第2話:おやすみ世界。
ーー夢を見た。日本の友人と楽しく遊んでいる夢を。一緒にスポーツ観戦したり、ゲームしたり...。明日も学校か。憂鬱だな。今週末は友達と遊ぶ予定だ。何をしようかな。早く週末になればいいのに。
朝。
何か....重い....
「繧?...縺輔s....縺翫↓縺?..繧...」
「縺雁�縺。繧�s....縺雁�...縺。繧�s....」
なんだ...?誰だ...なんて言ってるんだ...?
2つの頭が斗真の顔を覗き込んでいる。
「ウォァ‼︎」
しまった、変な声を出してしまった。そうだった。俺は異世界転移して...
「うぁー...頭痛い....。」
さすがに枕がないと首が痛むな...
「ん、お前ら起きてたのか。」
「「?」」
「あーえと。おはよう?」
「? おはよう?」
「お! おはよう!」
「おは、よう!」
(国際交流なう。)
(とりあえず、言葉を覚える必要があるな。コミュニケーションができねえと魔法もハーレムも出来ねぇ。こいつらのことも知るために。)
「というわけで。言葉を学びましょう。」
斗真は軽快な曲を口ずさむ。
「今回の講師は異世界で出会ったこちらのお二人です!先生、剣をここの言葉でいうとなんと言うんですか?」
「....?」
二人は戸惑ってしまった。かわいそう。
「あーえーと、これこれ」
斗真は剣に向かって指をさす。
二人は理解したようにぱぁっと表情が明るくなる。
「縺雁燕繧呈ョコ縺吶b縺ョ」
「縺雁燕...すまんもう一回」
もう一回、のハンドサインを作りもう一度言ってもらうよう頼む。
「縺雁燕繧呈ョコ縺吶b縺ョ」
「縺雁燕繧呈ョコ縺吶b縺ョね....おけおけ。」
「じゃあこの短剣は?」
「遏ュ縺�縺雁燕繧呈ョコ縺吶b縺ョ」
「遏ュ縺�...縺雁燕繧呈ョコ縺吶b縺ョ。これは簡単だな。」
「よし。とりあえず今の所持品と日常で使う単語は大体覚えた。これから会話を増やして...」
(そういえば、昨日の手は2人の母のものだろうか。手だけ見ると女性の手ではあったが...。姉か母か聞いてはみたいが、2人のトラウマを引き起こす可能性もあるしな。もう少し時間が経ってからにしよう。というかこの子達、ちょっと強すぎるのでは?
普通だと数日は話も出来なさそうなのに。...なるほど。この子達服装からしていわゆる貴族とかいう奴なんだろうな。少し家庭環境が特殊なのだろう。)
(そうだ、街とか村に行ってみたいな。気晴らしにもなるだろう。この子達なら場所とか分かるかな。)
斗真は地面に街の絵を描き、どのように言うのか教えてもらう。
「縺雁燕繧貞セ�▽蝣エ謇...。 ...!」
街に行くことを察したのか二人は目を輝かせる。
「縺雁燕繧貞セ�▽蝣エ謇ね。ええと
私 まち いく。 あなた みち しる?」
「.....はい!」
「よっしゃ!通じた!!!えー...行こう!っと、そういえば名前聞いてなかったな。
私、暁 斗真。 あなたの?」
「私はアイリス=レクシー=ウィリアムズです!」
「僕は...セオ=レギー=ウィリアムズ...。」
(理解できるようになってきた...!)
「セオと...アイリス...わかった。あー...よろしく!」
二人は頷き、斗真に屈むようお願いする。
斗真が屈むと、二人は斗真と額を合わせる。
「ウォェァ‼︎び、びっくりした...これ、あいさつ?」
「はい。額、合わせる、魔力、あげる、元。」
「へ、へ〜....(二人とも顔面偏差値高いからめっちゃドキッとした...)」
斗真は顔を赤らめてしまう。可愛いところあるじゃないか。
「と、とりあえず街、いこう...」
二人はうんうんと首をふり、斗真を先導する。
しばらく歩くと街が見えてきた。
街の中心に大きな木が見える。巨大樹ってやつだろう。マスケット銃やセオとアイリスの服装を見た時から文明レベルの予想はできていたけど...やはり文明は中世期のものっぽい。
門が見えてくると、鎧をまとった門番が見えてきた。
(そういえば俺身分証とかないけど...大丈夫なのかな....?二人に聞きたいけど...なんて言えばいいのか...)
