Alpha

変な形のフライパン

第2話:G'day, right?

ーー朝。


「また大尉が子供誘拐してきてる...」

「あの人まだ子供いないから....」

「大尉もあの子も可哀想....」


隊員らがウェイドの隣に立つリアムを見てこそこそと話す。


「誰が子供を誘拐するか!」

「誰が子供だおっさん。」

「(´・ω・`)」


流石にウェイドが可哀想になってきたので、ルカとセシリアが前に立ち説明する。


「あーこの子はリアム=アリストラス。セシリアの知り合いで、魔法使いだ。子供のような見た目だがお前らの何倍も強い。」

「そして私より弱い。」


セシリアとリアムがまた殴り合いをする。今日ですでに3度目だ。

起きてすぐ、朝食時、そして今。喧嘩をするほど仲が良いとはこのことだろうか。


「えーこの通り、2人共とても仲が良いです。」

(((どこがだよ)))

「みんなもなかよくしましょー。」


ウェイドが立ち直り、隊員の前に出る。


「と、とりあえず昨日の報告をする。依頼だが無事成功。報酬もかなり貰ったぞ。屋敷が手に入った。」

「「「お〜」」」

「家屋が3つに訓練が充分に行える敷地、さらに塀まである。最高の環境だ。

人員もかなり増える。コープスカンパニーに囚われていた女性らを引き入れることにした。おおよそ30人と少女が2人。そしてリアムだ。リアムとセシリアには魔法を教わる。つまり教官と同じだ。先生と呼ぶように。」


セシリアが喧嘩をしながら隊員らに告げる。


「私がセシリア先生だ。先生と呼びなさい。」

(魔法使いなのにめっちゃステゴロですけど)

(めっちゃ絞め技使ってますけど)


数十分後、ようやく喧嘩が終わり、2人は再度隊員らの前に立つ。


(リアム君めっちゃ泣いてる。)

(めっちゃ絞められてたからな....)

「そうだ。セシリア、一昨日の夜話した俺たちのことについてなんだが...話しても構わないか?」

「ああ。もちろん大丈夫だ。」

「どーも。」


ルカは咳払いをする。


「これから話すのは俺たちについてだ。過去、俺たち以外の地球人がこの世界に訪れ、この世界に言語を広めている。この世界に俺たちのような異世界人が来るのは珍しいわけではないそうだ。が、だからと言って軽々しく『私は地球人なんです』、だなんて言いまわるなよ。その言葉を広めた地球人はこの世界の住人に殺されている。現在、地球人であることを伝えられるのは仲間に加わる予定の32人と、セシリアとリアムだけだと心しておけ。いいな!」


隊員らはうなずいている。

「リアム、次は君の紹介を頼んでも?」

「ん、わかった。」


「僕の名前はリアム=アリストラスと言います。セシリアとは数年前に同じ犯罪組織に捕まってた仲です。得意な魔法は空間操作系と物理強化です。ルカさん達に住むところを壊滅されたのでこのチームに入ることにしました。これからよろしくお願いいたします。」

リアムはペコリとお辞儀する。


「ルカ最低じゃん。」

「こんな幼い子の住む場所を...」

「引くわ」


隊員らはルカを軽蔑の目で見る。


「リアム君言い方に棘がありますよ。」

「これでギルド班の報告は終わりになるが....そっちは何かあったか?」

「イーサンが腕立て110回突破しました。」

「...それだけか?」

「はい!」


イーサンは自信満々に応える。


「そ、そうか...とりあえず、これよりこの拠点を解体し、屋敷へと拠点を移す。それでは早速作業に取り掛かれ!」

「了解!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いやぁ二日しかいなかったとはいえ少し寂しいな。」

