異世界人は異世界に憧れを抱くのか?

@Uta_T

第1話:第一村人発見!!

昔から異世界に憧れていた。剣と魔法の世界、見たこともないような魔物や、個性いっぱいの仲間達と共に長い、長い旅路を冒険して。

たくさん笑い合って、たくさん泣き合って、愛を語り合ったり、たまに喧嘩もしたりして、そうして最後には幸せなハッピーエンドを迎えて。

こんな退屈な世界なんかより、ずっと輝いて見えた世界だった。



「うーん...ここは....」

目が覚めると森の中。だが俺のよく知る森ではなかった。

七色に光る花、空に浮かぶ大きな2つの....惑星...?と太陽。そしてしまいには優雅に空を飛ぶドラゴン。

俺は確信した。異世界に来てしまったのだと。


「ついに来ちゃったかぁ...異世界。」

などとクールに決めながらも、内心では喜びのあまり情緒不安定になっている。

異世界転移。最近の若者の間で大流行しているジャンルであり、誰もが夢見る現象である。

(うっひょおおおまじかぁ!?すげぇ!!!本物の異世界だ!!毎週神社にお参りしててよかったぁああああ!

え、え、え、まずどうする?モンスター蹴散らしてレベリングする?それとも神様の手違いで転移しちゃって俺tueeeeする?え、スキル確認しちゃう?やっちゃう?いやぁこまっちゃうなぁ!俺まだサインとか作ってないんだがな〜w)

斗真は手を前に出したり、「スキル:ステータス!」とか言っちゃったりしてみる。


が、いくら試行錯誤してもステータス表示画面が出てくることはなかった。

斗真は当然だが魔法を使ったことがない。そんな人間が魔法を使うのは不可能に近いだろう。


斗真はこの日、ステータス確認の試みに2時間を費やした。


「...ま、まあ?もしかしたらステータス見えない系の世界かもしれないし?しょうがないっていうか?」


(とはいえ、困ったな。これからどうしたものか。こういうのってまず周りを探索して魔物に襲われてるヒロインとか助けたりするよな....とりあえず歩くか。)

「フッ。この俺の勇者物語は今始まったのだ...!」

厨二臭いセリフを吐きながら一歩踏み出そうとする斗真。



20分後。

斗真は一歩を踏み出すことができずにいた。びびっているのである。

普通に考えてドラゴンもいる世界の森なんて恐怖でしかなかったのである。

「う、うごけねぇ...何かの魔法かッ!」

びびっているだけである。

(武器もないから今モンスターとエンカしたら普通に死ぬ。魔法も戦い方もしらねぇ...。)

暁斗真17歳。スポーツ経験は卓球を5年。あれだけ異世界転移に憧れていたのに何故武道系の部活に入らなかったのか。



しばらく拘束魔法(笑)と戦っていると茂みから物音がする。

「ヒュッ《《》》」

斗真は驚いてしまい変な声が出る。

(....何....今の音....後ろの茂みから...?)

斗真は振り返るのを躊躇い、ようやく一歩前へ踏み出す。

「い、いやぁ〜。異世界と言っても、な、なかなか異世界っぽいイベントに出くわさないものだな〜。」

確実に、後ろに何かいる。逃げるように歩くスピードが速くなる。

(お願いどっか行ってどっか行ってどっか行って神様仏様イエス様ぁ!)

「キュ〜」

後ろから聞こえてきたのはなんと、可愛らしい声ではないか。

(な、なんだ。可愛い声じゃないか。多分うさぎとかだろう。)

安堵し、ちょっくら撫でてやるか〜?などと思いながら振り向く斗真。

そこにいたのはうさぎなんてものじゃない。殺戮者だった。

体の大きさは大型トラックほど、腹からは触手がうねうねと生えてきており、今にも斗真を捕まえんとする。その上大きな口には大きな牙と、獲物のものであろうか。血と肉が大量についている。そして仕上げに、最高にキュートな猫耳。

「あはは〜猫ちゃんだ〜死のう。」

猫ちゃん(さつりくタイプ)は触手を斗真へ伸ばし、捕えようとする。

「うぉっ!!あっぶな!」

斗真は間一髪に所で避けそのまま逃げる。


「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!!あんなモンスター見たことねえよ!!どこの生物兵器だよ!!」

斗真は茂みに隠れてやり過ごす。

(声出すな声出すな音出すなバレたら死ぬバレたら死ぬ!!!)

