ざまぁされる悪徳神官に転生した俺、信者を搾取しようとしたのに聖人となってしまう~王女様と大聖女が信者になって俺に大金と身体を貢いでくれる~

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 悪徳神官に転生してしまった

「やっとクリアした……!」


 土曜日の午前5時。

 鳥の鳴き声が、窓から聞こえる。


「これでやっと寝れるぞ……」


 俺がクリアしたゲームは、人気ファンタジーゲーム【ダークソウル・ファンタジー】だ。

 【ダークソウル・ファンタジー】は、勇者が魔王を倒して世界を救うストーリーの、王道のRPGゲーム。

 若干ダークな雰囲気の、リアルティある世界観が魅力の作品。

 

 社畜の俺は、金曜日から徹夜でプレイして、最後のラスボスを倒した。

 画面には、エンディングが流れている。

 主人公とヒロインが、抱き合うシーン……


「……うっ! 意識が……」


 レッドブ〇を飲みすぎたのかもしれない。

 今までぶっ通しでプレイしてきたからな…ん…

 エンディングの曲を聞きながら、俺の意識は遠くなっていった――


 ★


「はぁ、あ……ん、んんっ……ダメっ、恥ずか、しい……!」


 なんだこの、柔らかいものは……?

 

「はあ……グラスト様……優しくしてください」


 甘い声に顔を上げれば、すぐ目の前に金髪の少女の顔があった。

 かなり豪華な部屋だ。

 まるで中世ヨーロッパの、貴族の部屋みたいな……?

 部屋は薄暗く、ロウソクの灯りだけ。

 このシチュエーション――どこかで見たことあるような気がする。


 そして俺は、ベッドで少女に跨っている……っ!

 金髪の少女は素っ裸で、上から下までぜんぶ丸見えの状態。

 さらに俺は、少女のおっぱいを鷲掴みにしていて……


「グラスト様……どうされましたか?」

「グラスト……?」


 グラスト……どこかで聞いたことがある名前だ。

 目の前の裸の少女にも、見覚えがある……

 うーん……どこかで……?


 ベッドの近くに鏡がある。

 鏡を覗き込んでみると……


 映っていたのは、金髪で碧眼のイケメン。

 しかも細身で長身だ。

 前の世界で言えば芸能人レベルの容姿。

 だが、目つきはいかにも意地悪そうだ……

 

 おいおい。ちょっと待て。

 この姿は、ま、まさか……っ!

 グラスト=フォン=マギノビオに転生してしまったのか?

 

 グラストは、ファンタジーゲーム【ダークソウル・ファンタジー】に登場する悪徳神官だ。

 【ダークソウル・ファンタジー】は、勇者が魔王を倒して世界を救うストーリーの、王道のRPGゲーム。

 若干ダークな雰囲気の、リアルティある世界観が魅力の作品。


 グラストは公爵家の三男で貴族だが、神官をやっている。

 ダークソウル・ファンタジーでは、治癒魔法【ヒール】が使える人間が希少であり【ヒール】の使える人間は教会で神官になる。

 グラストは希少なヒールを使える神官であることをいいことに、民衆を搾取しまくっている最低なヤツだ。

 最後には魔族と契約して魔物となって、主人公の勇者に討伐されるざまぁ対象……

 そんなキャラに、俺は転生してしまったらしい。


 そして俺の目の前で裸になっている少女は、リスタ=ファルゼン。

 教会付きのメイドで、グラストに身体を弄ばれるキャラだ。

 最後にはグラストのせいで自殺してしまう……


「グラスト様……もうおしまいですか? あたしは覚悟ができています。最後まで」

「最後って……?」

「もしかしてお忘れですか……? グラスト様とあたしは契約したのです。グラスト様があたしを好きなように孕ませる代わりに、病気の弟を【ヒール】してくれることを……」

「グラストはそんな契約をしていたのか……」


 この世界で治癒魔法【ヒール】を使える人間は3人しかいない。

 勇者と聖女と神官の3職種だけだ。

 医学が発展していないこの世界では、治癒魔法はかなり希少なものだ。

 しかも治癒魔法を使えば、どんな病いでも治すことができる。

 だからグラストは【ヒール】を使うことを条件に、リスタに身体を要求していたのだ。


 マジで最低なヤツだ……

 だが、俺は違う。

 ベッド下に脱ぎ捨てられていた、男物の下着を身に着ける。


「もういいんだ。忘れてくれ」

「えっ……?」


 リスタはひどく戸惑った顔をする。


「あ、あたしの身体がお気に召しませんでしたか? ごめんなさい……っ!」

「違うよ。そうじゃなくて――」

「あたしのご奉仕がダメでしたか? あたし、もっともっと頑張りますから……」

 