「また来たらいいだろ。それにこれからは屋敷に住めるんだぞ?もっと喜べよ。」

「確かにな。それに今日はこっちのタバコも買いに行くし。」

「正直今はそれしか頭にない。」



「大尉!この解体した木材、どうするんですか?」

「屋敷に運べ!簡単な訓練所を作る。新しい隊員が入隊する際に必要になるからな。」

「了解!誰か!運搬用のソリを作る!紐と木材持ってきてくれ!」

「木材は魔法で運ぶ。そっちの方が効率いいです。」

「おお!さすがリアム先生!」




隊員らは解体を進める。かなりの時間がかかったが、なんとか日が暮れる前には作業が終わり、街へ移動した。



ーー夕方、フェンダス。屋敷前


「「「お〜....」」」

「こうして見てみると案外でけぇな....」

「筋トレの器具があったら満点なんだがなぁ....」

「作るしかない。」


隊員らは荷物を屋敷に置き、部屋決めを始める。


「俺この部屋!!」

「あ、ずりぃ!じゃあ俺隣!」


子供のように屋敷内を走り回る隊員らに、ウェイドはため息をつく。


「じゃあ俺とセシリアは女性陣迎えに行ってきます。幾つか金貨を持っていっても良いですか?買いたいものがあって。」

「お、了解した。それなら200枚ぐらい持っていけ。俺も酒とつまみが欲しくてな。どうせならBBQでもしながらみんなで飲もうじゃないか。」

「ありがとうございます。了解です。」



ーー街中。


「....ここが...異世界のタバコ屋....。」

「ああ。街一番のタバコ屋らしい。」


2人は固唾を飲み、入店する。


「いらっしゃいませ〜。」


「....おぉ....おお!これはすげえ!宝の山じゃねえか!」

「初めて入るが...確かにこれは壮観だな。」


目の前には大量に並べられたカートン。何十種類なんてものじゃない。下手すれば何百種類ものメーカーが揃っている。


「このタバコすげぇ!一本金貨10枚だってよ!」

「金貨10枚...買える...買えてしまう....!!だが数がほしい!」

「数か....質か!!」


2人はタバコ選びに2時間費やした。

あとで大尉にめっちゃ叱られた。




ーー屋敷


「ただいま戻りました〜。」


ルカ達が女性陣を連れて屋敷に戻る。


「酒とつまみは....なんだその大きい袋は...」

「酒とつまみです(大量のタバコ)」

「そ、そうか...そういえば肉、あったか?」

「ふっふっふ...こちらに....」

「このサイズを...。ほう?お主もなかなか悪よのう?」

「いえいえ...大尉殿には劣りますよ...」

「食うのが楽しみだ。全員庭に集合させろ。今夜はパーティと行こうじゃないか。」

「Yes, sir!」



ー数十分後。


「お前達!異世界に来て今日で3日目になる!この3日間、本当によくやってくれた。まだまだやるべきことが沢山あるが、今日、この時間だけは楽しんでくれ!それじゃあ、乾杯!」

