第10話 未来のスタイル、今のセンス
「すみません、ここで未来的なスーツって作れますか?」
店のドアを開けて入ってきたのは、どこかSF映画から飛び出してきたような出で立ちの青年だった。銀色のジャケットに奇妙なサングラス、そして光沢のあるパンツを履いている彼は、まるで未来からやってきたかのように見える。
数子は一瞬目を丸くして彼を見つめ、次に大きなため息をついた。
「おいおい、ここは未来人の集会所じゃないんだよ。アンタ、何かイベントの帰りかい?」
青年は笑顔を浮かべながら、胸を張った。
「いえ、そういうわけじゃないんです。僕、昔から未来のファッションに興味があって、今回どうしても未来的なスーツを作りたいと思って、数子さんの噂を聞いて来たんです!」
「未来的なスーツねぇ…。それはまた、大きく出たね。でもアンタ、未来のファッションが何なのか分かってるのかい?」
「はい! これです!」
青年はスマートフォンを取り出し、画面に映し出された未来的なファッションのイラストを数子に見せた。銀色の光沢素材や、身体にぴったりとフィットするデザイン、奇抜なカッティングが目を引く。
数子はしばらくそのイラストを眺め、鼻で笑った。
「まったく、これじゃあSF映画のコスチュームだね。でもまあ、面白そうじゃないか。未来ってのは、誰にも分からないからこそ、想像の余地があるってもんさ」
青年は興奮気味に頷いた。
「そうです! 僕はいつも、未来のことを考えるのが好きなんです。ファッションも、今の時代を超えた新しいものを身にまとって、まるで自分が未来にいるような気持ちになりたいんです!」
数子は微笑んで、彼の肩に手を置いた。
「なるほどねぇ。アンタ、夢見る少年みたいだ。わかったよ、その夢、私が形にしてやる。どんなに奇抜なデザインでも、任せてみな」
「本当ですか!? 数子さん、さすがだ! 僕、ずっとあんたに頼みたいって思ってたんです!」
「ふん、そんなに褒めてもスーツの仕上がりは変わらないよ。でも、アンタのその夢、面白そうだから付き合ってやるよ」
数子は腕を組みながら考え込み、棚からいくつもの光沢のある生地を取り出した。銀色、メタリックブルー、そして深い黒。どれも未来を感じさせるような素材だ。
「さあ、アンタにぴったりの素材はどれだい? 自分の未来を選んでみな」
青年はしばらく真剣に生地を見つめた後、銀色の生地を選んだ。
「これです! 未来といえば、やっぱり銀色ですよね。まるで宇宙服みたいな感じで!」
数子は笑って頷き、生地を手に取った。
「よし、銀色で決まりだ。あとはデザインだね。アンタ、どんな風に未来を見たいんだい?」
青年は目を輝かせながら、スマホの画面を指差して説明した。
「まず、この肩のラインを強調したカッティングにして、胸元はあえてV字にして大胆に開けます。パンツはタイトにして、動きやすく、でもエレガントに。全体的にシンプルだけど、存在感のあるスタイルで!」
数子は彼の説明を聞きながら、設計図を描き始めた。彼の言葉に合わせて細かく調整を加え、未来的なシルエットを追求していく。ミシンが軽やかに動き、彼女の手はまるで魔法をかけるように生地を裁断し、縫い上げていった。
「未来のスーツか…。ま、今の時代だって、誰かが夢を見て新しいものを作り出してきたんだからね」
数子は呟きながら、細部にまでこだわりを込め、特別なスーツを仕立て上げた。数日後、青年が再び店を訪れると、数子は満足げにスーツを手渡した。
「さあ、アンタの未来がここにあるよ。試してみな」
青年はスーツを受け取り、更衣室に向かった。しばらくして、彼はまるで映画のワンシーンから飛び出してきたかのような姿で現れた。銀色の光沢が美しく輝き、タイトなデザインが彼の体を引き立てている。
「これだ…! これこそ、僕が求めていた未来のスーツだ! 本当にすごい…まるで自分が未来にいるみたいだ!」
数子は笑いながら彼の姿を見て、頷いた。
「そうかい、気に入ってくれたなら何よりだ。でも、アンタ、それを着てどこへ行くつもりなんだい?」
青年は笑顔で答えた。
「僕、これを着て未来のファッションイベントに参加するんです。そこで、みんなにこのスーツを見せて、自分の夢を語りたいんです!」
「ふん、アンタもなかなか夢を持ってるね。未来を語るってのは簡単じゃないけど、その夢がいつか現実になることを願ってるよ」
青年は感謝の言葉を繰り返しながら、店を出て行った。その後ろ姿を見送りながら、数子はふっと息をついた。
「未来か…。ま、今この瞬間だって、かつては誰かの夢だったんだよね」
数日後、数子の店に再び青年が現れた。今回は、どこか誇らしげな笑顔を浮かべている。
「数子さん、聞いてください! ファッションイベントで、僕のスーツ、大好評だったんです! みんなが未来を感じるって言ってくれて、すごく嬉しかった!」
数子は驚いた表情を見せながら、笑った。
「へぇ、それはすごいねぇ。アンタの夢が少しでもみんなに伝わったってことだね」
青年は頷き、さらに話を続けた。
「はい! これからも、未来のファッションをもっと追求していきたいんです。数子さん、また新しいスーツをお願いできませんか?」
数子は腕を組んで考え込んだ後、ニヤリと笑った。
「いいよ。でも、今度はもっと変わったスーツを考えてこい。アンタの未来がどこまで広がるか、私も楽しみにしてるからね」
青年は大きく頷き、再び感謝の言葉を述べて店を出て行った。その後ろ姿を見送りながら、数子は再びミシンの前に座り、微笑んだ。
「さて、次はどんな未来がやってくるのか…。スーツ作りも、未来の夢を形にする仕事みたいなもんだね」
彼女の店には、今日も新しい物語が生まれようとしている。数子と個性的な客たちの笑いと感動のスーツ作りは、まだまだ続いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます