「まだ見ぬ花の蕾たち」(二人声劇台本)
深海リアナ(ふかみ りあな)
【まだ見ぬ花の蕾たち】
所要時間:約30分 女2
南條 茜⋯女優になりたい女性。
北見 紅乃葉⋯脚本家になりたい女性。
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紅乃葉「あっ!」
茜「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
紅乃葉「はい、大丈夫です。」
茜「でも鞄の中身が⋯拾います。」
紅乃葉「ありがとうございます。」
茜「いえ、私がぶつかったんです。このくらい⋯あ。」
紅乃葉「あの⋯?」
茜「これ⋯何かの台本⋯ですか?」
紅乃葉「いえ!これは、その⋯」
茜「⋯⋯⋯⋯⋯。(読み始める)」
紅乃葉「ダメです!読まないで!」
(茜から 本を取り上げる紅乃葉。)
茜「あ⋯」
紅乃葉「(照れる)⋯⋯⋯。」
茜「もしかして⋯貴女が?」
紅乃葉「⋯はい。」
茜「すごい!作家さんなんですか?」
紅乃葉「作家だなんて!⋯まだ卵です。」
茜「きたみ⋯このは⋯って言うんですか名前。」
紅乃葉「えっ?」
茜「表紙に。」
紅乃葉「あ、やだ。」
茜「私、女優になりたいんです!
だからつい反応しちゃって。」
紅乃葉「女優さんに?」
茜
「ええ。私も劇団に通ってる身なので
女優の卵ってやつですね!ふふ、同じ。」
紅乃葉「どうりで⋯綺麗なお方だと思いました。」
茜
「ありがとうございます。
これでも肌のお手入れは
かかしてませんので、光栄です。」
紅乃葉
「女優になりたい方って皆こんなに
キラキラしてるんですか?
自信から来るものなんでしょうか。」
茜
「やだ、自信なんてありませんよ。
ただ演じるのか好き⋯それだけです。私はね。」
紅乃葉「そうなんですね。」
茜
「北見さんの書いたもの、他にはないんですか?
もっと読みたいわ。」
紅乃葉
「あ、家には。
でも最近書き上げたのはこれだけです。」
茜
「これが最新版なのね。これも何かの縁です。
もし良かったらまた会って頂けませんか?」
紅乃葉「え?はい、もちろんです。」
茜
「嬉しい!将来の作家さんと
お知り合いになれるなんて!
私、南條 茜って言います!
これからどこか行かれるんですか?北見さん。」
紅乃葉「いえ、これから帰るところでした。」
茜「お暇ですか?」
紅乃葉「はい。まぁ。」
茜
「なら、どこかに入りません?
色々お話したいわ。 」
紅乃葉「あ、是非。」
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茜「えっと。まず、初めましてですよね。」
紅乃葉「そうですね。はじめまして。」
茜
「私は南條 茜⋯はさっきいいましたね。
今はsound of waves(サウンド・オブ・ウェーブズ)
っていう劇団に所属してます。」
紅乃葉
「サウンド・オブ・ウェーブズ!
知ってます。この辺の劇団では
わりと有名ですよね。
私も前に見に行きました、舞台。」
茜「そうなんですか!ありがとうございます。」
紅乃葉「すごいなぁ。本物の女優さんだ。」
茜
「いえ、私はまだ入りたてでなので。
北見さんは?フリーで勉強しているんですか?」
紅乃葉
「私は、脚本家になりたくて専門学校に。
実はさっき、その帰りだったんです。」
茜
「そうなんだ!北見さんの文章、
ちょっとだけさっき読ませてもらったけど、
表現がとても繊細で綺麗だった。」
紅乃葉「ありがとうございます。」
茜「もっと読んでみたいな。色んなの。」
紅乃葉
「過去のものは⋯
恥ずかしくてお見せできるものではないので。
でも、南條さんを見てたら、
何だかまた書きたくなってきました。」
茜
「私なんかの存在でお役に立てますか?」
紅乃葉
「はい!南條さんのキラキラオーラがこう⋯
イメージ力を掻き立てるというか⋯」
茜「それ読みたいです!書いてください!」
紅乃葉「やってみます。」
茜
「わぁ、楽しみ!
