム』は身体を引いて、角を前に突進を計る。うなり声を上げて土埃つちぼこりを立てる。


 目で追うほどの余裕はない。相当な速さでの突進なのだ。

 すかさず、サイドステップで横に飛び、突進から逃げることに成功する。が、わずかに角の先端が脚をかすめていた。


 しかし、手当の余裕はなく、『ビッグスライム』は次の攻撃態勢に入っていた。


 ――木剣のスキル『斬撃:Lv.3』ってどんな攻撃なんだ?


 再びそれをサイドステップで交わし、構えた木剣を振り上げて力強く振り抜く。


 ダメだ。当たらない――。

 そう思った瞬間、木剣の刀身から斬撃の空圧か影の類いが飛び、『ビッグスライム』を切り刻んで割れていく淡いブルーで透き通った肉塊。


 肉塊から顔を出す、ふたつに割れた淡いピンクの鉱石に似た石に気付くと、強く握られていた木剣がさきほどと同じような反応を見せては、その石も反応しているのだ。

 そして、石の反応は終息してふたつに割れた石は粉々になりながらパッと輝きを放つと消え去ったであった。


 ――また反応した。なんだろう?

 

「異変がないか調べてみよう」と、荒い息を整えながら木剣を置いて「鑑定」と唱える。


――――――――――――――――

名称:不明

従属先:なし

種族:『未契約』インテリジェンス・カスタム・ウェポン

攻撃力:123 保有魔力:200/200 耐久値:100/100

保有スキル:斬撃:Lv.3 自己修復 形態変化 警戒

――――――――――――――――


 うん?さっきと比べると『保有スキル』が増えてる。目に付くのは『形態変化』と『警戒』だ。


 こうして、木剣から投影された文字や数字が並ぶ画面を見ながら、さきほど負った脚の傷に薬草を潰してもみ塗る。

 

 やはりどうも気になる。

『警戒』はなんとなく分かるけど、『形態変化』ってなんなんだ?


 それに、『インテリジェンス・カスタム・ウェポン』は只事ただごとではない。本当ただの木剣なのに……。


 そういえば、さっきの攻撃……あんなの見たことない。当たらないと思ったらその瞬間に、斬撃が飛んで魔物に当たって。それにだ。あの切れ味――。


 あの攻撃が保有スキル『斬撃:Lv.3』だって事は薄々察しはつく。それでもいまいち使い方がどうもピンとこないのは確かだ。発動条件とか、俺に付与された 天賦のスキル 『鑑定』の発動方法ならなんとなく分かったけど……。


 スキルを口に出してみれば良いのか?


 ……ふん。バカバカしい――。


「でも、試しに……」と、まさかあり得ないだろうと踏んで、「形態変化」と詠唱したのだが。


 そのまさかである――。


 時がとまる、というのはこういう事なのだろうか。

 そう、この時俺の時間は止まった。


 詠唱を終えた瞬間、木剣は反応を見せてはまばゆい光を放って、その光が収束したかと思うと、そこには少女が座り込んでいた。

 いやただの少女ではない。完璧過ぎる美少女である。


 見た感じだと年齢は十か十一歳といったところか。背に届くほどのロングヘアーの金髪が揺れ踊りながら、鼻筋が通って透き通るような肌をして青色の瞳で上目遣いしながら凝視の眼差しを送ってくる。


 妖精のような綺麗な顔立ちのせいか、何度もこの光景を見ては時が止まるとはこの事だと呆然としてしまう。まるで可憐を具現化させたような容貌だ。それほど妖艶な美少女なのだ。


