プロローグ

第1話

「もう...嫌だ...。」





長くて黒い髪が、不自然に濡れている。

一華いちかは追いかけられた挙句、逃げ込んだトイレの個室で水をかけられたのだ。




こんな大胆ないじめにも

何も口を出せない先生。

この前まで友達だったのに

見て見ぬフリをする同級生たち。





何もかもが嫌になった。




「一華ぁー!!」





顔を上げると、幼馴染のあずさが、一華を見つけて走ってきた。





「またあいつらね。」




一華の顔をハンカチで拭きながら溜め息をつく。





「梓ちゃんはどうしてここに?」


「一華を探していたのよ!担任からあんたが進路希望白紙で出したって聞いて。」



「私、高校には行かない。」



「行かないって、この先どうするの?」



「だって、あの子たちと同じ高校行ってどうなるの?3年間同じ日々を過ごすなんて嫌。」




梓は一華の気迫に押されて黙る。





「確かに、この田舎じゃ、行くとしても市内の県立2校と私立の1校しかなくて、

どこへ行っても、ここの中学の連中がいるもんね。一華の言う通りよ。」



「梓ちゃんは...高校どうするの?」


「私、名古屋の高校に行く。」


「名古屋?遠いじゃん!なんで?」


「と、思うでしょう?実は、電車の特急で30分なのよ。」


「遠いじゃん...。」


「だからよ。私も、今回の一華へのいじめでこの学校の奴らには嫌気がさしたの。

大切な親友いじめて、なんとも思わない奴らと、また3年間過ごすなんて嫌。

だから、あいつらが通わないような遠い高校に通おうと思ったの。」



「梓ちゃん...。」





梓は一華の手を取り言った。





「ねぇ、一華も一緒に名古屋の高校へ進学しようよ。」


「え。」


「一華に見せたい景色があるの。私についてきて。私が魔法をかけてあげる。」


「魔法...?」




梓は頷いて、一華を優しい目で見た。





「一華の笑顔がまた、見たいんだよ。私さ。」




一華は頷いて、梓の手を取った。

梓の魔法のものがたりが

幕を開けようとしていた。

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