なんて考えているうちについに街の門の前まで来てしまった。
「お前たち燕縺溘■豁「縺セ繧�。霄ォ蛻�ィシ繧堤コ隱阪させてb繧峨≧縲�。」
断片的には理解できたが、何を言っているかまではわからない。
「トウマ、私達、人、確認、紙、いる。」
人、確認、紙....身分証のことか....?
「えーと...。ごめん、俺、それ、持つ、ない。」
「え...。」
アイリスは考え込む。何か思いついたのか、門番の人と会話をする。
「この人莠コ縺ッ霄ォ蛻�ィシ繧堤エ帛、ア縺励◆縺昴≧縺ァ縺吶ょ�逋コ陦後〒縺阪∪縺帙s縺�?」
「ああ、驫雋ィ莠悟香譫壹′蠢�ヲ√↓縺ェ繧九�。」
自分のことなのに他人に、それも年下の子に任せっきりになるの申し訳ないな....早く喋れるようになろう....。
アイリスがもう一度こちらへ振り向く。
「トウマ、銀、コイン、2、0、枚、必要。持ってる?」
「銀貨二十枚...ちょっと待って。」
斗真は袋の中を確認する。
「よし。2、0、枚、あった。」
「それで、紙、作れる。」
セオとアイリスの助力もあり、無事発行することができた。
異世界式!身分証の作り方〜!
step1. 魔法陣の描かれた石板に手を乗せます。
step2. 犯罪履歴等などがなければ簡単に作れます!
とはいえこの世界で生まれてすらない俺が簡単に作れるのって大丈夫なのか...?魔法で人の根源?をのぞいている的な?
産まれた場所はどうやら俺が転移して最初にいた所になっていたらしい。日本とかエラーとか出て事情聴取的なのをされなくてよかった。
身分証を作ってもステータスは確認できなかった。少し残念だった。
セオとアイリスはやはり貴族らしかった。
2人が身分証を見せた途端門番たちは対応を少し丁寧にしたように見える。ただ少し、どこか申し訳なさそうな、残念そうな。
逮捕されなかったから革命や亡命とかがあった訳ではなかったようだ。
いずれ詳しく話を聞かないといけない。なんせ疑問が多すぎる。両親のこと。なぜ家に帰ろうと言い出さないのか。昨日馬車でどこに行こうと、何をしに行こうとしてたのか。また落ち着いて生活ができるようになったら話を聞こう。
身分証を作成し、門を抜けると、俺たちは遂に街に入ることができた。
圧巻の景色。それは、日本から転移してきた斗真にとってあまりに美しすぎる光景だった。
門の外から見えるほど大きい巨大樹が、街の中心にどっしりとそびえ立つ。
建物は草木が生い茂っていて、新しい建物とはいえないが、それが逆に神秘に満ち溢れているというか幻想的というか。
人工的に作られた滝から鳴る、心地の良い音。跳ねる水飛沫が、太陽から注がれる光によって宝石のように輝いている。
街の至る所で咲いている花が街に彩りを与え、街の活気を象徴しているようだった。
「すっご....」
「鬲ゅ′蟶ー繧句�エ謇、イシリア。」
初めてセオが喋ってくれた。心を許してくれたのだろうか。
「? イシリア?この場所の名前?」
「うん....。この場所の....名前。」
「セオは、この場所、好き?」
「うん...。とても。」
セオは少しだけ笑っているように見えた。喜んでもらえて嬉しい限りだ。俺何もできてないけど...。
街に入ってすぐ、アイリスが本屋に連れていってくれた。幼児向けの言語学習の本と料理の本、あとは歴史書を買った。一冊金貨5枚。製本技術がしっかりしていないだろうから5枚というのはかなり高い方なのだろう。
魔法に関する本はなかった。が、アイリスとセオは魔法が使えるらしい。また喋れるようになったら教えてもらおう。とにかく言葉が喋れないと何もできない。
本を買い終わると、次はセオが巨大樹に連れていってくれた。セオは巨大樹に近付き、木に触れる。
「おー...」
セオの周りに...なにかエネルギー?のような物が目に見えて溢れている。魔力だろうか。そういえば光る花に触れた時もあんな感じだった。あれと同じ要領だろう。
この世界は自然界から魔力を得ている感じかな。完全に俺の考察と観察からになるが。
木や植物から魔力を得れば植物系の魔法を。水から得れば水系の。確認できたのは植物、水、火の三つのみ。光や闇系はどうなのだろうか。闇はないと思うが、光にはエネルギーがある。光からエネルギーを得れれば日中は無敵じゃないか。エネルギーの話になれば重力もそうだ。食べ物や細胞までもがエネルギーを持っている。今度2人に魔力の吸収の仕組みも教えてもらおう。
巨大樹を去った後、斗真たちは食事を取りに行った。
斗真はまだこの世界の文字について未だよく分かっていないので注文は2人に任せた。
出てきたのは、緑色のソースのような何かに、形容し難い揚げ物。何が揚げられているのかは考えたくもない。セオとアイリスは美味しそうに食べている。
(この2人の表情を見る限り...味は大丈夫なのだろう...)
