嚆矢濫觴 Part 11
太陽はすっかり沈み、足場の悪い廃墟と化したビルの一角は星見に最適な場所となった。しかし、そんな空明かりに目をくれず、一行はシッチャカメッチャカになった現場を眺めて苦笑いをしていた。
「しかし、ここを一体どうしたものか」
と炭人は言いながらタバコを取り出して火を付けた。
「本といえば我々の依頼を引き受けたために被害を受けたのだから、我々の方から全額出資して差し上げます」
と嵩音。
「いえいえ、こちらも、経費の面では全く困っていないのでお気になさらず」
と炭人。
「そんなことを仰らずに、以前と比べて歳入も減ったであろうし、我々が全額負担しますよ。あ、序に業者も我々が手配しますよ」
「いえいえ、我々には拘りがあるのでそちらも自分たちで何とかしますよ」
「そんなことを仰らずとも、我々が全てを元通りにしますよ。工事が終わるまで、臨時の事務所の場所も提供しますよ」
「そんな必要はない。ここは最上階に位置している。突然の攻撃で下の事務所が多分出ていくから我々はそこを使います。何も、このビルは我々が所有しているのだから問題はない」
「そんなことを仰らずとも、序にこのビルをリフォームして、誘致もしてあげますからここは我々に任せてください」
「本といえばあなた方は客という立場だったし、我々のことは失敗する必要など全くないさ。それなのに先程は助けて頂いたことだしこれ以上迷惑を掛けても悪いさ」
「そんな遠慮なさらずとも、むしろこれからは協力者として、我々の方こそ迷惑を掛けるのだから」
「一体いつまで続けるつもりなんだ、どっちかとっとと折れろよ」
若干キレ気味にマグナスが言った。炭人から吐かれるタバコの煙は天の川のように漂った。数秒間の沈黙の後、先に破ったのは炭人だった。
「ではお願いします」
「了解です」
透かさず嵩音は答えた。炭人はもう一度タバコを吸って、煙を吐いた。すると物陰から夜鳥が出てきて大声を出した。
「というか未成年がタバコを吸っちゃだめだろうが!」
「「とっとと着替えろ」」
鋭い目付きで炭人と嵩音は振り返った。夜鳥はビビってすぐに引っ込んだ。
「それに僕は未成年ではないぞ。何ならあんたより年上かもしれないぞ」
と炭人。嵩音はすぐさま否定した。
「それはないぞ、あいつは人類誕生以前から居たから」
炭人はもう一服した。
「キュープラムスの他に1万年以上生きている者をお目にかかるのは初めてだな」
「まあ、あなただってそのくらいでしょうけどね。多分私がこの中で最も若い自信があるけど」
と嵩音。炭人は質問した。
「ほう、何歳だい?」
「そうね、ちゃんとは数えていないけど、95歳くらいかな」
再び煙が炭人の口から立ち上った。
「95か、やっぱり若いね」
「いやどう考えてもおかしいでしょ、こんな皺もなくぴんぴんな体して!」
と夜鳥。
「「さっさと着替えろよ老害が」」
炭人と嵩音はもう一度鋭い目付きで振り向いたので、またしても夜鳥は引っ込んだ。ちなみに嵩音は嘘を吐いていない。
夜鳥がようやくメイド姿に着替えて、撮影会もした後、メイド格好をした彼と、嵩音、マグナスとアルベルトとは一旦別れた。残った4人は被害を受けていないビルの別室に移動して撮った写真の鑑賞会をしていた。
「しかしまあ女装に慣れない少年が顔を赧めながらポーズする以上に見応えあるモデルはあるのだろうかね」
「まあ、女装アンチも存在するし人によりけりじゃない?」
炭人とシリカはにやついた顔で写真を眺めていた。ゲルマンとプロンブスは少し離れて立って、遠目でそんなふたりの様子を見ていた。プロンブスは言った。
「少年のようで実は俺たちより全然年上らしいがな。まあお前らがそれで嬉しいんであれば何も言うことはないけど」
すると、ゲルマンは真面目腐った顔をして突拍子もない話をしだした。
「しかし、俺はまさか炭人さんが協力するなんて思わなかったよ」
「そうだよ、そう決めた以上は従うけどよ、最初はあんなに嫌がっていたのに、どうして突然心変わりしたんだよ」
とシリカ。
「何、理由はさっき本人たちにも言った通りさ。これほどの仕打ちをされたんだ」
「俺は英断だと思うぜ」
とプロンブス。
「しかし、元はというと、彼らと接近したのが良くないんじゃないか」
とゲルマン。
「何、
炭人の返答にゲルマンはおし黙った。
「それにしても、随分と多くの錬金術師が関わる大事になってしまっている。50年前に起きた悪夢が、また起きようとしている。しっかり備えることだな」
そしてその翌日、ドイツ東部のとある都市で、大爆発が起きた。それと同時に街中に大量の放射能が検出された。爆発したのは希土類が経営する《レアアース》社が所有する建物だった。これにより、少なくとも500人もの死者を出てしまった。
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