たとえばワンシーンだけでもいいんです。
北見さんの書いたものを演じてみたい。」
紅乃葉
「なんだかワクワクしますね!
書いたら南條さんが演じてくれるんですか?」
茜「はい!」
紅乃葉「⋯たぎってきました。」
茜
「私もです!
なんか、面白い遊びを思いついた
子どもみたいな気持ちです。」
紅乃葉「ふふふ。」
茜「なんですか?」
紅乃葉
「今日、しかもさっき出会ったばかりなのに
こんなに盛り上がってるのがおかしくて。」
茜「確かに。」
紅乃葉「私結構、コミュ障なはずなんですけど。」
茜「そんな風には見えませんね。」
紅乃葉
「あの、私の事、紅乃葉でいいです。
これからも仲良くしたいので
名前で呼んでください。」
茜「じゃあ私も!茜って呼んで!」
紅乃葉「あ、茜。」
茜「紅乃葉!」
(声を出して笑う2人)
紅乃葉「なんだか照れちゃう。」
茜「ね!」
紅乃葉「あの、もし良ければ⋯LINE交換しない?」
茜「もちろん、喜んで!」
紅乃葉「じゃあ、えっと⋯」
茜「あ、私がQRコード出すね!」
紅乃葉「え?QR⋯コード?」
茜「えーっとぉ⋯はい。」
紅乃葉「あ、えっと⋯」
茜「これを読み込んでくれたらいいの。」
紅乃葉「わかった。ごめんなさい、慣れてなくて。」
茜「いいのいいの、私も最初分からなかったもの。」
紅乃葉「あ、出来た。これ?」
茜「そう、それ私。登録よろしくね。」
紅乃葉「⋯はい。」
茜「なんか送ってみて?」
紅乃葉
「え?何を⋯えっ⋯と。ちょっと待ってね。」
茜「うん。」
紅乃葉
「⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」
茜「⋯長くない?」
紅乃葉「よし、送⋯信!」
(LINEの通知音)
茜「あ、来た来た⋯ん?」
紅乃葉
「(M)『運命は抗うもの。
しかしそれは打ち砕かれた。
毎日の闘いに疲れ切ったこの心は
君に出逢い救いを得た。
少し、すべてに身を任せても
いいのかもしれない。
そう思えるほどに君との時間は、
安らぎに満ちていた。』」
茜「これは⋯詩?」
紅乃葉「うん。」
茜「なぜ、詩。」
紅乃葉
「何か送ってって言われたので、
今の気持ちを頑張って文章にしてみた。」
茜「天然⋯!いや、スタンプとかでいいから!」
紅乃葉「え、そうなの?」
茜
「(笑う)いや、でもいいや!
こんな素敵なLINE、初めて貰った!」
紅乃葉「よかったぁ。」
茜
「たまにさ、私がお題出すから、
何か短い台詞とか送ってよ!
で、私がそれを演じて動画で送るから。」
紅乃葉「え、楽しそう。やりたい!」
茜「じゃあ思いついたら送るね。」
紅乃葉「うん、待ってるね。」
茜
「あ、外真っ暗。もうこんな時間かぁ。
今日紅乃葉に出会ってから色々濃厚すぎて
時間があっという間だよ。」
紅乃葉「ほんとだね。今夜、興奮して眠れないかも。」
茜「私も。」
紅乃葉「よし、帰ったら早速机に向かおう。」
茜
「情熱は生ものだもんね。
今ある色は今しか出せない!」
紅乃葉「そうそう。」
茜「物語もお芝居も、『now(ナウ)』が大切。」
紅乃葉「今感じるもの、湧き出る思いが大事よね。」
茜
「ここまで気持ちが通じ合える人に
出会えたことに感謝だわ、本当。」
紅乃葉「茜⋯。うん、同じ。」
茜「お会計済ましたら、帰って一人稽古だ!」
紅乃葉「今日はありがとう。本当に。」
茜「私こそ。これからずっと仲良くしてね、紅乃葉!」
紅乃葉「うん。」
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(紅乃葉の部屋)
紅乃葉
「南條 茜⋯いい人に出会えてよかった。
明るくてキラキラしてて、
あの人が声掛けてくれなかったら
こんな風に友達になれてなかったよね。」
「⋯本当に綺麗な人だったなぁ。
あんな人とお知り合いになれるなんて⋯ふふ。」
「⋯こっちから⋯LINEしてみようかな。うん。」
「えっと⋯前に書いた台詞送ってみよう。」
「(打ち込む)『さ⋯くら⋯貴女は⋯綺麗⋯』」
(茜の部屋・LINEの通知音)
茜
「ん、誰だろ⋯あ、紅乃葉!
