テーラー数子と、摩訶不思議なお客様!

白鷺(楓賢)

プロローグ

街の片隅に、ぽつんと佇む小さなテーラーショップ。その看板には、年季の入った文字で「テーラー数子」と書かれている。時代の流れに取り残されたようなその外観に反して、店内はどこか温かみのある雰囲気が漂っていた。大きな窓から射し込む柔らかな陽光が、数十年もの間、この場所で使われ続けてきたミシンや裁縫道具を優しく照らしている。


この店を切り盛りするのは、数子という一人のおばあちゃん。小柄な体に眼鏡をかけ、いつも口をとがらせた彼女は、ちょっとしたことですぐに小言を漏らす、いわゆる「口うるさい」職人だ。だが、その毒舌の奥には、長年培われた確かな腕と、来るもの拒まず、去るもの追わずの気っ風の良さが見え隠れしている。


「今日も暇だねぇ、誰か面白い客でも来りゃいいんだけど」


数子はミシンの前で、溜息まじりに独りごちる。まるでその言葉に応えるように、店のドアがキィと軋み、誰かが入ってきた。


「こんにちは! スーツを作ってもらいたいんですけど…」


現れたのは、自信満々に胸を張る怪しげな男。数子は目を細め、その全身をじろりと見回した。


「また変なのが来たねぇ…こりゃ、今日もひと波乱ありそうだ」


そう呟きながら、数子は口元に笑みを浮かべる。この店には、今日も個性派すぎる客たちが訪れる。普通のテーラーでは到底あり得ないような奇妙な注文の数々に、数子はどんなスーツを仕上げるのか。彼女と摩訶不思議なお客様たちとの、笑いと毒舌満載のスーツ作りが、今、幕を開ける──。

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