第17話 ビジネス界のカリスマを目指して
「こんにちは! ちょっと、勝負スーツを作ってもらえますか?」
店のドアを開けて入ってきたのは、どこかエネルギッシュで自信に満ちた若い男性だった。彼は、カジュアルなビジネススタイルの服を着ており、まるで何か大きなプロジェクトに挑もうとしているような熱気を漂わせている。
数子は彼を見て、興味深そうに微笑んだ。
「ほう、勝負スーツねぇ。アンタ、これから何か大きなことでもやらかすつもりかい?」
男性は力強く頷き、目を輝かせながら話し始めた。
「はい! 実は、これからある大きな企業のプレゼンをするんです。自分のビジネスアイデアをどうしても成功させたくて、全力で挑むつもりです。だから、そのための勝負スーツが必要なんです!」
数子は彼の話を聞き、少し腕を組んで考え込んだ。
「なるほどねぇ。勝負スーツってのは、ただ見た目がいいだけじゃダメだ。アンタのその情熱や意気込みを、スーツに込めなきゃね。で、どんなデザインを考えてるんだい?」
「えっと、色はやっぱりネイビーがいいです。ビジネスらしくて、でも真面目すぎない。そして、ジャケットの裏地には、僕がいつも心に刻んでるモットーを入れてほしいんです。『挑戦なくして成功なし』って」
数子は微笑んで頷いた。
「ふん、いいねぇ。アンタの覚悟が伝わってくるよ。ネイビーのスーツか…じゃあ、生地は少しツヤのあるものにしよう。少し光沢があって、堅苦しくなく、それでいて落ち着いた雰囲気を醸し出すやつだ」
男性は目を輝かせて頷いた。
「それ、最高です! プレゼンでは、自分が自信を持って立てるようなスーツを着たいんです!」
「よし、任せな。アンタがそのスーツを着て、どんな相手にも堂々と渡り合えるように作ってやるよ。でも、文句はなしだよ。いいね?」
「もちろんです! 数子さんにお任せします!」
数子はさっそく作業に取りかかった。彼女は、彼のリクエスト通り、少し光沢のあるネイビーの生地を選び、シンプルでシャープなラインを持つシルエットに仕立て上げた。肩幅を広めに取り、彼の背筋をまっすぐに見せるデザインにし、内側の裏地には、彼のモットーを手書き風のフォントで刺繍した。
「これじゃあ、まるでアンタ自身の決意が形になったみたいだね。これを着て挑めば、どんな相手だって怖くないさ」
数子は細かいディテールにも気を配り、彼の自信を最大限に引き出せるようなスーツを完成させた。数日後、男性が再び店を訪れると、数子は誇らしげにスーツを手渡した。
「さあ、これがアンタのための特製勝負スーツだ。着てみな、きっと気に入るよ」
男性は興奮しながらスーツを受け取り、更衣室に向かった。しばらくして、彼が姿を現すと、まるで別人のような堂々とした佇まいで立っていた。ネイビーのスーツは彼の体にぴったりとフィットし、光沢が彼の自信と情熱を際立たせている。
「これだ…! まさに僕が求めていた勝負スーツだ! 着るだけで、気持ちが引き締まるような感覚があります」
数子は満足そうに頷いた。
「そうさ、アンタのその情熱をスーツに込めたんだよ。どんなプレゼンだって、このスーツを着ていれば、アンタの自信は伝わるはずさ。でも、スーツに頼るだけじゃダメだよ。自分の力を信じること、これが一番大事だ」
男性は感動しながら何度もスーツを眺め、深々と頭を下げて感謝を述べた。
「本当にありがとうございます! このスーツで、僕、絶対にビジネスの世界で成功します! 数子さんのおかげで、僕の夢が叶う気がします!」
「それでいいさ。夢はただ見るだけじゃなく、行動して叶えるもんだ。アンタがそのスーツを着て、ビジネスの世界で羽ばたく姿を、私も楽しみにしてるよ」
男性は力強い握手をして、晴れやかな表情で店を後にした。数子は彼の後ろ姿を見送りながら、ふっと息をついた。
「まったく、若いってのはエネルギーがあっていいねぇ。でも、その情熱がどこまで続くか、見ものだね」
それから数週間後、数子の店に再び男性が現れた。今回は、スーツを大事そうに抱え、少し疲れた様子ではあるが、どこか達成感のある表情を浮かべている。
「どうしたんだい、プレゼンはうまくいったのかい?」
数子は彼を見上げて尋ねた。男性は頷き、静かに話し始めた。
「はい、プレゼンは大成功でした。クライアントも僕のアイデアを気に入ってくれて、なんと契約を取ることができたんです。数子さんのスーツを着ていたおかげで、自分の言葉に自信を持てました」
数子は驚きの表情を見せ、笑みを浮かべた。
「そりゃあ、良かったじゃないか。アンタのその情熱が、ちゃんと相手に伝わったってことだね」
男性はさらに話を続けた。
「はい。でも、今回のプレゼンを通じて気づいたんです。スーツが支えてくれたのは確かですけど、それ以上に大事なのは、自分の信念を貫くことだって。このスーツに負けないように、もっと自分を磨いていきたいと思います」
数子は微笑みながら、彼の肩を軽く叩いた。
「それでいいさ。スーツはただの布切れさ。でも、着る人の決意があって初めて、その布切れが輝くんだよ。アンタがそのスーツに込めた夢を、これからも追い続けな」
男性は感謝の言葉を述べ、力強い握手をして店を後にした。その後ろ姿を見送りながら、数子は再びミシンの前に座り、微笑んだ。
「さて、次はどんな挑戦者が来るんだか…。スーツ作りも、人の挑戦を支える大事な仕事だね」
彼女の店には、今日も新しい物語が生まれようとしている。数子と個性的な客たちの笑いと感動のスーツ作りは、まだまだ続いていく。
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