第92話 ハーフエルフたちと、焼き肉



 東の街マーテオにて。

 

「なんだか急にはらへったぜ……」「おれも……」


 ぐぅ~……とハーフエルフたちから腹の虫の音がした。


「そういえば、あんたたち、ボックスのなかで一億年過ごしてたみたいだけど、ご飯どうしてたの?」


 モブエールが答える。


「あのボックスのなかは、腹も減らないし、眠くもならないんですぜ。また、年も取らない仕様なんでさ、姐さん」

「へ、へえー……」


 ……私の脳裏に、1億年寝ずに、モリガンにしごきを受けているモブエールたちが思い浮かんだ。


 何にせよ、身内がばかやって迷惑かけたのは事実。

 彼らにお詫びと、それと修業をお疲れ様をかねて、美味しいモノを食べさせてあげようと思った。


「皆お腹すいてるでしょ? ごはんにしよっか」

「「「ひゃっは~~~~~~~~~~~!」」」


 ということで、皆でご飯です。

 と言っても、あんまり時間かけるのはNGだ。


 ハーフエルフたち、あんま表には出してないけど、でもみんなけっこーお腹すいてそう。


「今日は……焼き肉だよー」

「わぁ……! 焼き肉っ! わたし、焼き肉だーいすきっ!」


 リシアちゃんが両手を挙げて喜ぶ。


「しあちゃん? やきにきゅって?」


 メイが首をかしげながら、お姉さんであるリシアちゃんに尋ねる。


「お肉を焼いて、食べる! おいしくて楽しい食事だよっ!」

「おー! それは……きたい、たかまりますなっ!」


 さて。

 KAmizonで適当に美味しいお肉と、焼き肉セット(炭火焼きバーベキューコンロ)を取り出す。


「肉だ!」「肉だー!」「肉ぅううううううううううううううう!」


 うぉおおお! とハーフエルフたちが両手を挙げて雄叫びを上げる。

 若干こわい……。


「にくー!」「にーくー!」


 ま、娘達が怖がってる様子もないので、特に注意はしない。


「はぁ~~~~~~~………………」


 テンション上げてる面々とは対照的に、ルシエルが大きくため息をつく。


「どうしたの?」


「あ、いや……なんでもない……。そ、それよりご飯の準備だろう? ミカ神どの。アタシも手伝うよ」


 うーん、何か言いかけていたような気がする。

 それにため息なんてついちゃってさ。


 なにか嫌なこととか、不安なことでもあったのだろうか。

 まあでも、本人が言わないのに、無理矢理聞き出すのも、よくないよね。


 ということで、いったん保留。

 自分で言い出すのを待つとしよう。


 パックに入ったお肉を、トングで焼いていく私。

 今日は私とモリガンが、お肉を焼く。


 うちのアホの神のせいで、迷惑かけちゃったからね。


「じゃ、皆たくさん食べてね」

「「「ひゃっはーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」」


 ハーフエルフ達、皆最初私が肉焼くことに遠慮していた。

 でも……肉を網にのせ、良いにおいを嗅いだ後……。


「うぉおおおおお! 肉うぅううううううううううううううう!」

「なんて良いにおいなんだぁああああああああああああ!」


 とまあ、この通り完全に頭が焼き肉モードになっていた。

 ま、それでいいよ。たんとお食べ。


「姐さん! 肉……いっちゃっていいですか!?」


 モブエールが私に顔を近づける。

 顔……濃いな……改めてみると……。


「う、うん……どうぞ」

「あざますっ! じゃあいただかせていただきます!」


 ぐわしっ、と網の上の肉を、手で鷲づかみにする。

 ちょ、ちょいちょい……。


「箸をとかフォークを使いなさいよ……」

「いただきやす! はぐっ!」


 焼いて熱いはずの肉を、手でつかんで、食べる。

 うーん、ワイルド……。


 むぐむぐ……。

 ごくんっ。


「う゛っ!?」

「う?」

「うーーーーーーーーーーーーまーーーーーーーーーーーーーいーーーーーーぞぉーーーーーーーーーーーーー!」


 モブエールが上空を見上げて、叫ぶ。

 喜んでくれてよかったよ。


「ルシエル、君もお食べ」

「し、しかし……」

「さぁほら。おいしいよ」


 私はルシエルの紙皿の上に、お肉を載せる。

 ルシエルはそこらのひゃっはーたちと違って、ちゃんとフォークを使うようだ。


 はぐっ。

 もぐもぐ……。


「どう?」

「お、美味しいです……」


 あら?