斗真は形容し難い揚げ物を一つ取り、謎のソースをかけ食べる。
「セオ、アイリス。これ、あげる。」
2人は「え?いらないの?」と言いたそうにしている。
全然大丈夫よ。大丈夫だから早くそのよだれを拭きなさい。
次に出てきたのは何かの肉。見た感じはビーフである。
(こいつはいけそうだな。それでは早速いただきます....)
「...うん。まぁ。うまい。猛烈に味が薄いけど。」
斗真は食べるしかないよなぁと思いながら味の薄い謎の肉を食べた。ご馳走様っていうんだぞ。
用事を全て済ませた後、俺たちは街を回った。どうやら2人は一度この街に来たことがあるらしく、楽しそうにしていた。正直、昨日の件があるから心配していたけど...大丈夫そうで安心した。
「あー...流石に疲れた...。あの2人活発すぎでしょ....」
斗真はベンチに座り、楽しそうにはしゃいでいる2人を見る。
(親ってほんと大変なんだな....これを毎日四六時中。
帰ったらありがとうって....)
「帰ったら、か。」
これからどうするか。金銭面や生活のこと。まだ何もこれからの未来が見えない。不安でしかないし、本当にあの2人を助けられるのか、というプレッシャーもある。
「俺に...何かができるのか...?」
そんなことを考えていると、何やら喧騒が聞こえてくる。2人の方に目を向けると、明らかに怖いお兄ちゃんに絡まれていた。
「えぇ...なにがあったん....。」
とりあえず助けないと....
「縺?>譛咲捩縺ヲ繧九§繧??縺医°縲ゅ■繧?▲縺ィ縺雁?縺輔s驕斐↓驥代¥繧後h。」
「今は持って縺ェ縺?〒縺...」
(あ〜....カツアゲっぽいな〜....。うわぁ...セオが完全にビビっちゃってんじゃん....)
斗真は間に割って入り、仲裁しようとする
「あー...待って、この、2人、俺の、妹、弟。」
斗真は咄嗟に嘘を伝えなんとかこの場を収めようとする。
「縺ゑシ溘↑繧薙□こいつ溘■繧?s縺ィ蝟九l繧」
(やべぇ...何言ってるかわかんねぇ....こうなったら解決策は一つ。逃げるが勝ちなのだよ!!!)
斗真はセオとアイリスの方へ向き、手を差し出す。
2人は手を取り、斗真は2人に伝える。
「逃げるよ!」
斗真は逃げた!
(うっ....もうしんどい...だが....卓球部エースの実力を見せてやるぜぇええええええ!!!)
「縺翫>���£繧薙↑縺ヲ繧√∴��!!」
「何言ってんのか分かんねえよバーカ!!」
斗真は笑っていた。刺激的な体験!日本では味わえないこのスリル!
「セオ!アイリス!楽しいな!」
2人は困惑し、顔を合わせる。斗真につられたのか2人も笑い始める。
「はい!楽しいです!」
「楽しい...です....!」
そのまま宿屋らしき建物まで逃げた3人は、部屋を借り休息をとる。
(受付する時色んな人からめちゃくちゃ見られたなぁ....やっぱアジア系はこっちだと珍しい人種なのかな....みんな西洋の顔立ちだし...それとも着てる服が制服だからかな?こっちの服も早く買わねえとなぁ...)
ひとしきり物思いにふけた後、斗真はベッドに倒れ込む
「にしても今日はまた一段と...疲れたな...。早く風呂入って寝たいぃ....」
斗真はセオとアイリスが風呂から上がるのを待っていた。
(そうだ、買った本があったな...)
「うへぇ....アルファベットみたいな感じかよ....」
異世界の文字は全部で38文字。地球に存在する文字とは全く違う。
(どうやって発音するのかわかんねぇ...一応挿絵的なのはあるけど....)