早速LINEくれたんだ!どれどれ?」
「これは⋯台詞?ふんふん⋯⋯。」
「さくらっていう人物に対するモノローグ。
なるほど⋯舞台なら一人語りのシーンか。」
(紅乃葉の部屋・LINEの通知音)
紅乃葉
「あ、茜。遅かったなぁ。
⋯⋯動画?なんだろ。」
(茜が演じる動画を再生)
茜
『さくら、あなたは綺麗。
桜の花びらようにほんのり色づく頬や、
小さな唇、暖かい春のような笑顔に
いつも憧れていた。
あなたのようになりたかった。
今では私、あなたの事が…。 』
紅乃葉「(衝撃を受ける) ⋯⋯⋯⋯!!!!」
紅乃葉
「これが⋯茜⋯?すごい⋯。
これだけの台詞でこんな風に動けるんだ。
別人みたい。これが、演技なんだ。⋯はぁ⋯。」
(着信音)
紅乃葉「あ、え、電話?もしもし?」
茜
『紅乃葉?台詞ありがとう、どうだった?
あんな感じで演じてみたんだけど。』
紅乃葉
「うん⋯もう、凄かった。
私の台詞に動きを付けてもらうと
あんな風になるんだなって⋯」
茜
『本当?ダメを出してくれてもいいんだよ?
もっとこういうイメージで、とか。』
紅乃葉
「そんな!ダメなんてなかったよ!
すごく⋯素敵だった。」
茜
『やった、褒められた!
あの台詞、さっき考えたの?』
紅乃葉
「ううん、あれは前に書いた
『桜の記憶』っていう台本の一部を
抜粋した台詞なの。」
茜
『とってもイメージしやすくて
綺麗な文章だった。また送ってね!』
紅乃葉
「喜んで!
あ、もうこんな時間。そろそろ寝なきゃね。」
茜
『そうだね、夜更かしはお肌の大敵!
私もお風呂入って早く寝るわ。』
紅乃葉「うん、おやすみ。」
茜『おやすみ!』
紅乃葉「⋯⋯⋯はぁ。」
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紅乃葉「う⋯ん⋯。茜。」
(紅乃葉の夢。)
茜
「(紅乃葉に)ほんのり色づく頬や、
小さな唇、暖かい春のような笑顔に
いつも憧れていた。
今では私、あなたの事が…。」
紅乃葉「茜。本当?」
茜「うん、本当。」
紅乃葉「もっと、名前を呼んで。」
茜「紅乃葉。私、あなたの事を⋯」
紅乃葉「茜⋯茜!私も⋯。」
(ハッと目覚める紅乃葉)
紅乃葉
「⋯夢。どうしてこんな夢を⋯。
あ、茜からLINE来てる。」
茜
『おはよう、紅乃葉!あれから熱が冷めなくて
夢にまで見ちゃった。また、新しい台詞、求む!』
紅乃葉
「ふふ、可愛い。
今度はあの台詞送ってみよう。
見てみたいな、茜の演技。」
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紅乃葉
「⋯⋯⋯来ない。今日忙しいのかな。
もう⋯4時⋯。夜になれば返信、くれる?