 リスタは俺の勇者を掴もうとして――


「本当に違うよ! 病気の弟を連れて来てくれ」

「え……? で、でも……」

「キミは何もしなくていい。弟さんを治してあげるよ」

「お金は……?」

「要らないよ」

「…………」


 リスタは呆然としていた。

 まるで俺が何を言っているか、わからない感じだ。

 たしかに今まで【ヒール】を使うのに、身体や大金を要求してきたクズ野郎が、急に「金は要らない」と言い始めたら警戒する。

 「何か裏があるんじゃないか?」と……

 まあ普通はそう思うだろう。


「信じてくれ。弟さんを救うだけだから」

「…………」


 疑うリスタの手を、俺は優しく握った。

 リスタの目を見て、信じてくれるように訴える。


 ……実は俺は、子どもの頃は医者を目指していた。

 病気で苦しむ人を救いたい――青臭いけど本気でそう思っていた。

 今の俺に治す力があるのならば、俺は人を助けたい。


「……わかりました。弟を連れてきます」

「うん。そうしてくれ。待っている」

 

 少女は服を着て、部屋を出て行く。

 俺もベッドの下に投げ捨ててあった、自分の服を着る。


 どうやらこの部屋は、聖堂教会の神官室のようだ。

 聖堂教会は最高神エオルゼアを崇める、この世界最大の宗教。

 奴隷から王族まで、世界中に信者がたくさんいる。

 貧しい民衆に施しを行っているが、裏では魔族と戦っている。

 ……たしか、そんな設定だったはず。

 

 ゲームの設定では、グラストは公爵家の三男だが、実は妾の子だ。

 母親は平民でメイドだった。

 妾の子であるという理由だけで、公爵家で散々冷遇される。

 たとえば馬小屋で寝起きさせられたり、腐った食事を与えられたり……

 けっこうヤバめの待遇だったはず。

 そんな酷い環境で育ったせいで、性格が歪みまくってしまう。


 そして、グラストは15歳で【ヒール】に目覚めて、力を得てしまった。

 【ヒール】を求める人々を搾取し始める……


「このまま行けば……俺は破滅するな」


 民衆から搾取しまくるグラストは、主人公の勇者――ケアル=クラリレットにボコボコに倒される。

 プライドをボキッボキに折られたグラストは、魔族に魂を売ってしまう。

 最後、魔王の直前に再登場するグラストは、デビル・オクトパスという巨大なタコの魔物になっていた。

 まさに変わり果てた姿……と言っていい。


「グラスト様……弟を連れて来ました」


 さっきのリスタが、小さな弟を抱いて戻って来た。

 な、なんだこれは……?

 リスタの弟は、全身に紫色の斑点が出ていた。

 息が荒く、汗が出ている。

 俺のヒールで本当に治せるだろうか?

 

「はあはあ……」


 俺はリスタの弟の額に手を当てる。

 めちゃくちゃ熱い! かなりの高熱だ。

 【ヒール】を使わないといけないが……魔法ってどうやって使うんだ?

 ゲームだと、魔法は脳内で結果をイメージすることで発動する設定だった。

 たとえば、火の魔法を使うなら、モノが燃えるイメージをするとか。

 だから【ヒール】なら、人の怪我が治っていくイメージをすればいい。


 俺はリスタの弟の身体に手を当てて、脳内で病気が治るイメージをする。

 するとリスタの弟の身体が、緑色の光に包まれる。

 

「はあ、はあはあ、ふう……」


 紫色の斑点が、どんどん消えていく。

 血色が良くなって、汗が引いた。


「弟が……治った?!」


 リスタが声を上げる。

 リスタの弟は、気持ち良そうな顔をして眠る。

 俺も治ってくれて、ひと安心した。


「ありがとうございます……っ! あたしの弟を救ってくれて!」


 リスタは俺に頭を下げる。

 身体を震わせて、ポツポツと床に涙がこぼれる。


「当然のことをしただけだよ」


「グラスト様、本当にありがとうございます……っ!」


 リスタは再び深く頭を下げる。

 それから俺はリスタの弟を抱きかかえて、リスタに渡した。

 再びリスタは俺に頭を下げて、部屋から出て行く。


「ふう……やっと終わったか」


 ……と、やっとひと息ついた俺。

 さて、これからどうするか。


「このまま行けば、俺は破滅するな……」


 破滅を回避するためには、民衆の搾取をやめること。

 そして、なるべく周囲の好感度を上げないといけない。

 あとは……強くなることだ。

 万が一、追放されても冒険者として生きていけるようにするためだ。


「よし。明日から修行だ……!」



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