「「かんぱーい!!」」



「酒うめぇ。」

「タバコうめぇ。」


セシリアとルカは酒とタバコに無我夢中だ。


「なんだあの2人...」

「現代社会の闇を凝縮したような...」



「こんな美味しいお肉久しぶりに食べました...!」

「このパン美味しい...!」

「そうかそうかぁ...沢山食べろよぉ...」

「ルイが愛娘を見守るお父さんみたい。」


牢屋に囚われていた少女2人はルイと一緒にパーティを楽しんでいる。どうやら2人はルイに懐いたようだ。



「お前達も食えよ、肉はまだまだ沢山あるぞ。」


元奴隷の女性達は食器の片付けや料理をしている。


「いえ、私たちは元々この屋敷に住んでいた方の使用人でしたので...こうしてもう一度使用人として働けることがとても嬉しいのです。」

「(セシリアが首元のタトゥーがどうとか言っていたな...)そうか。まあ、ちゃんと食べるんだぞ。」



「大尉、ちょっといいか?」

「どうした、セシリア?」


セシリアは1人で酒を嗜んでいたウェイドに話しかける。


「突然だが、海兵隊に入りたいんだ。」

「入隊志望か。構わんが...正式に入隊することはできない。あくまで仮入隊的な措置になるが、それで構わないか?」

「ああ、もちろんだ。」

「了解した。正直人手が足りていなかったのでな。こちらとしても非常に助かる。」

「人手が足りないなら、クランを作るのはどうだ?」

「クラン?チームとは何か違うのか?」

「んー...チームよりも規模が大きくなるのがクランだな。」

「小隊とか大隊のようなものか...なるほど、クランを作って人を招待すれば人手も増えるというわけだな?」

「ああ、どうだ?」

「ふむ..少し考えてみる。君の入隊についてだが、こちらも歓迎するよ。ようこそ海兵隊へ。また訓練や座学をすることになる。承知しておけ。」

「了解した。ありがとう、大尉。」




「どうだった?」


ルカは柵に手すりにもたれかかり一服している。


「無事入隊できた。晴れて私も海兵隊の兵士だ。」

「正確にはまだ訓練兵だけどね。普通何ヶ月も訓練とか勉強とかして、試験を突破すれば階級を得られる。」

「階級?」

「ああ。階級についても勉強しないとな。」

「先はまだまだ長いというわけか。」


セシリアは買ってきたタバコをあけ、火を付ける。


「お前も慣れてきたな、タバコ。」

「流石にね。もう何本吸ったんだろ。」

「20本ぐらいじゃない?というか、お前にやった分いつか返せよ。」

「ん。じゃあこれあげる。」


セシリアは自分が吸っていたタバコをルカに渡そうとする。


「はぁ!?馬鹿お前...何言ってんだよ..///」

「ふっ、顔赤くなってんぞ。可愛いところあるじゃないか。」

「うるせえよ...お前が悪いだろ...」



「あいつら爆ぜねえかな。」

「クソッ、クレイモア持ってきてねぇ。」

「君にこれをあげよう。」スッ...只

「この美しい長方形は!クレイモア!!」



そんなこんなで。楽しいパーティは次第に終わりへと近づいていた。

男達は酒に溺れ、女達は楽しく語り合う。

やがて日が上り、朝が来る。



ーー朝。

「...あったまいてぇ...」

「おえっ...吐きそう...」


太陽の光が酔い潰れた男達に突き刺さる。

メイドの姿をした1人の女性がウェイドに近づき話しかける。


「おはようございます。食器は全て片付けているので、ゆっくりしてくださって大丈夫ですよ。」

「君は....?」

「メイド長のレティシア=ナヴィ=ガルシアです。以後お見知りおきを...」

「お、おう...よろしくレティシア...。2時間後にブリーフィングするからみんなに知らせておいてくれ...」

「かしこまりました。」


ーー2時間後。


(大尉あれ絶対二日酔いしてる。)

(めっちゃ頭抑えてる。)

「えー...まず、新しく入隊したセシリア=プリムローズ訓練兵だ。ようこそ海兵隊へ。でー...次はこれからについてだな。」


(めっちゃ適当だ。)


「これからクランを作り、新兵を募集する。それに伴い訓練所を作るんだが...だがこの敷地じゃ少し狭すぎる。いずれより大きな敷地を買うことになるだろう。しばらくはそれを目標にして頑張ってくれ。」


隊員らは頷く


「これより班を分ける。よく聞いておけよ。分け方は至ってシンプルだ。

ルカ、ルイ、リアム、セシリア、そしてそこの...すまないそこの2人、名前を聞いても?」

「はい。私は....


牢屋に囚われ、キズモノと呼ばれていた少女2人。

深紅の髪が華麗にたなびき、長い耳が印象的だ。双子だろうか。髪型が同じであれば見分けがつかないほどとても似ている。


長髪で活発な印象のイヴェレナ=レクシー、

短髪で気弱な印象のエレクセレア=レクシー。


「イヴェシエラとエレクセレアだな。お前達2人はルカ達の班、異世界兵士班だ。リーダーはルカ、副リーダーはセシリアが担当しろ。」

「俺たちが異世界兵士の班にいていいんですか?」

「お前達はセシリアやイヴェシエラ達に懐かれているからな。4人を統率してくれ。」

「了解です。」

「そしてルカとレオ以外の海兵隊員は海兵特殊作戦班だ。リーダーは俺、ウェイド=クラーク、副リーダーは曹長のライリーが担当する。一時的にルカとレオには大隊を外れてもらうが、いいな?」

「ええ、問題ありません。」

「よし。次にメイド班だ。リーダーはレティシア。副リーダーはそちらで選んでくれ。」

「かしこまりました。」

「お前達メイド班には屋敷の防衛を俺たちと担当してもらいたい。できるか?」


レティシアは不敵に笑う。


「ええ、もちろんですとも。私たちは元々戦闘も担当していたメイドですので。しかし私たちは一度コープスカンパニーに負けています。今後、いかなる輩にも負けぬよう訓練をつけていただきたいのですが。」

「ほう?海兵隊の訓練はまさに地獄だぞ。それでも構わないか?」

「...主人様が目の前で殺された時、すでに私たちは地獄を味わっておりますので。」

「...なるほどな。了解した。メイド班にも訓練をつけよう。」


「これにて俺の話は以上だ。他に何かあるやつは?」


....