心臓が激しく鼓動する。

(死にたくない死にたくない死にたくない!!)

どれほど時間が経っただろうか。殺戮系猫ちゃんはいつのまにかいなくなっていた。

「...はぁ...死ぬかと思ったぁ....」

疲れがどっと押し寄せ、地面に寝転がる。

(あーまじでこのまま寝れる...でも今寝たらさっきみたいなやつに食われるよなー...でも動きたくねえ....)


美しく広がる空をぼーっと眺めていると人の叫び声が聞こえた



「!! 人!? 誰かが...助けを求めている...?ちょっとイベント詰め込みすぎだって...もう疲れたのに...」

(とりあえず何か武器になるような...。! これだ!)

斗真はひのきのぼうを手に入れた!

とりあえず今はこれで...!





しばらく走るとようやく人の姿が見える。だが、どうやら居たのは人だけじゃないらしい。

「うっそだろおい....」

目の前にいるのは紅く大きなドラゴン。

目の前には馬車と女の子と、男の子がいた。兄妹だろうか...?

(やべぇ!助けねぇと!)

「おい!ドラゴン!こっちだ!」

斗真はドラゴンを呼ぶが一向にこっちを向く気配がない。

(チィ!俺にゃ興味ねぇってか!)

「あーそうかい!だが俺は伝説の転移者だ!死んで後悔しても遅いぜ!」

斗真はそういうと2人を庇い、ドラゴンの前に立ちはだかる。



(....あ。でけぇ。)

あまりの迫力に思考が停止する斗真。

(死ぬ...死ぬ?ここで?まだこっち来て何もしてねぇのに?いや違う。まだだ。まだ死ねねぇ!斗真様の勇者伝説はここからなんだッ!異世界ハーレムが俺を待ってるんだッ!!」

震える手にもう一度手に力を込め、ひのきのぼうをドラゴンに投げつける。

「ぐっ!!!2人とも!!逃げるぞ!!!」

「!」

2人の手を引き逃げる。

「やばいやばいやばいやばい!!!死ぬ!絶対死ぬ!!」

「縺ゅ↑縺�...縺ェ繧薙※險縺」縺ヲ...」

「クソッ!なんて言ってるかわかんねぇ!」

「蠕?▲縺ヲ?√∪縺?鬥ャ霆翫↓縺頑ッ阪&繧薙′?!!」

「うぇ、うぇぇ!?なんて言ってるかわかんないですすみません!!!」

後ろから馬車が潰れる音が聞こえる....なぜ馬車を狙っているんだ...?



どれくらい走っただろうか。

300メートルは走っただろう。2人の手を離して木にもたれかかる。

「ハァ...ハァ...!!し、しぬ...ちゃんと走り込みしとけばよかった...さすがに...2回連続走り込みは....死ぬて....。」

2人の方を見る。元いた方向をずっと見続けている。

「...?どうしたんだ?」

2人が立ち上がり、おぼつかない足取りでドラゴンの場所へ戻ろうとしている。

「ちょ、何してんの...ハァ...ハァ...まって...そっち...だめ...」

聞こえなかったのだろうか。いや。聞こえているのだろう。意味が伝わっていないのだ。

「くそ...ハァ...待って、えーと...」

斗真は2人に追いつき、向こうが危険であることを身振り手振り教える。

「えぇと...あっち、がおー...ドラゴン....たべる....ぱくっ、OK?」

2人はそんな斗真を見向きもせずに歩いていく。

「あぁ!もう!」

斗真はもう一度ひのきのぼうを手に入れ、2人についていく。



「ドラゴンは...すでにいない....逃げたか...?」

斗真は一先ず安堵し、2人の方へ向く。

「えぇと、、にーはお?ハロー?それとも...コップンカー?」

それは挨拶じゃない。

すると突然、涙を流す2人。

「え、え、ごめんなさい!だだだ、大丈夫ですか?!」

2人の視線の先にあるのは馬車だ。ドラゴンに食われるなり踏まれたりしたのだろう。馬車はグチャグチャになっていた。

(あ。察した。これ馬車の中に人いたわ。)


