第84話 世界樹を娘にする



 ニーズヘッグが世界樹にかじりつくのを辞めた。

 さて、あとは世界樹を元通りにして、雫をゲットするだけである。


青嵐せいらん朱羽あかはね、よろしくね」


 ボックスから青龍、朱雀すざくの子が現れる。

 青嵐せいらんの水は回復薬となっており、朱雀すざくの炎は毒を薬。


 青嵐せいらんたちは飛び上がって、世界樹の上を旋回。

 雨と、火の粉を振りまく。


 黒ずんでいた木の幹が、みるみるうちに元の色へと戻っていく。

 ニーズヘッグの魔神の毒が浄化されていくのだろう。


 が。


「お母様っ、大変! 木が……枯れたまんまですー!」


 たしかに葉っぱが枯れたままで、元に戻らないのだ。


「樹木から魔力が感じられない……。ミカ神様、多分まだ木は傷ついたままなようだ」


 傷ついたまま……?


『ごめんね、お姉さん……おいらがかみかみしちゃったから……』


 ツチノコ、もとい、ニーズヘッグがしょぼくれている。


 娘はよしよし、とニーズヘッグの頭を撫でる。


「大丈夫です! ミカお母様なら、なんとかしてくれますっ!」

「当然、ミカならこの程度の問題、簡単にクリアしてしまうでしょうとも」


 ま、なんとかやってみよう。


 まずは、木が修復しない理由を、全知全能インターネットで検索してっと……。


~~~~~~

世界樹が修復したい理由

→精霊核が傷ついてるから


精霊核

→世界樹の力の源、魂と言える存在

~~~~~~


 どうやら世界樹には、精霊核っていう核が存在するらしい。

 場所は全知全能インターネットで検索してすぐにわかった。


 木の根元の隙間から、中に入れた。

 そこは自然の祭壇のようになっていた。


 祭壇の上には、ひび割れた、結晶が鎮座している。


「これが精霊核です。かなり損傷が激しいようですが」


 モリガンがうなずいて言う。

 手のひらサイズの結晶だ。


 全体的にひび割れており、真っ黒にくすんでいる。


「治さないとですねっ」


 リシアちゃんが精霊核の元へ近づいて、触れようとする。

 スカッ……。


「あ、あれあれ? お母様っ。精霊核に触れることができませんっ!」


 私たちも近づいて、手で触れようとする。

 リシアちゃんの言うとおり、精霊核に触る前に、手がすり抜けてしまうのだ。


「精霊核は世界樹のいわば、魂のようなものです」

「なるほど……魂は触れることなんてできないものな……」


 モリガンの言葉に、ルシエルが同意する。


「実態がないってこと。そうなると、修復しようもないじゃあないか……」


 ルシエルが悔しそうにしている。

 治す手立てがない、力不足をなげいているのだろう。


 まあしょうがない。

 こっからは、神の領分だろうしね。


「ミカお母様……」

「大丈夫。私に任せなさいって」


 娘の領地にあるものは、全部娘のものだ。

 そして、母である私は、娘の笑顔のために、必要なことをする。


 まずは、全知全能インターネットで検索。

 直し方を調べて……うん。よしっ。


「やり方はわかった」

「どうやってなおすのです、ミカ? 実態のない魂を修復するなんて……」


 青嵐せいらんの水でも、聖灰でも、魂の修復は不可能だった。


「物理的な手段じゃ、魂は修復できない。なら簡単。物理的じゃあない手段で、治せば良いんだよ」


 その場に居る全員が首をかしげる。


「眷属にするんだよ」

「け、眷属に……? どういうことですか、ミカ?