「ル、ルェ...なんだこの発音...ゥィ....いくらなんでも難しすぎやしませんかねぇ...」
部屋の扉が開く。どうやらアイリスとセオが風呂から上がったようだ。
「トウマ、出たよ。」
「ん、分かったー。」
(とりあえず、風呂に浸かって疲れを癒そう...)
「....浴槽が....ねぇ....」
浴槽は日本独自の文化と言ってもいい。アメリカやヨーロッパのお風呂には基本的に浴槽はなく、ゆっくり浸かれるのは温泉などだけである。
さらに、文明レベルが地球よりも低いこの世界では、大量の水を一度に温める事は難しい。その為浴槽のような大量の水を使うようなものは実現不可能だったのである。
「と、とりあえずシャワーだけでも浴びるか...こっちもどうやって使うんだよ....。この紐を...こうか....?」
斗真は側にある紐を引っ張ってみる。
「お、出た出た。....ぬっる....。シャンプーは...これかな。うおっ...匂いキッツ...。え、てかトリートメントないの。えーやだー髪の毛絡まるんですけどー。」
文句ばかりである。郷に入らば郷に従えということわざを教えてやりたい。
「ふぃー...風呂も風呂で色々疲れたぜ....」
風呂から上がった斗真は部屋に戻る。
「ん、セオ、まだ起きてたのか。どうか、した?」
「あ、とうま...さん。」
「セオ。さん、いらないよ。」
「分かった。じゃあ...兄さんって、呼んでいい?」
「え、なぜ。」
「とうま、僕のこと、弟って。」
「あー....(言っちゃったなーそういえば...。今後ああいうことがもう起きないってわけじゃないし、まあいいか。あと可愛いし。)」
最低である。
「うん。大丈夫だよ。」
「やった。ありがと、兄さん。」
セオはにこっと笑う
(可愛い)
可愛い。
「それで、どうかしたの?」
「あ、そうだった」
(可愛い)
「魔法、見せてあげる」
「え、本当?」
「うん。僕の得意な魔法は植物系。木とか、花を作れる。」
そう言うとセオは手に魔法陣を作り、花を一輪出してくれた。
(これが....魔法...。タネも仕掛けもない、本物の...)
斗真は言葉を失う。
「え、あ、ごめんなさい、兄さん。嫌だった...?」
「あ、いや、違う、大丈夫、だよ。とても、嬉しい。」
「そっか。良かった、兄さんに喜んでもらえて。助けてもらってから何もできていなかったから....少しでも役に立ちたいなって。」
(助けてもらって、か。でも俺は、あの人を...恐らく母である人を助けられなかった...)
「セオ、俺は。君の...おそらくお母さんを...」
しまった。言ってしまった。今言ってしまったら...
「兄さん。」
斗真はハッと顔を上げる
「兄さん、分かってる。僕達のお母さんはもう死んじゃった。でもね、それは兄さんのせいじゃ無い。お母さんを殺したのは兄さんじゃないでしょ?」
「で、でも、」
「でも、じゃないです。兄さんは僕たちを助けてくれた。これは普通のことじゃないんです。もし他の人だったら僕たちのことなんて見捨ててた。でも兄さんは助けてくれた。僕にとって、兄さんは英雄なんです。」
「英雄...。」
「あんなに大きなドラゴンに立ち向かう姿は、本当にかっこよかったです。」
セオが何を言っているか、4割は理解することはできなかった。が、俺のことを励ましてくれているのは分かる。
「ありがとう、セオ。」
「ううん。大丈夫ですよ、兄さん。そうだ、一つ、お願いをしてもいいですか。」
「うん、いいよ。」
「今日、一緒に寝てくださいませんか。少し、不安...怖いのです。」
「もちろん。怖い、なら、手、も、繋ぐ?」
拙いながらも、勇気を出して伝える。
「はい、是非お願いします。」
二人は布団に同じベッドに寝そべる。
「兄さん...あったかいね。」
「あぁ、そうだな。」
セオは瞼を重そうにしている。色々ありすぎて疲れたのだろう。
「...おやすみ、セオ。」
「...おやすみ...兄さん...」
セオは寝ている時、何かに怯えているようにうなされていた。外からは強く見えても、中身はまだ幼い子供だ。俺がしっかりしないと....。俺が....守らないと....。
ーー夢を見た。異世界の友人と楽しく遊んでいる夢を。一緒に劇団を見に行ったり、冒険したり...。明日は何をしようかな。朝が来ても、もう憂鬱じゃない。週末に予定はないけれど、きっと楽しい日々になる。
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