 なんだか薄いリアクション……。


「うぉーーーーー! うまーーい!」

「やばすぎるぅううううううう!」

「肉うめええええええええええええええええ!」


 後ろで肉を絶賛するひゃっはーたちと違い、ルシエルはちょっと箸の進みが遅いのだ。


「すみません……もとより、エルフは肉を好まなくて……」


 確かに、エルフって肉を食べてるイメージ薄いな。

 ハーフエルフであっても、肉は苦手のようである。


「モブエール達めっちゃくってるけど」

「あれはもう……ハーフエルフの形をした別の何かなので……」


 確かに。

 ハーフエルフっていうより、ひゃっはーとか、世紀末って単語がよくお似合いである。


「お肉駄目なら、他のにする?」

「あ、いえ。それでも、別にまずいってわけじゃあないんだ。好きじゃあないだけで」


「そっか」


 何か彼女が好むような食べ物を、食べさせてあげたいなぁ。


 ある程度、食事が進んでいったそのときだ。


「うぉおおおお!」

「か、体にチカラがみなぎるぅううううううううう!」


 ひゃっはーたちの肉体が、さらにもりもりもりっ! と盛り上がったのだ。


「わぁ……! ねえねえまーま! はーふえるふたち、ゴリラになっちゃった!」


 と、メイ。ゴリラって言うのは、比喩表現。

 マジでゴリラになったわけじゃあないから。

 皆筋肉がもりもりの、まっちょになったのだ。

 さっきよりもガタイが良くなってる。


「お、おまえら……どうしたんだ?」


 と代弁の神。


「ふぅん! ミカ神どののお肉をたべたら、体に……ふぅううん! チカラがみなぎってきてなぁ……! ふうぅううん!」


 どういうことだろうか。


「ミカ、お忘れですか?」


 今まで黙って、私の隣で肉を焼いていたモリガンが言う。


「ミカの作る異世界の料理には、現地人達を強くする効果があると」


 あー……そういや、そうだったね。

 なるほど、肉を食べたことで、ステータスが上昇したわけか。


「体にチカラがみなぎる! 栄養が血液を流れる! 細胞が体からあふれ出るぅう!」


「きもいわっ! 体から細胞が出てきたらっ!」


 いやまあ、確かに筋肉が体からあふれんばかりに、もりもりになってますけども。


「ひゃっはー! これで姐さんやルシエルに迷惑かけずにすむぜ!」

「ひゃっはー! 進化したおれたちに、リーダーのツッコミがあれば無敵だぜぇ!」


 リーダールシエルが、大きくため息をつく。

 多分この中で一番お疲れなのはルシエルだろう。

 疲れを取るためには、甘い物が一番だ。


「と、とりあえず……その、食後のデザートでもどう?」


 KAmizonで買った、バニラアイスに、黒蜜ときなこをかけた、疑似牛●アイスを作って、彼女に出す。


「!? こ、これは……?」


 ルシエルが紙カップにはいったアイスを見て、目をむく。


「アイス。冷たいデザートだよ」

「で、デザート……」


 ごくんっ、とルシエルが生唾を飲む。

 そして、スプーンで一口掬って、食べる。


「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」


 お肉の時から一転して、ルシエルの顔に、笑顔が戻る。

 ぴこぴこ、と長い耳が上下に揺れる。


「んまいっ!」

「そか。良かった良かった。もっとお食べ」

「はいっ!」


 牛●アイスを食べまくるルシエル。

 ばくばくばく! と、肉と違ってかなり好印象だ。


 一方、ひゃっはーどもは「これも美味いけど肉のがうまい」「肉がほしい」「適当に森で獲物狩って食う?」とかのたまっていた。


 スイーツより肉派なのね君たち。


 一方ルシエルは涙を流しながら、アイスを食べてる。


「冷たくてあまくて美味しい! こんなデザート生まれて初めてだっ!」


 そういや、この子チョコもうまそうにたべていたし、甘い物好きなのかも。


 するとにやり……とモリガンが笑う。


「ミカのそばにいれば、いつでも、この美味しいアイスが食べれますよ? ね? ミカ?」

「そうだね。いつでも食べさせてあげるよ」


 特にこの子は、今後このひゃっはーたちをまとめ上げる、大変な役につくわけだからね。

「ミカ神どの……アタシ……頑張る。正直、ひゃっはーども……まとめるの、いやだったけど」


 あ、いやだったんだ……やっぱり……。


「でも、このアイスが食べられるなら……頑張る……」

「さすがです、ミカ……!」


 待ってました、とばかりに、モリガンが拍手する。


「やる気の無い部下を、餌で釣って、やる気を出させるなんてっ! 見事な知将っぷりです!」


「いや言い方……。別に餌で釣ってないよ……」


「でもルシエルは、もうミカのアイスなしじゃ、生きられない体になったようですよ?」


 ん~♡ とルシエルが至福の表情でアイスを食べてる。

 まあ……結果的にアイスで釣った形になったけども……。


「ミカの心算鬼謀っぷりには、舌を巻きます!」

「……とりあえず、飯食ったらさっさと天界に帰ってね、モリガン……」


 

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