ボスたるものの咆哮
「おーわり♪」
ゴブリン達の死体に囲まれながら、ルマがにこやかに勝利を宣言した。
松明に照らされるその肌には掠り傷一つ見られない。
「さすがは聖女様の弟君であるルマ様ですね。あの軽やかな身のこなしもさることながら、ナイフだけでこれほどのゴブリンを殲滅してみせるとは……」
「えへー、それほどでもあるけどー」
ルマの身体に宿っている強力な浄化の力。
魔物であれば近づくだけでもその影響を受け、並大抵の魔物ではナイフによる掠り傷にも耐えられない。
まさに勇者と呼ぶに相応しい力だと思うのだけれども、辺境に生まれてしまったばっかりにその名声は町の中に留まってしまっている。
「まだだよ、ルマ。肝心のボスが出てきてない……奥に籠城するつもりなのかも」
群れにボスが必要なのは人間もゴブリンも変わらないと文献には書いてあった。
洞窟に響く子分の叫びを親玉が聞き逃すとは考えにくい。
戦闘をすれば奥から出てくると想定していたけれども、今のところその様子も無い。
「聖女様、いかがなさいますか? このまま奥まで攻め入りますか?」
「……この先は行き止まりですから、あまり数は残っていないと思います。ボスは必ずいるとして、残りはおそらく数匹……今日中に終わらせてしまいましょう」
「さんせー! このままガンガン行っちゃおうー!」
「ルマ! 次は群れのボスなんだから、気を引き締めて――」
その時、耳をつんざく咆哮が束の間の勝利の余韻を切り裂いた。
人間を萎縮させる魔物の雄叫びが、洞窟の入り口から聞こえてきたのだ。
「っ……しまった」
夜行性のゴブリンは日の登っている間は住処に引きこもっている。
その思い込みが仇となった。
「せ、聖女様!」
兵士の声が震えている。
まだ姿も見えていないボスの咆哮に本能を握られてしまっているのが、痛いほどに伝わってくる。
いざとなれば後方へ撤退できた状況だった。
敵を逃げ場のない窮地に追い詰めているはずだった。
それが一瞬で立場を逆転されてしまった。
もしも負けるようなことがあった場合、ボク達は敗走すら禄にできない。
「……ルマ」
「うん、安心してセイ。オレが勝てばいいんでしょ?」
このピンチにおいても変わらないルマの声色。
その余裕が、今はとても頼もしい。
「皆様、恐れることは何もありません。魔物である限り、ゴブリンのボスであろうとルマには敵いません。浄化の力は例え刃が立たずとも魔物の肉体に蓄積します。そして、ボクの祈りがある限りルマを傷つけることは不可能です。だからどうか安心して……皆様には、聖女が付いているのですから」
「そうだ! 俺たちは誇りあるマニ教の聖騎士! 聖女様の寵愛を受けし戦士に、何を恐れるものがあろうか!!」
兵士長の鼓舞に兵士たちが続く。
兵士たちの興奮が肌に直接伝わってくる。
「ルマ、もう一度不意打ちしよう」
「ラジャー!」
作戦は簡単だ。
ボクと兵士たちで広間に入ってくるボスゴブリンの気を引く。
上手く気を引けたら、陰に隠れていたルマが不意打ちする。
ルマの一撃を魔物が受ければ致命傷にはならずとも必ず弱体化する。
そうしたら、もうルマに負けは無い。
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