「ないな。よし、今日は休日にする。お互いにコミニケーションを取ったり、タイマンはったりして1日を過ごせ。モーセ、ドク。お前達はメイド班とレクシー姉妹の健康診断をしてくれ。いいな?」

「かしこまりました。」

「メイドたちとレクシー姉妹も、それでいいな?」

「ええ、構いませんよ。」

「私たちも大丈夫です。」

「うむ、頼んだぞ。それじゃあ解散。」


ーールイ、イヴェレナ、エレクセレア。


イヴェレナとエレクセレアの2人は健康診断を終え、ルイと合流する。


「ルイさん、今日は何をする予定ですか?」

「んー特に何も決めてないかなぁ。君たちも自分のしたいことしてきなよ。」

「私たちのしたいことはルイさんに付き添うことです。」


イヴェレナは満面の笑みを浮かべルイを見つめる。


「マジかぁ...。とりあえず...街の散策でもする?大尉から給料として金貨300枚貰ってるし。」

「わかりました!行きましょう、ルイさん!」

「行こ、ルイさん。」

「お、おう。行こうか....(や、やりずれぇ...)」



ーー街。


「お〜、すげぇ。こうしてこの街をゆっくり歩くのは初めてだからなぁ。」

「見てくださいルイさん!大きい魚です!大きい魚が飾られています!」


イヴェレナは子供のようにはしゃぎ回っている。


「待って...姉さん....歩くのはやい....」

「イヴェレナ、ちょっと待って!エレクセレアがバテてる!」

「あ...ごめんねセレア。ちょっとはしゃぎすぎてたね...」

「大丈夫だよ姉さん。ありがとう。」

「....」


...コープスカンパニーの連中が2人に対して使った呼称、キズモノ。見た感じ顔や体に外傷はない。身体的特徴も耳が長いだけ...。エルフという種族に入るんだろう。

エルフ。確か、美男美女、碧眼、色白、耳長、そして...金髪。


ルイは2人を見る。


2人の外観は美女の部類に入っていても差し支えないだろう。長い耳に、綺麗な碧眼。透き通るような色白の肌と...美しい深紅の髪。

....いや、この世界のエルフは赤い髪を持つのかもしれないし、もしかしたらエルフの呼称がキズモノ、というだけであってこの子達が何か特別というわけでは


「「ルイさん?」」

「うぉわっ!?」


2人の美少女に顔を覗こきこまれ驚くルイ。


「あ、ああ...ごめんよ、ちょっと考え込んでた。」

「大丈夫ですか?何か嫌なことでもありましたか?」

「何かあるなら...私たちが何とかしますよ....?」

「いや、なんでもない。行こう。」


3人は再び街を歩き出す。


(聞いたほうがいいのだろうか。いやこれはセンシティブな話になってしまうかもしれないし...それに昨日まで囚われている身だったんだ。また少ししてから聞き出そう。)

「2人とも、次はどこに行こうか?」

「私、魔法屋に行きたいです!」

「魔法屋?イヴェレナは魔法が好きなのか?」

「レナで大丈夫ですよ。」

「ん、わかったよ、レナ。」

「ありがとうございます。それで、魔法が好きなのか、という話でしたね。

私たちはエルフ族という種族に属しています。エルフ族は膨大な魔力を有しており、魔法使いになるエルフも少なくありません。私とセレナはエルフ族の中でも特に魔力を持っていて、とても強力な魔法も使えるんです!」


レナは嬉しそうに語っている。


「なるほど。その表情から察するに、魔法が本当に大好きなんだね。」

「はい!魔法があれば馬鹿にしてくる奴らも」

「姉さん」

「あ...ごめんなさい。さっきのは忘れてください。」

「う、うん...?(馬鹿にしてくるやつら...?)」



ーー魔法屋

「ここですね。」

「溢れんばかりのファンタジー感。とても好きですねはい。」


カランカラン...

