第25話

翌日も玲蘭は昨晩のことで頭がいっぱいだった。



「雨宮、雨宮?」



先生から呼ばれているのに、玲蘭は気づかなかった。




「雨宮?」




3回目で気がついて、やっと顔を上げた。




「はい!」



「what’s up?」



英語の授業中だったことに気がついて、玲蘭は慌てて答えた。



「お、alright.」



「OK. Please read the next page.」




そんなに当てられる程、ぼーっとしていたのかと思うくらい、動揺する玲蘭。




玲蘭の背中を伊織はじっと見ていた。




次の休み時間、さくらが話しかけてきた。



「珍しいね。玲蘭が授業中にぼーっとするなんて。なんかあったの?」



「なんか......?なんか......、なんにもないよ。」




「ならいいけど、なんかあったら言ってよね。」




親友のはずのさくらにも言えない。




そんな玲蘭の変化。




一方で伊織も、心の中がざわついている。




遠い存在だった玲蘭がこんなにも近くにいることで、自分の気持ちがうまくコントロールできないのだ。




さりなもそんな伊織を見て、ますます疑心暗鬼になる。




洋一は、この状態が堪らなく歯痒い。




「い、伊織。あのさ。今日、ヒマ?」




「いや。ごめん。予定、あるから。」





さりなの誘いをまた冷たくあしらい、伊織は教室を出て行った。



洋一はそんな伊織を追いかける。




「伊織、伊織!!!」



「んだよ、聞こえてるよ。」



「じゃあ立ち止まるか反応しろよ!おまえ、さりなのこと、どうする気なんだよ。」



「どうするって?」



「バンドのためにさりなに中途半端に思い上がらせるんだったら、とっとと別れてくれ。さりなが可哀想だ。」



「うん、それでもいいかもな。もう、面倒くさくなっちゃった。俺。



別れたらボーカル辞めるとかいうなら、バンドもそこまでだったんだな、と思えばいいかな、くらいの気持ちになってきたよ。」



「さりなのこと、弄びやがって。」



「めんどくさいよ。正直。うんざりしてる。」



「んだとてめぇ!」




洋一は伊織に掴みかかった。

廊下で喧嘩が始まった。



「もうあいつのワガママに付き合わされるの、うんざりなんだよ!」



伊織は力いっぱい、洋一を吹っ飛ばす。



見ていたみんなは逃げるか、先生を呼ぶかで、対応が分かれた。




結局、高橋先生や、紺野先生が止めに入り、洋一は保健室へ送られた。

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