「《眷属になろう》で名前をつければ、進化するでしょう? 進化すれば、形が変化するじゃない?」


 物理的修復が不可能なら、進化させ、その際に体(魂)の傷も治せる……らしい。


「せ、世界樹を眷属……? ミカ神さまは、そんなことできるのか……?」

「確かにミカは、物体を眷属にすることができていた。なら世界樹も……できる……と思われます」


 ルシエルとモリガンが半信半疑って顔してる。

 でもリシアちゃんだけは、今もなお、私に対して信頼してくてるのがわかった。


 口を挟まず、行方を見守ってくれてる。


 よし、お母さんやるぞ。


「眷属になろうを、起動。そして……名前を付ける」


~~~~~~

メイ

【種族】世界樹

~~~~~~


 巨大な木と、お隣のさんぽ怪獣の出てくる映画から、名前を拝借することにした。

 世界樹に名前を付けた、そのときだ。


 カッ……! と世界樹の精霊核が輝きだしたのである。

 大転移グレーター・テレポーテーションで、全員で外へ移動する。


「わー! すごいです、お母様っ! 世界樹が元に戻ってますー!」


 枯れかけていた世界樹。

 しかし今は、木の枝にたくさんの、みずみずしい青葉が生えてる。


 そして、全体的に光り輝いていた。

 これが……世界樹本来の姿なのか。


 ぽた……ぽた……と。

 世界樹の枝から水滴が垂れている。


 私は手で器を作り、水滴を受け止める。


「これが世界樹の雫ですよ、ミカ」

「マジか。やったね」


 これでミッションコンプリートだ。

 ボックスを取り出し、しばらく放置しておく。


 あとはこのボックスないに雫がたまるって寸法だ。


~~~~~~

世界樹の雫

→世界樹から分泌される特殊な液体。

完全回復薬エリクサーの原料

~~~~~~


 全知全能インターネットでしらべて、ちゃんと本物だってことが証明された。

 ふぅ、やれやれ。これで一件落着ですな。


『ありがとー!』


 ……え? 

 どこからか、女の子の声が聞こえてきたような……。


 ぱぁ……! と空中に精霊核が出現。

 そして強く光と……空色の髪の毛の、可愛い女の子が出現した。


「この子って……? まさか……」

「世界樹の精霊ですね」


「せ、精霊……?」

「世界樹の意志が具現化したものです。この世界樹は若木、つまりまだ赤ん坊のようなもの。年を経ないと精霊は生まれないのですが、ミカが力を与えたことにより、精霊が生まれたのです!」


 つまり……私がこの世界樹を、進化させたことで、精霊が生まれたってこと……?


「お母様! また、子供を得たのですねっ! つまり……わたしの妹っ!」


 まあ……そうか。

 どら子、だぐ子に続き……第四の娘ができたわけだ。


「まま~~~~~~~~~~!」


 世界樹の精霊……メイが、こちらに向かって駆けてくる。

 何も身につけていなかった。全裸だった。


「ままー!」


 まあ、産んでしまった(物理的に産んでないけど)以上、育ててあげないとね。


「ままっ! ままっ! めい、めい!」

「ああ、そうだよ。君はメイちゃん。私はミカ」

「ままっ!」


 リシアちゃんがそわそわしながら近づいてくる。


「まま、だーれ?」

「リシアちゃん。君の姉」

「おねーちゃんだー!」


 ぴょんっ、とメイちゃんがリシアちゃんに抱きつく。


「おねーちゃん!」

「メイちゃん!」


 二人がふふふっと笑っている。

 一人っ子だって言ってたからか。とてもうれしそうだ。


「妹が……また増えましたっ! お母様のおかげですっ。ありがとうございますっ!」


 まあ、私が産んじゃったからね。


「めい、まま……お気に入りにとーろくしましたっ!」


 ぱぁ……! と私の目の前に光り輝く水晶が出現。

 それが……ペンダントへと変化した。


 葉っぱの形をした、エメラルドのペンダントだ。


「これなに?」

「めーの、せーれーかく、の、いちぶ! ままに……ふぉーゆー!」


 精霊核の一部をくれるってことらしい。


「これで、めー、いっしょに! せかいじゅのしじゅくも、つかいほーだいっ!」


 しじゅく……ああ、世界樹の雫ってことか。

 ペンダントを手に持つと、水分が滲み出てきた。

 なるほど、これがあれば、わざわざ毎回世界樹にまで雫を取りに来なくて済む訳か。


「世界樹すら支配下に入れてしまうなんて……すごい、ミカ神」

「ミカはこれくらいのことできて、とーぜんですっ。なにせ私の最高神いとしいひとなのですからっ!」


 何はともあれ、こうして私はミッションをクリアしたのだった。

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