「いらっしゃいませー!」


ルイは店員に手を振る。


「2人とも好きなもの買っていきな。休日なんて珍しいからね。」

「いいんですか!ありがとうございます!」

「ありがとうございます、ルイさん。」


ルイは店内のベンチに座り、2人を眺める。


(2人とも、魔道具とか魔法書に釘付けになってるなぁ...。俺も魔法とか使ってみたいな。)

「店内、見回らないんですか?」


店員さんがベンチに座り物思いに耽るルイに話しかける。


「あー...俺魔法とか使えなくて...。」

「まだ覚醒してない感じですか?」

「覚醒?覚醒すれば魔法が使えるようになるんですか?」

「はい。魔法石と聖水でできますよ。簡単なので皆子供の頃に済ませるのですが...」

「ははっ。うち、貧乏だったもので...。」


ルイは咄嗟の嘘でその場を誤魔化す。


「すみません、少し失礼な話でしたね。」

「いえ、構いませんよ。ところでその魔法石と聖水ってここで買えますか?」

「ええ。金貨30枚あれば揃えることが可能です。覚醒に使用される魔法石にはそれぞれ個体差があって、魔法濃度が濃ければ濃いほどより強い適性を得ることができます。」

「適性?」

「魔法適性です。得意になる魔法や習得できる魔法が関わってきます。濃度の濃い魔法石にはさらに金貨が必要になりますが。」

「なるほど。ちなみに一番濃度の高い魔法石でいくらぐらいするの?」

「そうですね...金貨500枚ぐらいでしょうか。」

「たっか!?」


ルイは思わず大きな声を出す。


「魔法石は自分で採取したものも使うことができますので、濃度の高い魔法石を自分で採掘しようとする人も多いですね。ただ採取にもリスクがあって、魔物からの攻撃や採掘中の事故など...」

「その魔法石ってどこで採掘できる?」

「近くのフェンダス鉱山で採掘できますよ!」

「ふむ、ありがとう。濃度の低いものと高いものの見分け方とか、その他色々教えてくれませんか?お代ははずむので.....」

「お代なんて結構ですよ。濃度の低い魔法石は...


その後30分にわたる、定員さんによるレクチャー。

覚えきれなかったため、店員さんが紙にまとめてくれた。


「ルイさん!買い終わりました!」

「お、了解。ありがとうございます、店員さん!」

「いえいえ〜。またのお越しをお待ちしています!」


ルイは来た時と同じように手を振り、3人は魔法屋を出る

人通りが多くなってきた。空を見れば太陽が真上に浮かんでいる。


「今は...12:26。昼飯時だな。2人とも、何か好きな食べ物とかある?」

「んー特にないですね...」

「私も....特にないです...」

「ふむ。なら俺が決めてもいい?」

「大丈夫ですよ!」

「よし、任せたまえ。こう見えて俺は昼飯センスのルイと呼ばれていたんだぜ。」

((昼飯センスのルイ....?))



「俺が選んだのは...ここだ!」

「「お〜」」

「なんかいい匂いがしたからここに決めました。」

「ここ料理屋じゃなくて風呂屋ですね。」

「...じゃなくてその隣の」

「ゴミ処理屋ですね。」

「....左の」

「病院...です。」

「....」

「........」


突然、レナとセレアが笑い出す。


「ルイさんって面白い方ですね。」

「そ、そう?ありがとう?」


その後普通に2人に決めてもらい、腹一杯食ったルイであった。

お肉がおいしかったらしい。





「いやぁうまかった。うまい上に安いとは...最高だな。あそこの常連になろう。」

「満足していただいたようでとても嬉しいです!」

「こちらこそありがとうね。ちょっと疲れたしどっかで休もうか。」

「あ、あそこの公園なんてどうですか?」

「お、いいね。そこにしよう。セレアもあそこでいい?」

「はい...大丈夫...です。」



「ふぅ...落ち着くなぁ...。」

「今日はずっと歩きましたからね...。」

「レナ姉さん歩くの早い...」

「あはー...ごめんねセレア。治そうとは思ってるんだけどね....」

「ううん。大丈夫だよ。私ももっと早く歩けるように...なる。」

(ほんと、いい姉妹だな。)