ねぇ、茜⋯。」
「⋯やっぱりメッセージ、また送ってみよう。」
「(打ち込む)茜⋯今日、忙しいのかな?
それとも、何かあった?
ヒマになったら、メッセージください。
動画はゆっくりでいいから⋯ね、っと。」
「既読は付いてるのになぁ。」
「(あくび)なんか眠い。
今日考えすぎて疲れちゃったんだきっと。
夕飯の時間まで少し寝よう。
起きたら返信来てるかもしれないし。」
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(茜の部屋)
茜
「紅乃葉からのLINE⋯返さなきゃ⋯」
「(打ち込む)ごめんね⋯今、ちょっと無理かも。」
「⋯はぁ。ダメだ、こんなこと書いたら
嫌な思いさせちゃう。いっその事⋯。」
「(電話をかける)⋯⋯。出ない。怒ったかな。」
「なんだかんだ、私たち、会ったの昨日だもんね。
お互いのこと、ほとんど知らないし。
今、何してるのかも分からない。」
「(涙が出てくる)あれ⋯。
なんで涙が。相当疲れてるんだ私。
⋯今日色々あったのがこたえちゃったかな。」
「⋯⋯紅乃葉ぁ。なんで出ないの。
声、聞きたいよ。励ましてよ。紅乃葉。」
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紅乃葉
「ん⋯。今何時⋯え!夜中の4時!?
寝すぎた⋯夕飯食べてない⋯お腹空いた⋯。」
「あれ、なんか来てる⋯電話!?茜から!?
今⋯はさすがに寝てるよね。LINEだけでも送ろう。」
紅乃葉
「(打ち込む)出れなくて⋯ごめんね。
寝てたみたい。送信⋯と。」
(着信音)
紅乃葉
「わ!起きてた!⋯もしもし?」
「⋯⋯⋯⋯?」
「茜?もしもし?」
「⋯何かあった?」
茜
『紅乃葉ぁ⋯』
紅乃葉「どうしたの!?泣いてるの?」
茜『嫌われたかと思ったぁ!』
紅乃葉
「嫌うわけないでしょ。
そんなことで泣いてたの?」
茜『それもあるけど⋯他にもあって⋯』
紅乃葉「聞くよ。ゆっくり話して。」
茜
『今日、次の舞台のオーディションがあったの。
入りたてにしてはいい役貰ったんだけど⋯
なんでこんな子がとか、大した事ないくせにとか、
どうせマクラでもしたんでしょとか、
色々言われて⋯私⋯』
紅乃葉「何それ酷い!茜はそんな子じゃないよ!」
茜
『私、そんなことしない。
一生懸命頑張ってきたのに⋯。』
紅乃葉
「大丈夫、ただの嫉妬よ。
それだけ茜が魅力的ってことだよ。私はそう思う。」
茜
『ありがとう⋯紅乃葉、今から会えない?』
紅乃葉「え?」
茜『紅乃葉に会えば元気になれる気がするの。』
紅乃葉
「うん!会おう!すぐに行く。
どこにいけばいい?」
茜
『紅乃葉の家がいい。ダメ?』
紅乃葉「え⋯?⋯い、いいよ。公園まで迎えに行く。」
茜
『大丈夫、住所送って。
多分そんな遠くないし、歩きがてら涙乾かす。』
紅乃葉「⋯うん。じゃあ送るね。また後で。」
紅乃葉
「⋯ど、どうしよう。うちに来る⋯。
茜に⋯こんな夜明けに会える⋯。」
「とりあえず⋯住所送って
机に向かおう!気を紛らわそう。よし!」
(ペンで書く音・間)
紅乃葉
「はぁ。あれから30分。
どのくらいで着くんだろう⋯やっぱり迎えに⋯」
(ドアを叩く音)
紅乃葉
「!」
「⋯茜?」
茜「(小声)紅乃葉、私、茜。」
(ドアを開ける)
