輻輳する想い Part 11

 10月22日、突然プラティナ・バンクから2族を除いて、パーティーの招待状が届いた。それは、ウルバンとトールの捜索に一切関わっていないはずの《アイアン・クラン》も例外なく届いていた。

「フェラス、こちらの招待状、どうしましょうか」

 メイド服姿の女がフェラスに訊ねてきた。

「そんなもの無視したって構わないさ。別に白金族に対して恨みは持っていないが、何だがあいつらのことがいけ好かない。勿論、マーガレットが行きたいなら、勝手に行ったっていいんだぞ」

 フェラスの回答にマーガレットは恐縮した。するとフェラスは続けた。

「そんなにペコペコするんじゃない、みっともない。別にあたしはあんたのことは責めてなんかいない」

 ただ、フェラスはこのパーティーに一切興味がないというわけではなかった。むしろ、錬金術界隈で何かと物騒な事件が立て続けに起こっている中で、堂々とパーティーを開催することに疑念を抱いていた。

「マーガレット、皆を呼んでこい。今から話し合いがしたい」

 フェラスはマーガレットに命令した。

 翌日、再びそれぞれの代表を集めた集会が開かれた。議題はまず、やはり突然送られてきた招待状についてであった。何も送られて来なかったマグナスはそれを耳にして驚いていた。シリカは事情をマグナスや新世界秩序の代表たちに簡単な説明をした。希土類には16枚、13族には5枚、14族も同様に5枚であった。どうやらスタヌス、インディラ、ターラが行方不明であることは考慮されていないようだ。アルベルトは更にボリスから《アイアン・クラン》も人数分届いたということを聞いた。開催日時は来週の10月29日であることを説明されると、マグナスはそれは1族と会う約束を取り付けた日時と一致することを言い出した。この事実を確認し、向こうが何かを企んでいるという疑惑が生じた。そこで、嵩音は敢えて彼らの策略にはまってしまうのはどうかと提案した。2族は何食わぬ顔で1族とのファミリー・リユニオンを実施し、この中の誰かがパーティーに出席するというのだ。シリカは以前に13族が《プラティナ・バンク》を担当するという話を炙り返し、13族を推薦した。アルベルトは承諾した。

 シリカはそれからウルバンとトール、ハルゲヌスとカドモスの居場所を突き止めたと明かした。ウルバンとトールを乗せた車は何れもロシアを越境し、カザフスタンに出たということ。数回に渡る乗り換えを伴って、彼らは、今は使われない旧ソ連の軍事施設に辿り着いたという。その情報を聞いたイミールは舞い上がって、今すぐにでも行きたいと言った。続けてシリカは、ハルゲヌスとカドモスが、今は使われなくなったウクライナにある原子力発電に出入りしているということを確認し、そこが彼らの本拠地であることを推察した。中毒が東欧から中欧中心に起きていると考えると、そこを起点としていることは考えられる。

 そこへ、嵩音は妙案を思い付いたのだった。それは、ファミリー・リユニオンとパーティーが行われている裏で、彼らの本拠地を一度に押さえるということだった。14族はウクライナを、希土類はカザフスタンを担当。嵩音はそこに、それぞれ新世界秩序からも要員を出すと提案した。2族の自宅で開催されるリユニオンには、アンブッシュを十数名を配置。13族の3人の同伴者として同じく十数名を送る。ウクライナへは二十数名の部隊を、カザフスタンへは十数名の部隊を同行させる。キュープラスは、ウクライナの取り押さえに参加を表明した。一方で、イミールは自ら手を下したいということで、応援を断った。キュープラスの表明に、シリカは感謝した。一方で、イミールの発言に対し、周りは応援を強く勧めた。しかし、イミールはたかがふたりの男にそれほど大勢の普通の兵士を送っても、足手纏になるときっぱり言った。嵩音は、送る兵士は単なる人間ではなく、特殊な訓練を受けた者や、中には強力な錬金術師も居ると言ったが、イミールは頑なに受け入れなかった。ふたりは延々と議論したが、話は平行線を辿る。結局折れたのは嵩音である。

 会議の纏めに際して、嵩音は、自分の陣営には担当の作戦のみを伝え、他の作戦は一切口外しないことを指示した。これにより、部隊が分散し、敵が情報収集に難航するという効果が見込まれるからだ。詳しい作戦はそれぞれの担当が各自で決める事にした。

 これにて、会議は閉じた。参加者はぞろぞろと部屋を出ていった。アルベルトとマグナスは一緒に退出した。ふたりきりなると、アルベルトはマグナスに思い掛けず質問を投げ掛けた。

「そういや、他の2族に1族の事は伝えてあるのか?」

 少しの溜め息の後、マグナスは答えた。

「いや、まだだ」

「それじゃあ、ファミリー・リユニオンのとき、どうするんだよ。仮に彼らが僕らのビルを壊した時と同じようになったらどうするんだよ」

「その時は…… その時だ」

 マグナスの回答に、アルベルトは呆れ返った。

「そもそも、彼らを自分たちの家に招き入れたらどうするつもりなんだ」

「それは…… 何も」

 アルベルトは当然ながら、彼らを捕らえる事が目的と思っていた。しかし、実情、マグナスは1族を招いて何をしようとまで、一切考えていなかった。

「あいつらを捕らえるわけじゃないのか?」

「わからない…… わからないんだ」

「じゃあ、もし、新世界秩序の者が彼らを捕らえたら、どうするつもり?」

「それは……」

 マグナスは言い淀んだ。

「そもそも、他の2族には1族の事を言ったのか?」

 マグナスはアルベルトの質問に、ドキッとした。

「ベリルには知られたけど、他の3人には…… まだ何も」

 その無責任な回答にアルベルトは堪忍袋の緒が切れて、マグナスの胸倉を掴んだ。

「甘えるんじゃねえよ」

 すると、マグナスもアルベルトの胸倉を掴んで、壁に押さえつけた。

「うるっせえ、お前に俺の家族の事の何がわかる。こっちは死人を出すほどの喧嘩をした過去があるんだぞ! お前のように情けない放蕩息子のいざこざとはわけが違うんだ」

 アルベルトの怒りは頂点に達し、ついには殴り合いが始まった。しかし、まだ太陽が天に登っている時間帯、当然通行人は何人も居た。路上での喧嘩という羞恥を晒したことにふと自覚したふたりはすぐにやめて、マグナスはすぐに車道を渡って去っていった。アルベルトも彼の後ろ姿を睨みつつも、立ち去った。

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