ルイは2人を優しく見守っている。ふと、2人のことについてまだ何も知らないことに気づく。


「そうだ。君たちの年齢とか、どこの生まれなのかとか聞いてなかったね。できれば教えてくれないかな?」

「そうでしたね。私たちは今129歳で、ジュエリカ王国の隣にあるヴォルヴァニア王国で生まれました。」

「人間で言うと...16歳ぐらい。」

「16歳...俺たちの世界だと学校に通うぐらいの年だな。2人とも学校とかは?」

「私たちはコープスカンパニーに囚われる前に親に捨てられて...だから学校とかは行けていないんです。」

「そっか...学校、行ってみたい?」


ルイは控えめに聞く


「うん...学校に行けば、もっと魔法が学べるから....」

「ふむ。確かヴォルヴァニア王国には魔法専門の学校があったんだっけか。」

「はい。ですが学費が他の学校より比べものにならないほど...」

「学費か。ちなみにどれぐらいになるのかな?」

「...1年通うのに金貨2万枚は...」

「2万か。うーむ...。うん、俺に任せな!俺が君たちを学校に通わせてあげるよ。大尉に今日相談してみる。」


ルイはドン、と胸を叩く


「いいのですか...?私たちは....」

「大丈夫だよ。...親に捨てられたんだよね?なら、俺が代わりに父親になってあげる。君たちのしたいことは、俺が叶えてあげる。」

「で、でも....私たち赤の他人で...」

「赤の他人とか、関係ないよ。俺も学生時代はまともに学校行けてなかったタチだからね。君たちには是非行って欲しいんだ。」

「本当に....良いんですか....?」

「ああ。本当だ。」


2人の声が震え始める。


「私たち...捨てられてっ....自分のしたいこととか...全然できなくてっ....コープスカンパニーに囚われて...何もかも諦めかけてっ....!」

「...俺は人を護るために、人の願いを叶えるために海兵隊になったんだ。だから、君たちがしたいことを、好きなだけして生きて。俺が支えてあげるから。」


2人の目から涙が溢れ出る。


「!....っ...ありがとう....ございますっ....!」

「どういたしまして。」


ルイは2人の頭を撫でる。対して2人は、ルイに抱きつき泣きじゃくっている。



ーー数分後。

「大丈夫?落ち着いた?」

「はい...すみません、ルイさんの服が...」

「大丈夫だよ。また洗えばいいし。」

(キズモノ...親に捨てられ...。おそらくこの2つには関連がある。いずれ知る必要がある。2人のためにも。)


そこに偶然にもイーサンやフィン、モーセ達が通りかかる。


「おやおやルイさん、可愛い娘さんとデートですか。いいですなぁ。」

「デートじゃねぇって...。お前らこんなとこで何してんだ?」

「街の視察。この街に住むんだから色々と知っとかないとね〜。」


イーサンはイヴェレナ達のほうを見る。


「ルイ〜、お前女の子泣かせたなぁ?」

「ばっ、ちげえよ...!」

「そうです!ルイさんは私たちのお父さんになるって言ってくれたんです!」

「ルイ...お前まじかよ...」

「お前にそんな趣味が...」


イーサン達はルイを軽蔑の目で見る。


「レナ!?それはちょっと誤解を生むから言わないでおこうね!?」

「え?あ、すみません...私としたことが...」


イーサン一同はどっと笑い出す。


「その様子じゃ、うまくやってるようだな。イヴェレナちゃんとエレクセレアちゃんを悲しませるなよ?ルイさんよぉ。」

「当たり前だろ。こいつらは俺が守るんだからな。」

「おうおう言うねぇ。じゃあ俺たちは視察続けるんで。3人でデートを楽しみなさいな。」

「だからデートじゃ...まぁありがとよ。じゃあな」


3人は手を振りイーサン達を送る。


「あのー....ルイさん、デートと言うのは?」

「あー...デートってのは恋人同士が遊びに行ったりするやつだよ。」

「こ、恋人...」


セレナが顔を赤くしている。


「ま、まあ、あいつらの冗談だしそこまで気にしなくても」アワアワ

「い、いえ...!大丈夫です...そろそろ動きましょうか...」

「おう....。そうしようか。どこいきたい?」

「私、あの時計台に登ってみたい...」

「あそこか。わかった。」



ーー時計台

(転移してすぐの時、ここで住人達に囲まれたっけな。あの時はほんとビビったなぁ。)

