最強アイテム

母が家庭菜園をしていたと思ったら、血相変えて家の中へと入ってきた。


「ハチに刺された! 痛い!」


と言って人差し指を押さえながら動揺している。


私はその患部を見て、スズメバチでは無さそうだなと安心した。

多分そこらへんの毒性の少ないアブ系のものだろう。


「チューっと吸ってペッ! ってやって!!」


私が言えることはこれぐらいだ。


とりあえず、患部をチューと吸って、できる限り毒を吐き出しておくと後々楽だと聞いたことがある。

実際私も5回ほどそこら辺のハチに刺されたことがあるが、実践済みだ。


しかし母の動揺はすごくて私の言葉は届かない。

代わりにやってやろうかとも思ったが、衛生面的に自己にてやった方が良いだろうと、母の隣で言い続けた。


「チューと吸ってペッ! ってやって!!」


それを何度か繰り返し言ったら、やっと母の耳に届いたようだ。

母は、チューと吸ってペッ! とした。


「……あれ、あれ、あれとって! 引き出し……! 黄色いやつ……!」


母は未だ動揺しながら妹に何かを取って欲しいと指図している。

妹は「あれじゃ分からないよ!」と、母の動揺が憑依したかのように叫んだ。


「キンカンのことだと思うよ」


正解だった。

なんと私の第六感の冴えてることか。


母はキンカンを塗り、保冷剤で患部を冷やした。


夕食後には指の腫れもほとんど無くなり、


「キンカン効いたわ~!」


と母は安心したようだった。


「チューとやってペッ! したから良かったんじゃない?」


チューとやってペッ! の効果について、誰も私を褒めてはくれなかった。

キンカンだけが英雄扱いだ。


キンカンは実家にあれど我が家には置いていなく、私は虫刺されには名の知られてない液状のスーとする塗り薬を常備していた。


仕事柄手の甲に湿疹が出来やすく、毎夜痒みで目覚めるので枕元に置いている。

スースーするので、痒みが和らぎありがたい商品だ。


その日は寝る前に騙されたと思ってキンカンを塗って寝ることにした。

そしたら夜中に痒みに起こされることはなく、痒さとは無縁で過ごすことが出来たのだ。


キンカンって昔からあるだけあってスゴい商品なんだと知った。


キンカン。


清涼感ある商品名なだけに威力が半端ない。

さらに肩こりにもいいらしい。


ぜひとも私の枕元のお守りにしたいと思った。


実家から帰る途中、キンカンを買おうとドラッグストアに寄ったけれど、他の買い物に気を取られ、結局キンカンを買い忘れてしまった。


わざわざドラッグストアへと戻る熱量はない。

再び縁のあるときに、私の枕元のお守りとして迎え入れたいと思う。


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