第30話

玲蘭が家に帰ると、伊織が志穂とゲームをしていた。




「よーし!ファイナルラップだ。」



「ふっ、甘いな。伊織兄ちゃん。くらえ。」



「お、おい!このタイミングで甲羅はやめろよ!!」



「いっけー!」




ゴールを決めた瞬間志穂は、拳を天に突き上げた。




「おまえ、上手いな。」



「いぇーい!!」



「クッソー!」




玲蘭は志穂の楽しそうな顔を見て、伊織と家族になって良かったと思った。




「あ、お姉ちゃんおかえり。」



「ごめん、ごはん、用意するね。」



「手伝うよ、玲蘭。」



「いいよ!伊織も.....座ってて。」




玲蘭はさっきのことを思い出して、慌てて断った。



ちょっと、拒否しすぎたような気になり、しまったと反省しながら夕食の準備をする。




夕食が終わり、みんなが寝静まったあと、玲蘭はベランダに出た。



少し、落ち着かないと、と思い直していると、隣のベランダに人が出てきた。




「玲蘭。」



「伊織。」



「生徒会室では.......ごめんな。」




「あ、いや、あの。それは.......。」




「ごめん。忘れて。それだけ、言いたかった。」




伊織はそういうと、部屋に戻って行った。




玲蘭はもう、自分の中の気持ちが振り切れて爆発してしまった。





そのまま、部屋に戻り、廊下に出て、伊織の部屋のドアをノックした。




「玲蘭。」




「ごめん。私も話したいことがある。」




伊織は玲蘭を部屋に迎えいれた。




「昼間のこと、私嫌じゃなかったの。むしろ、嬉しかった。



どうしよう。伊織のこと。好きで好きで、仕方がないの。」




伊織は必死に話す玲蘭を抱きしめた。





「俺だって、気持ちに倫理観が、押し潰されそうなんだ。」





玲蘭は伊織の肌や匂い、呼吸を全て感じていた。




二人はこの先のことよりも、今の自分の気持ちしか見つめていなかった。

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