「ルイさん、今日は綺麗な夕日が見れるらしいですよ!まだ時間はありますが...」

「ほー。昨日は作戦中だったからな。改めて登ってみようか。」


時計台の門を通り抜けようとすると、管理人らしき人がボソッとある言葉を口にする。


「キズモノが」

「....あ?」


高校生時代、同級生からいじめを受けていたルイにとって、陰口や差別的な発言は地雷になっていた。

ルイは管理人を殴ろうとする拳を必死に抑える。目の前にいる2人には管理人の発言は聞こえていなかったようで、楽しそうに階段を登っている。


「い、いえ...何でもありませんよ!ただの独り言です!」

「.....」


(深呼吸だ...落ち着け...俺....)


「はぁー....ふぅー....。」


ルイは拳を解く。怒りを忘れ、平常心を取り戻す。


「そうかい。すまかなかったな。」

「いえいえ...こちらこそ....。」

(...彼女達が何者であろうと関係ない。...俺が守るんだ。)



「みてくださいルイさん!街を一望できますよ!」

「おー...すごい壮観だね...。」

「ベンチもある...ちょっと座る...ここの階段長い....」


セレアはベンチに寝転びぐったりとする。


「レナ、セレアずっとあんな調子だけど大丈夫?体が弱いとか?」

「...体が弱いわけではありません。エルフ族は膨大な魔力を有している。そして私たちは特に他のエルフよりも魔力を持っていると、先ほど言いましたよね?。」

「ああ、言っていたな。」

「....あの子は、持ちすぎているんです。人には魔力の限界値というものがあります。そうですね...ガラス瓶を想像してみてください。ここでいうガラス瓶は人が持つことのできる魔力量に当たります。

このガラス瓶の中で魔力が自然発生します。増えて...増えて...増え続けるんです。

そうしていっぱいになったガラス瓶はやがてヒビが入っていき、限界が来ると割れてしまいます。」

「割れてしまうと...どうなる?」

「....魔力の暴走です。自分自身、さらには周辺にいる人までもを巻き込んでの爆発が起こります。」


自爆テロ。ルイの脳裏に浮かぶ最悪の活用方法。

魔力を貯め続けるだけで誰でも簡単にテロを起こすことができる。

戦争でも活用することがきる。それはきっと地獄のような景色になるだろう。

ルイの背中に嫌な汗が走る。


「私たちエルフ族は元々、このガラス瓶が普通の人よりも大きいんです。

そしてあの子はそのエルフ族よりも、さらに何倍も、何十倍も大きい。

大きすぎるがあまり、あの子の体が耐えれていないんです。だからすぐにバテたり、あんな感じでこまめに休憩を取ったりしているんです。」

「定期的に魔法を使ったりすれば良いんじゃないのか?」


レナは首を横にふる。


「魔法を使っても、すぐに魔力が回復するんです。他の人より何倍も早い魔力の自然回復。強力な魔法を使えば使うほど魔力が増していく...逆にあの子の体を壊しかねません。結局、今の今まで何の解決策のないまま...」

「他の場所へ魔力を移したりは?」

「魔石に移すことはできますが...魔石は非常に価値が高いですし、魔力を貯めすぎると人間と同様に爆発してしまうので....」

「魔石に移すという案には大量の資金が必要、と。」

「はい...。」


唯一の解決策は魔石による魔力の移動。だがそれには大量の資金が必要。


...商売...