紅乃葉「いらっしゃい。チャイム、あったのに。」
茜「こんな時間だし、迷惑かなって。」
紅乃葉「あ。そうよね。さ、入って。」
茜「お邪魔します。」
紅乃葉「迷わなかった?」
茜
「ううん、平気だった。
それより思ったより家近くてびっくり。
着替えたり準備してから出てきたのに、
30分で来れちゃうなんて。」
紅乃葉「そんなに近かったの?」
茜「うん。」
紅乃葉「そう⋯。」
茜「⋯⋯⋯。」
紅乃葉
「⋯⋯⋯。」
「飲み物入れてくるからゆっくりしてて。」
茜「あ、お構いなく。」
(間)
紅乃葉「どうぞ。」
茜「ありがとう。」
(飲む二人)
茜「美味しい、それにいい香り。」
紅乃葉
「ハーブティーなの。ラベンダーのね。
落ち着くでしょ?」
茜「うん、とっても。」
紅乃葉「なんか、不思議。」
茜「何が?」
紅乃葉
「茜が私の部屋にいるのが。
それから落ち着く。茜の空気。」
茜
「⋯あ。て、照れちゃうな。
そんな事言われたの初めてよ。」
紅乃葉
「そう?茜は⋯綺麗だし性格も可愛いし、
モテるでしょ?」
茜「そんなことないよ。それより、すごい数の本ね!」
紅乃葉
「演劇やドラマなんかの脚本についての本が多いかな。」
茜「へぇ。この中に紅乃葉の書いた本もあったりして。」
紅乃葉「あるわよ、一応。」
茜「見たい!」
紅乃葉「また今度ね。」
茜「うん。」
紅乃葉「茜、無理してない?」
茜
「うん、平気。
あのね、ここ来る時に紅乃葉が送ってくてた台詞、
思い出してたの。演じるから見てて。」
『溢れるものに蓋をしないで、
泣いてしまえばいいのよ。
辛かったね。
自分でも分からない乾きに
誰も気づいてくれなかった。
心をどこへやったらいいか
分からなかったのよね。
ねぇ凪。波の音を聴いて?
あなたの世界はここにある。
広く壮大で、謎に満ちた青の世界。
それがあなたの心よ。
誰が分からなくても
私だけはあなたを知ってる。 』
「⋯この台詞、紅乃葉が言ってくれてる気がしたの。」
「だから、もう大丈夫。」
紅乃葉「⋯⋯⋯⋯。」
茜「紅乃葉?」
紅乃葉「綺麗⋯⋯。」
茜「え?」
紅乃葉
「私の台詞、こんな素敵だったっけって、
ちょっと戸惑っちゃった。茜、すごく綺麗よ。
この台詞は凪という人間が幼い頃生み出した
真っ白で純粋そのものの少女の台詞なの。
それをこれだけで汲み取ってくれるなんて⋯嬉しい。」
茜
「私、この台詞好き。 これも紅乃葉の台本なの?」
紅乃葉
「えぇ。『青い夢の君と』っていうの。
とても思い入れのある物語よ。」
茜
「紅乃葉は⋯凄く私を褒めてくれる。だから、好き。
紡ぎ出す世界観も文字も、全部好き。」
紅乃葉「私のことは?」
茜「うん、好きよ。」
紅乃葉「茜⋯私も好きよ。」
茜「どうしたの紅乃葉。抱きついてきたりして。」
紅乃葉「白状するとね、返信来なくて、寂しかった。」
茜「ごめんね。一番に紅乃葉に話せばよかったね。」
紅乃葉「いいの。茜が好きって言ってくれたから。」
茜「ふふ。」
紅乃葉「(小声)たとえ、同じ好きじゃなくてもね。」
茜「なに?」
紅乃葉
「何でも。それより⋯
演じて欲しい台詞がもうひとつあるの。いい?」
茜「もちろん!」
紅乃葉「これなんだけど。」
茜
「ありがとう。
⋯⋯⋯これも、何かの台本の台詞?なんか⋯
素敵だけど、今までとは違ってえらくシンプルね。」