吐き気を催す。

「おぇ...気持ち悪い....人が....死んだ....?嘘だろ...?来て初日のイベントがこれかよ....うっ...おえ...」

斗真が吐いている間にお嬢様は馬車の方へ歩いていた。

「!! だめだ嬢ちゃん、坊ちゃん!見ちゃ...おえっ...」

馬車に辿り着くと、2人は膝をつき、声を出して泣く。

「....クソッ....」

斗真は咳き込みながら2人に歩み寄り、座り込む。

「すまない....助けられなかった....俺の...せいだ.....」

2人は斗真の方を向くと、斗真に抱きつき、また大きく泣き始める。

「え、あ、え、えと、ご、ごめんよ、ごめんよ....大丈夫だよ....」

斗真もまた抱きつき、2人を宥める。




日が暮れ始める。

夜になれば凶暴な動物が活動を始めるだろう。

2人は泣き疲れて眠っている。今のうちに安全な場所へ移動しよう。

「....の前に馬車を少し探してみるか。何かがあるかもしれない。」

木片を除けずつ、斗真は馬車を探索する。

「!!!  手だ...血が流れてる....」

生きてるかもという希望を抱きながら、斗真は手を取る。文字通り手をのだ。

(!? これ、ちぎれて....!)

「うっ...けほっけほっ...」

「はぁ、はぁ、なんとか、耐えた...。強くならないと...ハーレムも勇者伝説も夢のまた夢だ...」

カーテンのようなものを破り、手を包み優しく地面に置く。

(助けられなくて、ごめんなさい。)

探索を...続けよう。


「剣と短剣、これは...マスケット銃?だっけかな。随分と小さいタイプの...」

「ん?なんだこれ...宝箱みたいな....」

2人の方を見る。

(...この子達が落ち着いてから、詳しく話を聞こう。言葉通じないけど....)


戦利品: 麻袋、剣、短剣、マスケット銃、火薬のようなもの、弾丸数発、豪華な飾りの宝箱、マッチ、お金?のようなコイン、布


手は埋めて墓をたてることにした。

(また戻ってきます。それまでは...これで。)




(さて...どこに移動しようか。この世界の空には太陽の他にでかい惑星が二つある。地球とは明らかに違う。地球みたいに月があるかも分からない。月がなければ夜は真っ暗だ。一応マッチとか持ってきたけど...それでも十分危険だろう....)

「まとにかく今は歩いてみるしかないか。」

(とにかく歩くしかないか...)

男の子をおんぶ、女の子をだき抱え、歩き始める。

(うぅ....おもいぃ...でも...がんばらないとぉおお...)




少し歩いて気づいたことがある。

この世界の自然は日本の物と全く違う。

高層ビルほどの大きさの木もあれば、腰ほどの高さの木もある。

光る花や元の世界にもあるような花、明らかに毒々しい花などいろんなものがあった。

光る花に触れてみると、謎の感覚が身体中の血管や神経を走っていた。

これが魔力...というやつなのだろうか。三輪だけ貰っていくことにした。


次に動物。夜が近づき活動を始める動物が増えたが、大人しい動物が大半を占めていた。中には殺意マシマシ系動物も何匹かいたが、離れて静かにしていれば向こうから離れていった。

一度本気で追いかけられてちょっとちびったのは秘密。



夜が訪れた。

幸いにも月はあったため、視界は確保できた。

だが移動が困難になってきたので、雨が降っても凌げられるような空洞に一旦拠点を置いた。


気温が下がってきたので焚き火を作る。

(剣で木を削って....木を組むように...火をつけて...)

勢いよく火がつき、パチパチと心地の良い音が空洞に響く。

「おぉ....キャンプ術学んでてよかったぁ....。

....結局、一回もキャンプ行けなかったな。みんな勉強で忙しそうだったし。」


日本を思い出す。

安全で、毎日面白みもない同じことの繰り返し。飽き飽きしてたけど、

「....帰りたいな。」

口を塞ぐ。何を言ってるんだ。この世界にいればハーレムだってチート能力だって手に入れられる。今更帰ろうだなんて....。

心地良さそうに眠る2人を見る。

一応、掛け布団として俺のジャージとカーテン破っただけの布を使ってるけど...。風邪をひかないといいんだがな。


そうだ。俺がこの子達を守らないと。この子達はまだ幼い。

俺が、助けないと....。

だめだ...眠い...動きすぎたんだ.....。

そのまま斗真は深い眠りに落ちた。

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