「レナ、魔石の相場はどれくらいだ?」

「高いもので金貨30枚、安いもので金貨15枚程度ですかね...」

「魔力を込めた魔石は売れるのか?」

「ええ、魔力石として冒険者や魔法使いに売ることが....もしかして...」

「ああ。元本を手に入れて魔石を手に入れる。セレアがその魔石に魔力を貯める。そうしてできた魔力石を冒険者達に売る。売ってできた金で新しい魔石を買う。最強の永久機関の完成だ。」

「おお!さすがです!!」

「いやいや〜それほどでも〜///」

(かわいい)

「それに。もしこの魔力石商売が成功すれば学費も稼げる。他のメンバーに迷惑をかけずに済むな。」

「なるほど。むしろ皆さんに貢献できる...!」

「ああ。これはなかなか良い計画になるぞ...」


2人が話していると、セレアが起き上がる。


「ん....2人とも...どうしたの....?」

「あ、ごめんなさいねセレア...起こしてしまいましたね....」

「大丈夫だよ。それで、何の話をしてたの....?」

「ああ。セレナの魔力を減らす方法を考えていたんだ。」

「私の魔力を...?」

「ああ。魔石にセレナの魔力を貯めて魔法石を作る。それを売ってお金を作って新しい魔石を買う。これの繰り返しだ。どうかな?」

「...なるほど。その発想はなかった。」

「もしこの商業が成功すれば2人の学費も稼げるかもしれない。」

「ふふっ、責任重大だね。任せて。私の魔力は無駄に多いから。きっと成功させてみせるよ。」

「ごめんね、セレナ1人に押し付ける形になってしまって...」

「ううん。私は...何もできていなかったから。こうやって私のために色々考えてくれただけで嬉しい。ありがとうね、2人とも。」


(あれっ...何でかな....母性を感じた...)

「セレナ、ちょっと頭撫でてみて。」

「え...どうしたの急に...?」

「いいから、さっきのセリフもう一回言いながら撫でてよ。」

「? まあ良いけど...」ナデナデ


(あっ...ママ...)


ルイの脳に流れる、幼き日々の思い出。

「お母さん!」

「あら、ルイ。おかえり、晩御飯はできているから一緒に食べましょう。」

「うん!」

「今日はルイの大好きなシチューよ。」

「やったぁ!」


「美味しい?」

「うん!美味しい!」


今でも、実家に帰れば暖かく母が迎えてくれる。

(お母さん、元気にしてるかな...)


ルイの目から涙がながれる。


「えぇ!?ル、ルイさん!?大丈夫ですか!?何か間違えちゃいましたか!??」

「ルイさんがセレナに頭撫でられて泣いてる...もしかして変な人...?」

「レナ、君も撫でてもらってみな。」

「え、えぇ....」


レナとセレアは困惑しながらもルイの指示に従う。


「一体何をしているんだか....」ナデラレナデラレ


(あっ...ママ...)


その後、疲れた時や辛くなった時はセレナに撫でてもらうようになった2人であった。




ーー1時間後。

「んー....はっ!?」

「あ...おはようございます。ルイさん。(もう少し寝顔見ていたかったな...)」

「こ、ここは....?俺は何を....」

「ここは時計台です。ルイさん、急に私に頭を撫でて、なんて言い出すからびっくりしたんですよ?」


ルイは周りを見回す。


「あ、ああ...そうだったな...。ごめんね、セレア。」

「ふふっ。大丈夫ですよ。」


2人を寝かしつけるセレアの姿はまるで聖母のようであった。


「あ、ルイさん。後ろ、見てください。」

「え?後ろ?」


ルイは後ろへ振り向く。

美しい夕日。オレンジ色に染まった雲が空を駆け巡る。


「....綺麗な....夕日...」

「うん。とても綺麗。」


レナが目を覚ます。2人の声で起きたようだ。


「ん、姉さん。」

「んぁ...?レナ...どうしたの...?」

「姉さん。見て、綺麗な夕日だよ。」

「夕日?」



「ほんとだ....綺麗...」


3人はしばらく夕日を見つめている


「....2人がヴォルヴァニアの学校に行っても、また一緒にこの景色を観れるといいね。」

「...うん。」


徐々に空が暗くなっていく。

青々としていた空が今、夕日によって燃え尽きようとしている。

後に残る焼け焦げた空には、煌めく希望が満ち溢れていた。



3人はベンチに座り、空を眺める。



第2話:『G’day, right?』 終

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Alpha 変な形のフライパン @Uta_T

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