牡蠣食いの悔い書き

牡蠣かきというのは、新鮮さとか、焼き加減なんてものは二の次で、とにかく「あたるときはあたる」ものらしいです。しかし、チェーン店とか有名店で、そんな風な牡蠣ガチャが行われているとは、なかなか考えにくいですね。母数が大きいので、被害者も多くなるはずですから。そういう店で出される牡蠣は、ほぼほぼ安全が確保されているのでしょう。きっと。すると、「安全な牡蠣」と「ガチャ牡蠣」が区別されているということになります。その上で、「ガチャ牡蠣」が飲食店に出回るというのは、つまりどういうことなのでしょう。われわれ消費者が思うよりも、牡蠣の卸売り市場はシビアな世界で、小さな業者は危険を承知で「ガチャ牡蠣」を扱わざるをえない。そういうことなのでしょうか。それほどまでにしても、牡蠣は需要がある。毒をもつ宝石。それが牡蠣なのでしょう。


牡蠣にあたると、二度と牡蠣を食べられない。なんて人がいるらしいです。食中毒の症状が苦しいからです。苦しみの経験が体にとりつき、拒否の反応を示すということです。


しかし、いま私は、寝床とトイレを往復しながら、脱水症状で朦朧としながら、次に牡蠣を食べることを考えています。牡蠣が食べたい。牡蠣は私の好物だったのです。この度、初めて牡蠣に当たりました。聞いていた通り、想像以上の苦しみです。苦しみを和らげるために、牡蠣のことを考えます。


生牡蠣。磯の香り、甘味。滑らかな食感。鋭い日本酒で、苦みを切る。海の恵みをまるごと頂く豊かな満足。自分の中で、特別な一杯とする。自分で自分を演出する楽しみ。


焼き牡蠣。炭の色。伝わる熱。わずかに殻が開き、ぐつぐつと煮えた汁が炭にあたる音。貝むきの扱いに、次第に慣れる。ひとつの目的のために作られた道具を使う喜び。湯気に迎えられる。温度を味わうという体験。


カキフライ。食感の比類ない組み合わせ。まろやかな海のミルクが揚げ物のコクと出会う曲がり角。レモンをかける。タルタルソースをつける。爽やかな酸味の下で相合傘。


牡蠣水。凝縮された海の恵み。漬ける時間がすべて豊かな悦楽。冬の贅沢。苦みを楽しむことの余裕を感じる日。高級な氷を用意する。特別なグラスを用意する。シルクのハンカチで露を拭う。


ズボン牡蠣。履く宝石。唯一無二の肌触り。柔らかいことが第一の価値。選ぶものと選ばれるもの。ICカード。箱ティッシュ。

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