第8話 オートヒールを発動する

「この森を越えればすぐに王都です」


 ラフィーナが俺に話しかけた。


 俺は今、馬車に乗っている。

 教会のある街を出発してから、王都のアレフガンドへ向かっていた。


「王都に着きましたら、すぐに王宮へ行きましょう。一刻も早く、王女殿下を診てもらいたいので」

「わかった」


 ラフィーナは焦っている。

 王女殿下の状態は、かなり深刻みたいだ。


「先を急ぎましょう——」


 ガタン……っ!

 馬車の外で大きな音が鳴り、動きが止まる。

  

「ま、魔物だ……っ!」


 御者が叫び声を上げる。

 俺とラフィーナは、馬車を降りた。


「これは……エリートゴブリンですね」


 緑色で背の高いゴブリン。

 ゴブリンの中でも知能が高く、人間並の知性を持つ危険な魔物だ。


「六体もいるな」


 どうやら俺たちは、エリートゴブリン囲まれた。

 ゴブリンのくせに剣を装備している。


「大人しく、大聖女を渡せ」


 エリートゴブリンの一匹が、近づいてくる。

 こいつらの目的は、ラフィーナみたいだ。


「断る、と言ったら?」


 そう俺が言うと、


「皆殺しだっ!」


 エリートゴブリンは剣を引き抜き、素早く動いて——


「きゃあ……っ!」


 ラフィーナの服が、引き裂さかれる!

 ——ぽよんっ!

 ラフィーナの大きな胸が露わになって……

 一糸纏わぬ、生まれたままの姿になる。


「きゃあああああああっ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ……っ! エロい身体だぁ! 魔王様に渡す前に楽しめそうだぁ!」


 ラフィーナの裸を見て、エリートゴブリンは舌舐めづりをする。


 ……魔王。

 こいつらは魔王の手先か……?

 このゲームでは、たしか人族と魔族で戦争をやっている設定。

 大聖女は人族にとって貴重な人材だ。

 俺たちがこの森を通る情報を何らかの方法で知って、待ち伏せしたのだろう。


「死ねっ!」

「ぐは……っ!」


 護衛の騎士の首が飛ぶ。

 ごろんと、俺の足元に首が転がった。

 こいつら、かなり素早いな……


「はははっ! 次は貴様だぁ!」


 エリートゴブリンたちは、残忍に笑う。


「グラスト様! 逃げてください! ここは私が囮になります! グラスト様は王女殿下のところへ——」

「おいおい。女の子を置いて、逃げるわけねえだろ」

 

 俺はラフィーナの前に立つ。

 悪徳神官のグラストなら、ラフィーナを置いてすぐ逃げるだろう。

 だが今は違う。 

 もうクズムーブはしない……!


「神官が我らに勝てるわけがないっ! ズタズタにしてやるっ!」


 六体のエリートゴブリンたちは一斉に、俺に襲いかかる。

 六本の剣で、俺は斬り裂かれた——


「?! なぜだ……? たしかに斬ったはずが……」


 その通りだ。

 俺はたしかに剣で斬り裂かれた。


「いったいどうして……?」


 後ろにいたラフィーナも驚いている。


「俺は斬られた。だが、一瞬で治癒してしまえば、どうってことないだろ?」

「一瞬で治癒って……まさか?!」

【自動治癒】オートヒール——こいつらに俺は殺せない」



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