紅乃葉
「さっき書いたばかりなの。
これを⋯私に向かって演じてみて欲しいの。」
茜「わかった。えっと⋯」
『私を見て。これから言うことをちゃんと聞いて。
私は貴女が好き。出会ってまもない私たちだけれど、
大切にするから⋯ずっとそばにいて欲しいの。
他の誰でもなく、貴女に。』
紅乃葉「⋯⋯⋯⋯⋯。」
茜「⋯⋯紅乃葉?」
紅乃葉「⋯ありがとう。もう充分よ。」
茜「充分なの?」
紅乃葉
「えぇ、これはね、そのまま私の気持ちよ。
驚いた?」
茜「え⋯それって⋯。」
紅乃葉
「でもね、だからどうして欲しいとかはないの。
ただ、知って欲しかった。それだけ。
これからも茜は大切な友達よ。」
茜「友達⋯。」
紅乃葉「どうしたの?」
茜「私⋯なんだか、変な気持ちなの。
友達って聞いて⋯モヤモヤしてる。」
紅乃葉「どういうこと?」
茜
「この台詞が紅乃葉の気持ちって聞いて、嬉しかったの。
⋯でも友達じゃ嫌だって、私思ってる。」
紅乃葉
「茜、しっかりして?私が言ってる私の気持ちは
友達以上の事を言ってるのよ?
例えばこういうシチュエーションを思い浮かべて見て。」
茜「うん。」
紅乃葉
「私が隙あらば友達という立場を利用して
貴女に抱きつくの。でもそれは下心があっての事なの。
⋯嫌じゃない?」
茜「ううん。」
紅乃葉
「それ以上のことだって、
勢い余ってしてしまうかもしれないの。嫌でしょ?」
茜「嫌じゃ⋯ないかも。」
紅乃葉
「ええ!?じゃあ私が男女問わず誰かを好きで、
茜に恋愛相談をしてきたら⋯?」
茜「嫌!!!!!!」
紅乃葉「茜⋯それって。」
茜「うん⋯紅乃葉を好き⋯なんだと思う。」
紅乃葉
「嘘でしょ⋯それが本当なら、
私たち運命よ、きっと。だってありえないもの。
出会ってまだ三日なのよ?」
茜
「どんな台詞にしても複雑で、伝えきれないの。」
紅乃葉「茜⋯いいの?私なんかで。」
茜「紅乃葉がいいの、紅乃葉じゃなきゃ嫌なの!」
紅乃葉
「⋯あぁ、嬉しいことだらけよ。
貴女に出会ってから。茜⋯受け入れてくれるの?
友達を飛ばして、恋人になってくれるっていうの?」
茜「うん。」
紅乃葉「抱きしめても、いいの?」
茜「うん。」
紅乃葉「(抱きしめる)はぁ⋯茜。」
茜「(囁く)ねぇ、紅乃葉。」
紅乃葉「なに?」
茜
「いつかちゃんと舞台の上で
紅乃葉の書いた物語を演じたい。
その時には必ず主役を取ってみせるから、
書いて。私のために。」
紅乃葉
「そうね、私の書いたものを
女優の茜が演じる⋯これ以上ない夢だわ。」
茜
「負けないから、どんな事があっても。
だからずっと私を見ていて。ね、紅乃葉。」
紅乃葉
「段々舞台の上で輝いていく貴女に私は
何度も恋をしていくのでしょうね。」
茜
「自分のために、そして紅乃葉の為に、
私は舞台に立ち続けるわ。」
紅乃葉
「私も、いつか貴女をこの手で、
これまで以上に輝かせる為に、
これからも描き続ける。」
茜「病める時も、」
紅乃葉
「健やかなる時も。」
(二人でも、茜・紅乃葉どちらでも)
「一緒にいつか咲かせよう、きれいな花を。」
[完]
「まだ見ぬ花の蕾たち」(二人声劇台本) 深海リアナ(ふかみ りあな) @ria-ohgami
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