 座り込んでもじもじさせながら腕で胸元を隠して、じと目で睨んでくる。そんな少女の姿に呆気を取られる俺に切り出した。


「呼んだかしら?……きょっとん顔で立ちすくんでアホ面を浮かべながら私の目の前に立ってるって事は、呼んだのはあなたって事でいいかしら」

「えっ……えええっと、そう。そうです。……俺が呼びました」


 ――少女の勢いに負けて何故か敬語になってしまった。


 その見てくれとは相反するご挨拶で戸惑うのだが、それよりもだ。何も着てない裸体状態の少女がいきなり出てきたのだから、目のやり場に困っているところだ。


 両手で目を覆い隠して、指の間から目を細めて様子を伺うと、少女は疲れたように自分のロングヘアーの毛先を弄りながら、澄まし顔を浮かべているのが伺える。

 そうすると、隠れていた胸元が露わになって、すかさず俺はそれを見ないようにと。いや、見てはいけない気がしてうつむく。


「はあ、『形態変化』で呼んでおいて……この程度。まだまだといったところかしら。馬鹿みたいにマナを消費してニンゲンのあなたが使えないクズ呼ばわりされるならまだしも、私が駄剣となってしまうのだから困ったものかしら……。お前、名は?」


 色々と突っ込みたいところは山ほどあるのだが、少女のこのご機嫌斜めな様を見るなり、今はまだやめておこうと我慢だぞっと胸に手を当てる。

 

 ――むしろ今は厄介ごとは避けたい。


「俺の名は、ルーデン・アルフォンス。みんなルディって呼ぶから『ルディ』って呼んでくれ。と、その前にそんな姿されて話すってのもあれだから、なにか着てほしいね」


 さきほど薬草を取り出した肩掛け鞄から、黒いローブのような服と貴族らしい服を数枚を取り出してゆっくりと徐々に歩み寄り、露わになった胸元を視界に入れぬよう恐る恐るといった感じである。

 少女に手が届きそうな距離まで歩み、取り出したローブを華奢きゃしゃな肩に掛けると、丸めた背中から向かって顔まで視線を落として覗き込んでみると……、

 

「可愛い……まるで精霊みたいだ」

 

 と、思わず俺の口から溢れ落ちてしまった。


 さっきまで丸めていた背を起き上がらせて、俺の言葉に反応したのか、じと目から変えられてそれはまるで醜態を晒したやつを嘲笑うような目をして俺に視線を移した。

 そんな青色の瞳に似合う言葉は、冷酷である。


「私が可愛いのなんて当然なのよ。どこかのニンゲンは私を見るなり上から下まで舐め回すかのように……ニンゲンなんかに恥辱の限りを受けるなんてごめん。なのよ。それよりも、お前をどうするかの方が問題なのかしら」


 少女の視線で威圧されて後退りしたのは言うまでもなく――。

 抱えていた数枚の『らしい服』を座り込んでる少女の前に置いて少し距離をとった。


 ――色々と俺の立ち位置がヤバい感じになりつつあるのは今は放っとこう。

 

 『貴族たるはいつも冷静かつ紳士でなければならない――。民を率いる貴族たるは民を想い……』


 今更だが、父上の教えが思い返される。


 少女はなかなかの器用さを見せた。ローブを羽織りながら与えた服に袖を通す。首元がきついのか勢いよくぽんと音を鳴らすようにしてシャツから顔を出す様は、本当に可愛らしい仕草であった。


 与えた服はぴったりとは程遠く、だぼだぼのオーバーサイズ感も相まって、そんな少女の着替えにうっとりしながら目を奪われてしまっているが、ふと少女と目が合った。

 

 まるで吸い込まれてしまいそうな青色の瞳に息を呑んだが、我に帰って切り出す。


「俺をどうする……ってどういうことなんだい?」


 追放された身ではあるものの、それなりに貴族らしい事はやってきたはずだ。

 貴族が一堂に集まる社交会やら、舞踏会にだって参加はした。もっと言うと、させられたの方がしっくりくるが。

 いいとこの令嬢だってうんと見てきた。

 だけど、この少女はそんなレベルではないのだ――。


 この少女の方がよっぽど貴族らしい見てくれである。


 ――うん。仮にこの少女がどこぞの貴族家の御令嬢だとしたら五年後、きっと男たちはほっとかないだろう。と思う。


「従属契約をするのかってことかしら」


 そう言いながらお姉さん座りをして、輝く金髪のロングヘアーを掻き上げて再びじと目で睨まれる。


「従属契約?そんなこと言われても俺にはなにがなんなのかさっぱりなんだけど……」

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